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2007年08月12日

【せなか企画】 せな★せな 1−2話 「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」




せな★せな 1話−2
「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」




「……まあ、仮にその話が本当だとしてだ」
 座布団に胡座をかきながら、俺は言った。
 時刻は午前3時過ぎ。こいつらのおかげでまだ眠れそうにない。
 明日は早いってのに、まったく何の因果かと思う。
「本当に決まってるでしょ? あんたってほんっっっっっとに、飲み込みが悪いわね」
「飲み込みが悪いのはそっちだ。それとも脳がまだ壊れてるんじゃないか、さっきので」
「ぬわんですってぇ〜〜〜っ……ってわわわっ!」
 いきり立つワーニャなんとか姫。その拍子に、5冊重ねたラノベの座布団から転げ落ちそうになる。もちろん俺が勧めたわけじゃなく、侍従に持ってこさせたものだ。ビジュアル的には百人一首か笑点のつもりだろう、きっと。
「姫さま、しばらくは目まいなどが続きますので、お気をつけて」
 しれっと言ったのは侍従。一時は自ら仕える姫を社会復帰不能にしかけたが、必死の介護と脳細胞修復銃──もちろん形と使用法は破壊バージョンとまったく同じ──の緊急使用により事なきを得た、らしい。
「姫の方はともかくとして、こっちはまあ話が通じないこともないんだよな、ええと…」
 どう呼んだもんかと思っていると、侍従は鼻眼鏡を指できゅっと押して、言った。
「私の名はクラヴィエ・ノバ・マディキタリスです」
「……そっちも身分が高そうな名前だな」
「それほどでも。格式も教養も武勲においても、あるいは政(まつりごと)においてさえもタウで比肩するものなし、本来なら王たるにふさわしいと良民から噂されること久しい我がマディキタリス家ですが、今はあくまでも新興ゾビス王家を教え導く立場」
 長ゼリフをすらすらとこなし、俺に向かって優雅にお辞儀をしてみせる。
 政治的野心満々な発言な気もするけど、裏があるのは頭が回る証拠、ということにしておこう。

座布団代わりのいかがわしいラノベ上で存分に威張ってみせるチビ姫ことワーニャなんとかさん。侍女クラヴィエの方は冷静だけど、その実なかなかの曲者。ぶっちゃけ王族との立場逆転を狙ってるっぽい節がアリアリだけど、こいつはこいつで色々アレなので、たぶんうまく行かないだろう。

「わかった? クラヴィエはあたしの付き人だけど、あんたなんかよりず〜〜〜〜〜っと頭が良くて有能で、身分だって高いのよ? わかったら今すぐこの干し草を編みこんだ汚らしい床にぺったりひれ伏して、己の不明を詫びなさいっ!」
 姫の方は得意満面、ぜんぜん気づいていないっぽい。よく言えば純粋で善良、悪く言えばバカアホマヌケなんだろう。
「とりあえず、もう一度まとめるけどさ……」
 侍従クラヴィエ(とワーニャなんとか姫)が、俺に話した内容はこうだ。
 彼女たちはもともと、地球から遠く離れた別の惑星で暮らしていたらしい。
 星の名前はタウル・ゾビス、文化とか文明とかがとにかくものすごーく発達していた。それこそ、なんでもボタンひとつでできてしまうぐらいに。
 でも、隣の惑星に原始的で野蛮で凶暴で、どうしようもない種族がいた。いつでも戦争をけしかけてくるおかげで、国土は荒れ果て、人口がどんどん減ってしまった。
 そんなこんなで両種族とも滅亡の危機。SFとかでよくあるシチュエーションだ。
 で、聡明なる(自称)ゾビス王家の呼びかけにより、蛮族はひれ伏して和平に同意。でももう互いの星を攻撃しつくしちゃって、このままでは滅亡を待つばかり。
 そこで、新天地を探すための恒星間移民船が作られた。
 姫と侍従は最初の移民としてその船に乗り込み、冷凍睡眠カプセルで長い眠りについた。
 で、船は順調に航行中──と思ったら、目的地の星に着く前に突然冷凍睡眠が中断してしまった。
 そして、睡りを妨げられた二人を待っていたものは……
「このようなまことに憂慮すべき異常事態だったというわけです」
 かけらも憂慮していない声で、侍女クラヴィエが冷静に言った。
「まったく、同じ壊れちゃうにしても、もっとかわいい壁紙とか床とかがあったでしょ? こーんな下品で臭くてじめじめした牢獄、いくら環境投影でも気が滅入っちゃうわよ」
 俺の部屋をぐーるりと見回しながら、チビ姫は深々と溜息をつく。
「牢獄って、おまえなあ……」
 どう説明したらこの頑固チビ助にわかるものかと、こっちだって溜息をつく。
「おまえってなによっ! 見目麗しきワーニャ姫さまと呼びなさいっ」
「だれが見目麗しいんだよっ! ていうか何度も何度も言ってるけどな、ここはおまえの宇宙船じゃなくて、正真正銘俺の部屋だっての」
「悪い宇宙生物はみーんなそう言い訳して、勝手に巣を作ってうじゃうじゃ単為生殖して、かわいいヒロインが触手でぐるぐる巻きになるものなのよっ」
「だれが単為生殖だっ! ていうかおまえの宇宙生物のイメージ根本的に間違ってるぞっ!」
 まあ俺だって目の前の自称宇宙人な小人2名以外、本物の宇宙生物なんて見たことないけど。
「姫さまのその辺りの知識は、タウル・ゾビスで一部の市民層に大変人気のある特殊な放送番組から得られたものですので」
「なんだよ? 特殊な放送番組って」
「厳しい予算の大半を冒頭1〜2話にのみ振り向けて初動視聴率と話題性を確保、中盤はなりふりかまわずただただ女性キャラクター描写と放送コード抵触寸前の陰部露出にのみ全精力を注ぐことにより、各種関連商品の売り上げを確保、さらに最終数話を敢えて本放送せず後日メディアパッケージでのみ発売することにより総制作費をペイせしめる、そのような類の娯楽番組です」
「………」
「平たく言えばヲ○アニメです」
「……いや、平たく言わなくても充分わかったから」
 血も涙も掲載先への配慮もない侍女クラヴィエの解説をさえぎり、俺は俺の買ったラノベの上でふんぞり返っているモロそういうののヒロインっぽいチビ姫を覗き込んだ。
「まあ、百歩譲っておまえの言うとおり、このアパートがおまえの宇宙船で、俺の部屋が娯楽室だったとしよう」
「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」
「そんで娯楽室にあった映像投影装置だかが壊れたせいで、宇宙船全体にウソのバーチャル映像が流れてる結果がこれだとしてだ……」
「ワーニャ姫よっ! ワーニャ姫っ! ワーニャ姫ったらワーニャ姫っ!」
「……いいか、よーく見てろよ」
 自分の尊称のことしか頭にない極小脳味噌姫のことをびしっと指さしてから、俺は究極の証明手段に出た。
 窓辺まで歩き、つけたばかりのカーテンを開け、ついでに窓も開け放つ。
 ってまあ、これだけなわけだけど。
 外はまだ真っ暗だった。
 ここは地球日本、今年の春から住みはじめた大阪某所のぼろアパートせなか荘の206号室、はるか向こうにミナミの街と通天閣。目を凝らせば星だってちらちら瞬いている。
「どうだ、ワーニャどーにか姫」
「クラヴィエ、おなかがすいた〜」
「いいからまず俺の話を聞けえっ!」
 ラノベ座布団上で腹をさすっている欠食チビの頭をつまみ、体ごときゅっと窓の外を向かせる。
「この部屋が宇宙船なら、窓開けたら空気が抜けて全員死ぬだろ? ところが開けたってなんともない。しかもあっちはフツーに外だ。風も入ってくる、星も見える、コンビニの看板も見えるし車の音だって聞こえてくる。これはどういうことだよ? え?」
 さしもの姫も、この完璧な説明には反論できないらしい。
 しばし無言で夜の闇を眺める。
 そして、ゆっくりと侍従の方を向いた。
「クラヴィエ」
「はい、姫さま」
「こーんな安っぽい疑似体験を本物って信じこんでるわよ、この低能な宇宙生物。おっもしろ〜いっ☆彡」
「………」
 ──メッチャかちんと来た。特にセリフの最後の浮かれた星に。
「いっぺんおまえの体でたしかめてこいっ!」
 わしっと右手でふん捕まえて、そのまま窓のところまで持っていった。
「わーわーわーっ!!」
 手のひらの中でじたばたもがく姫。あいかわらずちびっちゃくて柔らかい。ハムスターとかを握ってるみたいだ。
「せーのっ!」
 大きく振りかぶる。投擲目標、3軒向こうのコンビニ駐車場のゴミ箱(不燃)。
「ああああっ姫さまっ! まったくもって手のかかる困った姫さまが例によって思慮のない言動から性懲りもなく大ピンチにっ!」
 たぶんこれも翻訳機の仕様ということにしつつ、日頃のうっぷんを晴らしまくる侍従。
「かくなる上は、この原子分解銃で……」
 もう説明するのもめんどくさい例のアレを取り出す。
「待て待て。それ、姫だけ消えてなくなって俺は無傷とかのオチだぞ、たぶん」
「……考えてみれば、そうなればなったでむしろ好都合」
「いや、真顔でいきなり本音をつぶやかれても」
「いったん原子レベルにまで分解してから、原子結合銃のツマミを少しばかりアレして、こちらに都合のいい傀儡(かいらい)につくりかえてしまうという手も……」
「それもたぶん蝿が混じっちゃうとかのオチだし」
「クラヴィエ、はやくやっちゃいなさいっ! こんな無礼で低能でいやらしい触手怪獣は原子の塵にしちゃうのよ、今すぐっ!」
「触手なんかないっ! ていうかおまえもいいかげん身近な危険に気づけっ!」
「そういうわけですので、ありがたく実行に移させていただきます──姫さまお覚悟おっ!!」
「こいつもう隠す気ゼロだああっ!!」
 阿鼻叫喚のまさに最中だった。
「……あら?」
 赤いボタンをポチろうとしていた侍従が、不意に耳をそばだてる仕草をした。
 つられて俺も、扉の向こうに耳を澄ます。
 最初は錯覚かと思った。
 だが、それは確実に聞こえ、確実に俺の部屋に近づいてくる。
 今時めずらしい板張りの廊下を、なにかが歩いてくる音。
 『とことこ』ともぱ『ぱたぱた』とも『ひたひた』ともちがう、まったく得体の知れないとしか言いようがない音。
 敢えて言語化するなら…………
 『きゅむきゅむ』とか、そんな感じだった。
 俺に握られていたチビ姫が、目を輝かして叫んだ。
「ごはんが来たっ(はぁと)」




〜つづく〜


【せな★せな バックナンバー】
1話−1 「ここはわたしの宇宙船よっ!」

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