2007年09月09日
【せなか企画】 せな★せな 2−2話 「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
せな★せな 2−2話
「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
「魔導士ティティさま、落ち着かれましたか?」
侍女クラヴィエが丁寧に訊ねた。
「はい……あの、先ほどは大変お恥ずかしいところを……」
困ったような小声で、巫女娘はそう応じた。
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さかんに恐縮しているクス・クスの筆頭魔導士ティティの図。身分も実力もそうとうに高いらしいけど、こうしている分にはとてもそうは見えない。ちなみに、魔導士というのはチビ姫陣営側からの呼び名で、本人的にはあくまで巫女らしい。どう違うか俺にはよくわからないけど。
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頬を赤く染め、特別に用意された座布団(5枚重ね)に置物みたいにちょこなんと座っている。いかにも内気でかわいらしい感じ。さっきまでの愛欲淫乱大騒動が悪い夢のようだ。
「いえいえ、こちらこそこのような殺風景かつ悪趣味な部屋で、もてなしもままなりませんこと、どうかお許しいただければと」
「いえ、わたしも最初は驚きましたが……」
「つーか、俺の部屋はどんだけ魔窟なんだよ」
「どうぞ、粗茶ですが」
「ありがとうございます……」
クラヴィエが差し出した大きな茶碗を、ためらいがちな仕草で受け取る。
恐る恐る口をつけてすすり、目を丸くした。
「お口に合いませんか?」
「いえ、これはこれで乙なものかと……」
……とか描写してるとフツーの光景だけど、両方とも身長が10センチそこそこだ。
会見場所はちゃぶ台の上、お茶は温かいペットボトル緑茶で、さっき俺がひとっ走りコンビニまで行って買ってきた。茶碗はそのスクリューキャップで、注いでやったのも俺だ。あと、ラノベ座布団を侍女の指示通りに重ねてやったのも俺。
なんか、なし崩しに本物の奴隷に近づいてる気がする。
で、謁見を受けているチビ姫はといえば、こっちも座布団ラノベ5枚重ねの上でほっぺたは餅みたいにぷくっと膨らませている。
「ファーストキスだったのに……ファーストキスだったのに〜……」
なにやらブツブツ言ってるし。
さっき巫女娘ティティに思いっきり唇を奪われたのが、よほどショックだったらしい。
「おまえ、触手責めとか大好きなわりに、案外オクテだったんだな」
「それとこれとは話が別っ……じゃなくてだれが触手責め大好きよっっ!!」
「女同士なんだから、気にしなくていいだろ」
「じゃああんたも知らないオスに無理矢理唇吸われちゃったり、舌とか入れられちゃったりしてみなさいよっ! オス同士なんだから気にしないんでしょっ!」
「……勘弁してください」
触ると火傷しそうなので、とりあえず下手に出ることにする。
「で、この娘がおまえらと戦ってた敵ってことでいいのか?」
クラヴィエに顔を近づけて、そっと聞いてみる。まあ、俺が小声で言ったところで小人サイズじゃ丸聞こえなんだろうけど、一応の礼儀だ。
「失礼なことを言うものではありません。タウル・ゾビスとクス・クスの間には永久講和条約が結ばれています。不幸な歴史があったとはいえ、もはや敵同士ではないのです」
理知的な態度を崩さずに侍女は答えたけど、どこか歯切れが悪い感じがする。
俺が聞いた話では、その講和条約とかの後に恒星間移民船がつくられて、両方の陣営が乗り込んで母星を離れた……ってことになっている。で、タウル・ゾビスというのがチビ姫の星だから、クス・クスってのが敵の野蛮人の方なんだろう。
「それにしては両方とも、余所余所しいっていうか、警戒してる感じだよな?」
……まあ、最初の痴態っぷりは緊張と興奮のあまり、ということにしておくにしても、講和条約を結んだ同士の対談にはとても思えない。
「そのことなのですが……」
クラヴィエがさらに声をひそめ、巫女娘が今も握っている杖の方をさりげなく示す。先に大きくて赤い宝石がついたあれだ。大きいっていってもあくまで彼女たちサイズの話であって、俺から見るとまち針ぐらいだけど。
「あちらの見事な紅宝玉は、まさしくクス・クスの筆頭魔導士の証です。光紋のパターンも一致していますし、なにより講和の席上、私がこの目で見たものとまったく同じなのですから……」
例のボタンひとつデバイスを操って、小さなスクリーンを浮かばせながら答える。
「なんだ、会ったことあるのか」
「いえ、クス・クスの筆頭魔導士といえば、全部族の総意により推挙されたお立場、本来ならこちらの王位継承者に匹敵するご身分なのですが……」
俺の答えに、クラヴィエは眉を寄せてみせた。
「恥ずかしながら、ティティさまに関するいっさいのデータがないのです。私が知るかぎり、筆頭魔導士が交代されたという話もありませんし」
「つまり、有名人のはずなのに、だれだかよくわからない、と」
「遺憾ながら、その通りです」
完結に答えたけど、侍女的にはかーなりピンチな状況だろうなと思う。それはともかく、野蛮人の方のリーダーが合議制で、科学力が高い方が世襲制ってのが興味深いところだ。
と、かしこまっていた巫女娘が、ほんのすこしだけ顔をこちらに向けた。
「あの、クラヴィエ・ノバ・マディキタリスさま」
「そんな、もったいのうございます。我が家系もそれなりの名門とはいえ、今はゾビスに仕える立場、どうぞ私のことはクラヴィエとお呼びつけください」
あわてた風に受け答えるが、めっちゃ丁寧に呼んでくれたおかげで、言われた本人喜びまくっているのが見え見えだ。ホントに権力志向なタイプなんだろう。
「ではクラヴィエさま、後生でございます、どうか、どうか魔王さまにお取り次ぎくださいませ……」
巫女娘の方は切羽詰まった感じ、額をラノベ座布団にすり寄せ、切々と言いつのる。
「我がンブンドゥ族の巫女は、魔王さまに身を捧げることこそが定めであり、最高の名誉であり、生きた証でございます。先ほどの失礼は平に、平にお赦しを……」
「ンブンドゥ族?」
また、クラヴィエが首を傾げたのが見えた。それも彼女のデータにはないんだろう。
「しかしながら、魔王さまとはどなたのことでしょう?」
知っていながら品よくとぼける。よく訓練された侍従だ。
「それはもちろん、あちらにおられる……」
巫女娘は顔を伏せたまま、チビ姫の方をちらっと視線で示す。
「……魔王さま(はぁと)」
なんかまた、語尾にちっちゃなハートがついてきたし。
と、一切無視を決め込んでいたワーニャ姫が、すっくと立ち上がった。
「ってあーもうっ! なんなのよなんなのよあんたはなんなのよっ! いきなり王女たるわたしをつかまえて押し倒してキスしたりアレしたりしてその上魔王呼ばわりなんて、あんたどうかしてるんじゃない? ○神▽常なんじゃない? キ◎ガ%なんじゃないっ? ※国産の*食べすぎて脳がス£ン@なんじゃないっ? タ¥フ$飲み過ぎなんじゃないっ?? ロИЯ当局に放Ж性Д質……」
「……社会的にも国際的にも立場が色々アレになるような喩えはそろそろやめてくれ」
うやうやしく頭を下げたまま、巫女娘は神妙に答えた。
「はい、すべて魔王さまのおっしゃるとおりです」
「だから魔王じゃないって言ってるでしょっ!!」
「すべて魔王さまのお心のままに」
「魔王じゃないっ!!」
「はい、魔王さま」
しょーもない押し問答が延々と続く。傍から見てる分には楽しいもんだ。俺も何回チビ姫に『ここはおまえの宇宙船じゃない』って言ったかわからないし。きっと因果応報というやつだろう。
「……………」
埒が開かないと思ったんだろう、チビ姫が一度黙った。
すうううううううっと息を吸い、お腹をぽっこり膨らませる。
で、
「魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃない魔王じゃないったら魔王じゃないっっ!!」
「魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さま魔王さまったら魔王さまっ」
『魔王』×18×2で合わせて36、まんま子供のケンカになってきた。
「魔王じゃないのに〜〜〜」
地団駄踏んで悔しがるチビ姫、それを見つめる巫女娘の瞳が、なんだかとろんとなってきた。
「魔王さまぁ……(はぁと)」
普段は内気で礼儀正しいのに、話が『魔王さま』のことになると、熱にうかされちゃうらしい。静観を決め込んでいるクラヴィエに、俺はまた耳打ちする。
「どういうことなんだか、わかるか?」
「いえ、私にもはっきりとはわかりかねますが……」
クラヴィエも首を傾げる。
「魔導士ティティさま、失礼ながら、我が主(あるじ)を『魔王』とお呼びになるその理由をお聞かせ願えますか?」
「クラヴィエさま、もったいのうございます。わたくしは魔王さまの生贄、どうかティティとお呼びくださいませ」
「ですが、そのような不作法は……」
で、しばらく呼び名についての問答が続く。身分が高い連中は色々めんどくさい。
結局お互い様付けということで妥協したあと、巫女娘が言った。
「魔王さまが魔王さまであられることは、古(いにしえ)から定められていたことです」
着物の懐からなにかを取り出してみせた。
化粧用のコンパクトみたいなもの、小さすぎてよくわからない。
「巫女のみが拝謁を許された魔王さまのお姿です、どうぞおたしかめくださいませ」
「クス・クスにそのような因習があったとは、初耳ですが……」
つぶやきながらクラヴィエが受け取る。
中をぱかっと開いて、まじまじと見つめる。俺も肩越しに覗き込んでみるが、豆粒みたいでよくわからない。
「これは……大変に古ぼけていますし、方々の特徴が誇張されているようですが……」
ボタンデバイスのスクリーンをいくつか表示させて分析する。いつもそういう風に使っていれば説得力もあるし、カッコいいのにと心底思う。
数秒後、クラヴィエが微妙に半笑いっぽい口調で言った。
「ですがたしかに、姫さまのお姿に見えないこともないかと」
「ってなんでクラヴィエまでそんなこと言い出すのよおおおおっ!!」
「ぷぷっ……」
「あ〜今わたしを見て吹き出したでしょ! ちょっとそれなにが描いてあるのよっ、見せなさいっ!」
「いえいえ、こちらはティティさまの御物。姫さまといえど勝手にお渡しするわけには」
「ってめっちゃ気になる〜〜〜っ!」
「魔王さまっ!!」
にわかにはじまった仲間割れに、巫女娘が割って入った。
「魔王さま、どうかお聞き届けください。生贄として召されないのでしたら、奴隷でもけっこうです。どうぞこのティティを端女(はしため)としてお側にお置きくださいませっ」
「あーうっとうしいうっとおしっい!」
必死で足にすがってくる巫女娘を、ラノベ座布団の上からげしげしと足蹴にするチビ姫。高校の時に習った芥川どーにかの小説にこんな残虐シーンがあったよなと思う。
「放しなさいっ! 放しなさいってばっ! 我が王家の名において命ずるっ! 今すぐわたしの宇宙船から出ていきなさいこのド変態っっ!」
「ですが魔王さま、このままおめおめと故郷に帰ったりなどしたら、魔王さまのお怒りでそれはそれは恐ろしい災厄が……」
「そんなものあるわけないでしょっ!!」
「もう降りかかってるけどな、少なくとも俺の部屋には」
「奴隷は黙ってなさいっ!!」
「せっかく奴隷志望がネギ背負ってきたんだから、俺と交代してくれればいいのに……」
「いずれにせよ、今さら戻ることなどできません」
巫女娘がきっぱりとした口調で言った。
居住まいを正し、チビ姫に相対する。
さらりと袖を鳴らし、宝玉のついた杖を掲げた。
今までとちがう雰囲気に、俺を含めた全員が気圧される。
「わたくしはすべてを捨ててまいりました。住み慣れた故郷も、よくしてくれた民たちも、なによりわたくしの……」
その続きを、巫女娘が言いかけた時だった。
ぞくっと、背筋が震えた。
部屋の温度が下がったのかと思ったけど、このボロ部屋にエアコンなんてない。
窓枠やら本棚やらが、意志を持ったかのようにがたがたと動き出す。前にもあったことだけど、もっとずっと凶悪っていうか、ヤバい感じがする。
「おまえがやってるのか?」
「ちがいます」
クラヴィエに訊くと即答した。ものすごい勢いでなにやら分析している。
「……パターン照合……やはり不明、部隊規模推測…………単独っ!?」
……なんか、セリフ内容と慌て方にめっちゃデジャブーを感じるんすけど。
「おい、また似たようなのが来るのか?」
「これは魔導士ではありません。すさまじい情動が直接空間に作用しているのです」
「いや、そう言われてもわけわからんし」
「すぐ近くに戦士がいるのです」
辺りをはばかるような、なにかを畏怖するような早口で言う。
「一人で一軍と対峙できるほどの力を持った、クス・クスの戦士が……」
「一人で一軍って、おい……」
今以上にアレな奴が出てくるってのか!?
そう訊こうとした時には、もうクラヴィエは部屋の隅っこに自分だけ退避していた。
で、もっともらしく叫ぶ。
「姫さま伏せてっ!」
「って結局またこれかああああっ!」
窓ガラスが砕け散り、俺の部屋の畳にじゃらじゃらかしゅかしゅと降り注いだ。
一瞬で修羅場だ、伏せる間なんてあるわけない。
破片がひとつも当たらなかったのは、俺の日頃の行いのおかげだ。
ってわけではないことは、辺りを見渡してたらすぐにわかった。
ガラスの破片は部屋の真ん中を円形に避けて落ちていた。
その中心に、杖を振り上げた巫女娘がいる。
一瞬で魔法を使って、バリヤー的なものを展開したらしい。さすがは魔導士だ、どっちにしても掃除が大変だけど。あと、そんなことできるんなら後でちゃんとガラス直してほしい……とか、俺がみみっちく考えた時だった。
ぱきっと、かすかにガラスを踏みしめる音。
四人目の小人がそこにいた。
ワーニャともクラヴィエとも、ティティという巫女娘ともちがう。
風もないのにたなびく、長くて赤い髪。
きっと結んだ唇、肉食獣のような鋭い瞳。
10センチ強の身体からさえ、戦闘的で硬質な意志がはっきりと伝わってくる。
窓枠も棚もまだ揺れている。まるで、彼女の怒りをそのまま表しているみたいに。
はっきり言って、かーなりヤバい雰囲気だ。
でも、彼女のどう見てもヤバげな特徴を決定づけてるのは、それじゃない。
今時アレなアニメですら絶滅しかかっている、露出過多なビキニ鎧……
「マカマカ姉さま……」
視線を逸らし気味に、巫女娘がつぶやいた。
ためらっているのか、嫌がっているのか、姉の恥ずかしい格好を正視したくないと思っているのか、なんとも微妙な口調に聞こえたのは、俺の気のせいだろうか?
「ティティっ!」
妹を背中で隠すように、大股で立ちはだかる。
その場で右手を背後に回す。
彼女が片手で軽々と振り上げたもの、それに俺は目を見張った。
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最強というかむしろ最狂の戦士、マカマカ姉さんの図。こいつの登場のおかげで事態はさらに大変なことになっていく。ビキニ鎧もさることながら、愛用の剣の非常識さもポイント。ていうか、自分の武器なんだからもっと大事にしてやれよ……
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自分の身体ほどもある、冗談みたいに巨大な剣──
刃の根元には戦闘機のペイントみたいに目と口が彫刻され、他にも凶悪そうな出っ張りがたくさんついている。
そして……
ビキニ鎧っ娘は言った。
「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
〜つづく〜
【せな★せな 関連情報】
■ せな★せな 1−1話 「ここはわたしの宇宙船よっ!」
■ せな★せな 1−2話「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」
■ せな★せな 1−3話 「我が王家の名において、わたしの奴隷になりなさいっ!!」
■ せな★せな 2−1話 「魔王さまに捧げるために、この身をしかと清めてまいりました」
■ こみっく★トレジャー、無事終了しました。ありがとうございます。
■ せな★せなキャラクターソングCD 延期になりました。
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