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2007年09月23日

【せなか企画】 せな★せな 2−4話 「四の五の言わずに戦って死になさいっ!」




せな★せな 2−4話
「四の五の言わずに戦って死になさいっ!」




 第2ラウンド開始か?
 とっさに身構える俺。作戦を考えてみる。いざとなったら戸口までダッシュして脱出、あとはちっちゃい者同士にまかせる。多少家財に被害が出ても、もうそれしかない。
 破壊王のビキニ鎧っ娘ことティティの姉マカマカは、悠然と立ち上がり……
 そして言った。
「あれ? あたしなんで寝てたんだ?」
 きょろきょろと辺りを見回す。
「つーかここどこだ? こいつだれだ?」
 寝ぼけた風に2、3歩進み、畳に転がっていたワーニャ姫に視線を落とす。
 哀れ魔王さまは、奴隷志望の巫女娘に半脱ぎにされ、思いっきりちゅーちゅーもみゅもみゅされたおかげで、局所的にモザイクかけないといけないような、風紀的に大変よろしくない有様で倒れている。
「らめえ……もうやめてぇ……」
 もともと感じやすい性質なのか、責める方がよっぽどテクニシャンだったのか、まだアレなうわごとを言いながら、身体をヒクヒクさせている。
「うわっ。なんだこいつ、キモっ」
 汚いものをどかすように、爪先でつんつん蹴る。
「あわわ、姫さまを足蹴にするなど……」
 とか言いながら、止めには行かない賢明な侍従クラヴィエ。まあ気持ちはわかる。
「おまえ、だれだ?」
 ビキニ姉にぐっと睨みつけらてれたじろぐも、そこは上級貴族っぽくきちんと姿勢を正して答える。
「クラヴィエ・ノバ・マディキタリスと申します」
「くら……?」
 胡散臭そうに繰り返そうとして、ビキニ姉はいきなりその場にうずくまった。
「あああああっ、頭が割れるように痛いっ……」
 後頭部を両手で押さえ、のたうち回る。なんかいちいち動作がいきなりで恐い。
 その様子を見て、俺の背中に隠れていた妹ティティが恐る恐る出てきた。こっちはちゃんと服を着直している。
「まさかマカマカ姉さま、さっきの魔法でとうとう頭が変にっ!?」
 字面だけだと心配してるみたいだけど、実際はめっちゃ嬉しそうに喋っているので声録り時には注意が必要だ。
 だが、妹のアレな期待を裏切って、丈夫な姉はまたもがばっと立ち上がる。
「そうだティティっ! あたしのティティは無事かっ!!」
「ああだめです、単に頭の巡りが悪いだけでした……」
「ティティっ!!」
 求めるものの姿を見つけ、畳を焦がすほどの猛ダッシュで駈け寄った。
「ああティティ、あたしのティティっっ!」
 ビキニ鎧の胸深く、愛しの妹をがばああああっと抱き締める。
「心配したんだぞ? カオナ洞窟の奥とかイモエン沼の底とかマニペトの花の中とかヘネモネの第3胃袋の中とか、姉ちゃん心当たりをめっちゃ探したんだぞっ!」
「そんなあり得ない場所ばかり探されても……」
 妹はあからさまに迷惑顔だ。
「それはそれとしてマカマカ姉さま、どうしてここに来たのですか? クス・クスに暮らす者にとって、月(タウ)は絶対の禁足地だというのに」
 ほとんどキスと区別つかないぐらいに強烈な頬ずりを受けながらも、冷静に問う。
 姉の方はきょとんとしている。しばし考え、こう訊ねた。
「キンソクチってなんだっけ?」
「……いえいいです。たとえ知っていても、姉さまが掟を守るはずないですし」
「なんかよくわかんないけど、ティティがいるとこならどこだって行くぞ、あたしは」
「でも、どうやって? 魔導士でさえここまで転移するのは命がけだというのに……」
 姉は事も無げに答えた。
「泳いできた」
「まさか身ひとつで? 星筏(タルボル)にも乗らずに?」
 素で驚ている妹。要は、宇宙空間を泳ぐみたいにフツーに渡ってきたってことらしい。
「……それ、普通は死なないか?」
 横から訊いてみると、ティティはどうしようもないという風に答えた。
「普通は死にますが、姉は特別体が丈夫なんです……」
「いやいやいやいや、体が丈夫とかそういう問題じゃないし」
「そりゃあ大変だったぞ。途中でめっちゃ息苦しくなるし、月(タウ)に近づいたらいきなり引っ張られるみたいに落ちてって、体とか髪の毛とかから火がボーボー出るし。でっかい池に落ちたからどうにか消えたけど」
 ……おまえのビキニ鎧は大気圏突入シールド兼用か? ガン○ム以上の高性能か?
 自慢げに笑っている姉貴にがっしと捕まえられたまま、妹がぼそっとつぶやいたのが聞こえた。
「燃えちゃえばよかったのに……」
 なんだかものすごく黒いことを言っているが、もちろん姉は気づかない。
「で、池を泳ぎ切るのがこれまた大騒ぎ。ヘトヘトになってたら、めっーーーちゃでっかい魚がいたから飛び乗って、ちょっとずつ肉削いで食いながら陸探したらさ、こいつがなにかっていうと水に潜りたがるから、そのたびにいちいち大ゲンカ。まっ、水ぶぉーって噴く穴から体の中入っていじめてやったら、やっと大人しくなったけど」
 にわかには信じられないけど、たぶんクジラのことなんだと思う。
 戦闘力のありすぎるゼペットじいさん状態というか、緑で平和な団体方面には絶対聞かせられない海の大冒険だ。
「魚全部食いきる前にどうにか陸に着いたから、あとはその辺によくいるみゃーみゃー鳴くケモノとか、ばうばう鳴くケモノとかをテキトーに狩って食いながら、あちこち探し回ったんだ」
 ……たぶんアレとアレのことだろうけど、言えない。俺の口からはとても言えない。
「そんでやっとここを見つけた。なんかつるんとした白くて得体の知れない幻獣が一匹ウロチョロしてたから、すぐに怪しいってわかったぞ」
 ……これはたぶん、あの女の子が連れてるアレのことだろうなあ。
「でもそんなことどーだっていいんだ。ティティ、あたしがいない間どうしてた? 怪我しなかったか? 病気になってないか? ちゃんとゴハン食べてたか? 風呂には入ってたか? 歯ぁ磨いたか? 淋しくなかったか?……」
「……………」
 もちろん妹は無言。
「ああいいからっ! なにも言わなくても姉ちゃんわかってるからっ! 淋しかったんだろ? 恐かったんだろ? もう大丈夫だからなティティ、あたしのティティっ! ああっどうしてティティはこんなにかわいいんだろ? 部族でいちばんかわいいっ、星でいちばんかわいいっ、宇宙でいちばんかわいいっっ!!!」
 髪と言わず頭と言わずほっぺたと言わず首筋といわず、めぼしいところをぐりぐりふにふにすりすりと撫でまくったり頬ずりする。妹はただただされるがままにしている。ハイテンションな飼い主に見当ちがいな溺愛をされ続けた挙げ句、すべてをあきらめている頭のいいチワワみたいだ。
「かわいいティティ〜、あたしのティティ〜(はぁとはぁとはぁと)」
「……姉さま、どさくさに紛れて衣を剥ぐのはやめてっていつも……」
「だって、ティティの玉の肌にちょっとでも傷がついてたらと思うと、あたしは心配で心配でたまらないんだっ!」
「またそんなこと言って……」
「ちょっと見るだけ、見るだけだから、見るだけであとはなーんにもしないからっ。それにそんなこと言ったって、ティティだってホントは嬉しいんだろぉ? いやよいやよも好きのうちってコトワザだってあるしさあ……」
 溺愛を通り越し、ホテルに女子○生を連れ込んだエロ親父と化してきた姉。
 その時、畳でぐにゃりとへたれていたワーニャ姫が、ようやく起き上がった。
「……ううう、いろいろ酷い目にあったわ」
「いいからまず着崩れをどうにかしろ」
「……えっ!? あっわっ! ちょ、ちょっと奴隷っ、こっち見ないでよねっ!!」
 自分の痴態に気づいて、あちこちめくれた衣装をわたわたと整える。
「まったくあのヘ●タイ巫女娘のせいで、ってうっわあ……」
 目前で繰り広げられている女戦士×巫女の乱痴気騒ぎに気づき、そのまま絶句した。
「あーティティはもうこーんなに柔らかくてぷにぷにしててふくらんでてくびれてて出っ張っててくぼんでてさららさらしてていい匂いがしてぇ……(はぁと)」
「……姉さま、見られてますから、姉さま、姉さまったらっ!!」
「あーホントになんであたし、ティティの姉なんかに生まれちゃったんだろ? その前になんで女なんだろ? いまさら他人になりたい、男になりたいなんて高望みは言わないっ! せめて、せめて神さまがあたしにち※ち※だけでも授けてくれたなら、今すぐティティの※※ん※を※※※※して※※※※か※※※せ※※※※げて※※※ょ※※ょ※※※※……」
 かーなり際どいタイミングで、姉のセリフはめくるめく伏せ字のみの世界へ。
 放置状態の姫&侍従&奴隷は、みんなこう思った。
 この姉にしてこの妹あり、と。
 筋肉質の腕と足でただ組み敷かれ、体のあちこちをいいようにアレされていたティティが、そおっと腕を動かすのが見えた。  宝玉のついた杖をすこしずつ動かして、姉の背中に押し当てる。
 そして、鋭く言い放った。
「トプロ・ジェッキゴ!」
 ぐわらがっしゃあんっっ!!! 
 銀色の稲妻が閃き、雷鳴が響き渡った。
 もちろん、姉貴の脳天直撃。
「ぐわああああぁああああぁあああああっ!!」
 魂消るような絶叫と共に、姉は電気ビリビリ状態になっている。
「今度は雷撃系の即効性魔法ですね」
「うわー、ああいう風にガイコツが透けるのって、ギャグアニメ以外ではじめて見たわぁ」
「つーかこの後大雨とかは勘弁してほしい。一応ここ俺の部屋の中だし」
 感想を言い合う部外者たちを尻目に、ティティは杖を収め、深く深く溜息をついた。
「ふう……」
 たぶんしょっちゅうこんな風に脱がされちゃてるんだろう、慣れた風に身なりを整え、畳の上でヒクヒク動いている姉を助け起こす。
「姉さま」
「しっ、しびれたあああ……」
「仮にも姉さまはンブンドゥ族最強の戦士、お願いですからすこしは礼儀をわきまえてください!」
 威厳と愛情と叱責と、他にもいろいろなものが篭もった、妹の真剣な言葉。
 たった今夢から醒めたというみたいに、姉は首をぶんぶん振る。
 そして言った。
「そうだ、あたしは触手の化け物と戦ってる途中だった!」
「つーかなんで今の流れから俺に話が戻るよっ!」
「ああ、やっぱり姉さまは所詮、姉さまなんですね……」
 寝耳に水の俺と、うなだれた妹。
 両者の気持ちを一滴たりとも顧みることなく、頭がニワトリ並のアホ姉は、バネじかけのオモチャみたいにその場でがばっと起き上がる。攻撃目標、もちろん俺。
「さあ来い触手っ! さっきの続きをしてやる」
 おまえなんざ片手で充分とばかりに、人差し指でこっちを挑発する。
「その前にまずよーく見ろ! いいか? こっちが手でこっちが足だろ? フツーに5本指してるだろ? だいたいなんででっかいだけで触手認定なんだよっ、形的にはおまえらと全然同じだろうが!」
 たとえ勝ち目のない戦いにこれから赴くのだとしても、人類代表として正すべきことは正しておきたい。
「触手のくせによく喋るな、おまえ」
「だから触手って言うなあっ!」
「姉さまちがいます、この方は……」
「あーっ! 思い出したぞ。こいつに斬りかかろうと思ったら、いきなり後ろからぶん殴られたんだった。せっかくティティの最強魔法に護られてたのに……」
 本当に気づいていないらしい大変お茶目な姉。
「このあたしに一発食らわせるなんて、いったいどんな奴なんだっ!?」
 おまえの妹だ、妹。
 と思ったけど、危険なので口には出さない。
「おまえかっ!」
 思いっきり指さされ、上品に首を振るクラヴィエ。
「いえいえ、めっそうもございません」
「おまえかっ!」
「ちっ、ちがうわよっっ!」
 高飛車宇宙一のワーニャ姫でさえ、さすがに身の危険を感じてるっぽく、ビミョーに腰が引けている。
「じゃあだれなんだあっ! 隠れてないで出てこいっ!」
 周囲に迷惑を振りまき続ける姉の姿に、妹は意を決したように、すうっと息を吸う。
 そして語気鋭く言った。
「姉さまっ、いい加減にしてくださいっ!!」
 さしものバカ姉も、ようやくかわいい妹の異変に気づいたらしい。
「……ティティ?」
 悩みがなさそうな目をまん丸にして、振り向く。
 そこにはただ伏し目がちに、自分を見ようとしない妹の姿。
「姉さまはいつもいつも、そんな風に、乱暴ばかりしてっ……」
 杖を持つ手がわなわなと震えている。
「ティティっ!」
 畳を焦がす臭いと共に、姉が全力で駈け寄った。戦闘モードとシスコンモードの切替が早すぎる。まあ助かったからいいけど。
「わかったわかった。ティティがそこまで言うんなら、この不細工な触手は見逃してやる。さあ、姉ちゃんと一緒に帰るぞ?」
 にっこりと笑い、妹に向かって手を差し出す。
 だが、ティティはそれを握りかえそうとはせず、畳に視線を落としたままだ。
「ティティ、どうしたんだ? お腹痛いのか?……」
 心配そうに訊くが、どう見てもそうじゃない。
「あーいいあーいい。ティティが言わなくても、あたしにはちゃーんとわかってるから。大ババが言ってたいいなずけの話だろ? だいじょうぶ、姉ちゃんに任せろ。弱っちい男が束になって言い寄ってきても、みーんなあたしがぶっ倒してやるから」
「それが嫌だって言ってるのにっ!」
「だって、ティティは星でいちばんの巫女なんだから、星でいちばん強い男かどうかあたしが試さないとダメだろ?」
「姉さまより強い男なんていませんっ!」
 フツーに言い切ってるけど、それってけっこうすごいことな気はする。
「だいたい、姉さまの勝手な思い込みや勘ちがいのせいで滅んでしまった部族がいくつあると思ってるんですっ!」
 厳しい顔で言われ、はたと考え込む姉。
「ええと……10部族ぐらい?」
「全部で29部族ですっ!」
「あ、ごめん。ここ来る前にまた滅ぼしちゃったんだ。5部族ぐらい」
 なんかめっちゃカジュアルに大虐殺を打ち明けてるし。
「姉さまあっ!!」
 さしものティティも、これには本気で血相を変えた。
「もう勝手な戦はしないでって、わたしがあれほど頼んだのに!」
「だってあいつら、あたしが『妹はどこだっ!』って訊いても、まともに答えようとしないんだぞ。隠したら一族郎党皆■しにするって言ったら、みんなで泣きながら襲いかかってくるし……」
「あああああ……」
 頭を抱える偉大な巫女と、まったく反省の色がない迷惑千万な狂戦士。
 とりあえずこいつらの星は、伝説の魔王とかを気にする前に身内からどうにかするべきだろう。
 自らの行為のアレさにまったく気づかないまま、ちいさな子供を前にしたみたいに、姉は膝をかがませて諭す。
「ティティ、わがまま言わないで、姉ちゃんと一緒に帰ろ?」
「帰りませんっ! 姉さまとはもう一緒にはいられませんっ!」
「そんなこと言わないで、帰ったらヘネモネたくさん狩ってきてやるから。今の時期のはでっぷり太ってるから、バラしてキモ焼いたら美味いぞ……」
「帰りませんっっ!!!」
 脳天気な姉を存在ごとうち消すように、叫び声があがった。
「ティティ……!?」
 姉は困惑し、恐る恐る差し出す──その指が払いのけられる。
 傍から見てもヤバげな怒気を篭め、ティティはすたすたと姉から遠ざかっていく。
 そして、姉妹ゲンカを見物していたワーニャ姫の前に立った。
「魔王さま……」
「魔王さまじゃないわよっ……ってなんでわたしを巻き込むのよっっっ!!」
 危険を察知したチビ姫が後ずさりする暇もなく。
「わたしはもう、身も心も魔王さまのもの、もはや姉さまの妹ではないのです!」
 高らかと宣言するなり、その魔王さまをふん捕まえる。
 思いっきり唇を重ねた。
「むーむむむーっ!! むっむむむむぅむーむむむう〜っ!!…………」
 文字通り必死でじたばたする魔王さまっていうかチビ姫。巫女とはいっても野蛮人と、超文明人のものぐさな貴族の姫だ、相手になるはずがない。
 たっぷり10秒は唇を吸い上げあと、ようやく解放した。
「ふう……」
 ぐったりしたチビ姫を胸に抱えたまま、ちょっと色っぽい溜息をつく。客観的に見て、どっちが魔王かわからない。
「マカマカ姉さま、これでわかったでしょう?」
 上気した頬を姉に向け、訊く。
 もう子供じゃない、そう言いたげだった。
「…………」
 姉はただ絶句している。目をまん丸に、口をあんぐりと開いたまま、なにも答えを返せない。ただでさえ乏しい脳味噌が、あまりのことに作動不能に陥っているんだろう。
「えーと……」
 ぽりぽりと頬を掻いた指を、酸欠中のワーニャ姫に向ける。
「そいつ、魔王?」
「はい、魔王さまです」
「ちがふぐっ……」
 否定しようとした瞬間に、もう一度唇をぶちゅっと塞ぐティティ。
「むーむーむーっ……むー…………ふむぅ……ふ………………」
 10秒間の無駄な抵抗後、こてりと首を落とし、チビ姫は動かなくなった。
 まさに恐怖の逆人工呼吸だ。
「ふう……」
 ティティの眼がとろんとし、どこか艶っぽい雰囲気になってきた。
「もう一度言います。わたしはもう、身も心も魔王さまのものなのです」
「……身も心も?」
 もう一度訊いた姉。
「はい、身も心もです」
 きっぱりと答えた妹。
「お※※※※※※※※※※※も?」
 ほとんど伏せ字で訊きかえした姉。
「お※※※※※※※※※※※もですっ」
 ほとんど伏せ字で答えた妹。
「……………………」
 姉貴は、またも無言だった。
 部屋の窓枠や本棚が、がたがた震えはじめた。
 でも今度のはさっきと強さがちがう。まだ棚に残っていた本が崩れ、CDが散乱し、流しに重ねた食器までががしょがしょと響き合い、コップが音を立てて割れる。壁や柱までがミシミシいいはじめる。ていうか、明らかにアパートごと揺れてるし。せなか荘の強度だとマジ崩壊の危機だ。だが、本当の危機はもっと直近にある……
 そして、俺は見た。
 全身をわなわなと震わせた姉貴の背後が、ゴゴゴゴゴゴゴ……という、恐ろしげなタッチの効果音書き文字で埋まっていくのを。
「ティティを……ティティを……あたしの大事なティティをぉ……」
 狂犬が呻るように、それだけを繰り返す。
 土気色になった顔で、両方の瞳だけが爛々と紅く輝いている。
 紅く長い髪がわっさわっさと波打って逆立つ。
 その姿をたとえるなら……
 いさましいちびの殺人鬼だった。
 そして。
 戦士マカマカは、ただひとことだけ、言った。

す」

 もはや伏せ字にすらできない、圧倒的な迫力および殺気。
 次に俺が聞いたのは、全身からいっせいに血の気が引く音。俺の分+姉を除いたこびと連中全員分。
「ココココココココココココココペケバっ!」
「コが不必要に多いし俺はコペケパじゃないけどなんだよ魔王さまっ!」
 めっちゃ早回しになったワーニャ姫のセリフに、めっちゃ早回しで答える俺。
「だれが魔王さまよっていうかなにぼーっと突っ立ってるのよっ!早くやっつけなさいっ!自慢の触手でぐるぐる巻きにして宇宙空間に飛び出して充分離れてからそこら辺の恒星に突っ込んでファイヤーマンもろとも自爆しなさいっ!わたしがわたしが大ピンチなのよっ!ていうかあんた奴隷でしょっわたしのしもべでしょっ!ワーニャ・ド中略ノバ・ゾビスの名において命ずるっ!四の五の言わずに戦って死になさいっ!」
「だが断るっ!!」
「う〜〜っこの奴隷のくせに奴隷のくせに奴隷のくせに奴隷のくせにっ!!」
「奴隷だろうが触手だろうが俺は知らん、いっさい知らんっ!あとはおまえらで勝手にやってくれ。俺には夢がある、明日がある、掟がある、急用だってある。実は今すぐコンビニ行って月刊ジャンプ立ち読みしなきゃならないんだ。それじゃあな、達者で暮らせよ!バッハハーイっ!!」
 以上別れの挨拶終了&すかさず戸口にダッシュ! しようとした時だった。
「待て」
 地獄の底から響く声。
 このまま無視して逃げちゃえるほど、俺は根性が座っていない。
 仕方なく、振り向く。
 お姉さんが仁王立ちしていた。
 愛車に萌え絵を落書きされたヤンキーみたいな目で、俺のことをガン見していた。
 それで、こう言った。
「手はじめにおまえから血祭りに上げやる」
「手はじめなんていらんっ! 遠慮しないでいきなり親玉から殺ってくれっ!」
 俺の希望を聞き留めるはずもなく、ビキニ鎧の戦士が叫んだ。
「ノナドポイアっ!」
 畳にフツーに落ちていた彼女の剣が、びくっと動いた。
 つーか、今の今までほっぽらかしだったのにはじめて気づいた。どんな剣士だ。
 剣がひとりでに立ち上がった。正確に言うなら、だれも触れていないのに、畳に切っ先がぷすっと突き刺された。
 と思ったら、そのままびよーんざっくびよーんざっくと、畳を刺し刺し移動してきた。
「ってウチの畳にこれ以上傷をつけるなあっ!」
 非常時なのも忘れて叫ぶ。和室を愛する日本人ならだれだって叫ぶ。
 ひとりでに動く迷惑剣は、最後にびよーーーんと大きくジャンプすると、中段にかまえていたビキニ鎧の両手にすぽんと収まった。
「ノナドポイア、仕事だっ!」
 刀身に向かって気合いを入れるみたいに叫ぶ。
 単なる装飾だと思ってた剣の目玉が、ぎろっと動いた。
 面倒臭そうに俺の方を一瞥し、それから今度は牙のついた口の方がもそもそと動く。
 ──って、もしかして、生きた剣ってやつか!?
「ハラヘッタぁ? ナンカクワセロぉ? そんなんあとだあとっ!……ああ? 触手斬ると体液がぬるぬるして臭くてイヤだ? 働かないと真ん中から二つにへし折るぞっ!!」
 なんかよくわからないけど、自分の剣相手にめっちゃ揉めている。
 とかぼーっと見てる場合じゃない! 逃げるなら今だっ!
 そろりそろりと戸口の方に移動をはじめた時。
 3センチぐらい開いた扉の隙間に、三人のこびとたちがトーテムポールよろしく鈴なりになっているのに気づいた。
「あれはまさか……失われたエスクオマの民に伝わる、伝説の魔剣!?」
「エスクオマって、ゴリンの実を拝み倒したっていう恥ずべき邪教のこと?」
「いえ、あの剣は姉さまがどこからか拾ってきたもので、時々変な声で歌ったり、わけのわからない言葉を喋ったりはしますが、決してそのような由緒あるものでは……」
「って、自分たちだけ戸口まで早々に逃げてドアの向こうから顔だけ出しながらどうでもいい裏設定を解説してるなああっ!!」
 俺のツッコミを気にする風もなく、クラヴィエがいつもの調子で言った。
「それでは、私どもはそろそろお暇(いとま)します」
「せいぜい頑張ってね、コペケバ(はぁと)」
「あの、できるかぎり魔法でなんとかしてみます。もう無理だとは思いますが……」
 ワーニャ姫が無責任に手を振り、ティティも済まなそうに頭を下げる。
「あああああっ、閉めるな閉めるなっ!!……」
 ばたんっ。
 俺の鼻先で、希望の扉が閉ざされた。そりゃもう完膚無きまでに。
「開けろコラっ! つーかなんで外側からロックできるんだよっ! 開けろおいっ! シャレになってないぞっ!!」
 扉を叩きまくり、ドアノブももげろとガシャシャやるが、釘で打ちつけたみたいにびくともしない。たぶんクラヴィエのおかしなワンボタンデバイスの仕業だ。どんなテクノロジーか知らないけど、どうしてこういう時にだけ完璧に作動するのか。
 結局、俺は悟るしかなかった。
 家賃月一万の自分の部屋が、たった今闘技場と化したことを。
 冷たい声が背中に響いた。
「武器を拾え」
「あ、はい」
 そりゃもう光速で言われたとおりにした。
 畳に放りっぱなしだった漫画本を、丸めて右手に握る。もちろん☆き☆す☆4巻だ。泣ける。もうちょっと大きな判形のやつにしとけばよかった。いやそうじゃない、そうじゃないんだ。あまりのピンチに脳がヤバいことになってるぞ。落ち着け、俺。
 生き残りたければ、戦うしかない。
 九割方泣きそうになりながら、がばっと振り返る。

最愛の妹を穢され(たと思い込み)、やる気っていうか殺る気満々のマカマカ姉さん御尊影、愛用のおっきな剣ノナドポイアさんと共に。つーかこんなもんと戦う方の身にもなってほしい。死ぬから、マジで。

 身体に不釣り合いな巨剣を軽々と持ち上げた、ちっちゃな狂戦士がいた。
 にやりと笑い、すううと息を吸う。
「覚悟しろ、魔王の手下の触手っ!」
「ちがうっつってんだろうがあっ!!」
 もう破れかぶれだ。
 畳に突っ立ているビキニ鎧目がけ、渾身の力を込めて☆き☆す☆棍棒を振り下ろした。相手がゴキブリだったら事後処理不能な潰れ方をしてるところだ。
 手応えありっ!
 一瞬そう思ったけど、安心するのは早かった。
 戦士マカマカは俺の攻撃を避けもせず、まともに剣で受けていた。
 ぐいぐい押し込んでもびくともしない。
 ──ってどんだけ力持ちなんだよこいつはっ!
 でも勝ち目はある。CDケース十枚斬りや畳切り裂きをしたはずの剣、その刃がまともに当たっているのに、丸めたマンガ本はびくともしていない。さすが☆き☆す☆だ、何ともないぜ! 京▼ニ効果で累計@@万部の装甲は伊達じゃないっ! 美水かがみ先生だって戦場の戦いで勝って出世したんだっ! もう自分でもなにがなにやら。
「こらノナドボイアっ、手を抜くなあっ!!」
 マカマカが自分の剣に活を入れた。
 その一瞬、隙ができた。
 チャンスっ!
「うわあああっ!」
 もう一度腕を振り上げ、畳ごとめり込めとばかりに打ち下ろす。その刹那──
 俺は目を疑った。
 彼女の剣が、むくっと大きくなった。
 いや、錯覚なんかじゃない。
 ただでさえ身体に不釣り合いな剣が、2倍、3倍、4倍……
 風船が膨れるみたいにどんどん大きくなっていく。
 それをマカマカは平然とかまえている。
 すぐに剣は、普通の包丁を超えるぐらいに大きくなった。
 言い換えると、サクっといかれるとフツーに血とかたくさん出て新聞沙汰になるぐらい。
「……反則だろ」
 と、言うしかない、俺。
 柄の根元についた目が、ぎろりと俺を睨みつける。
 マタツマラヌモノキルノカ。そう言いたげだった。
 そして、巨剣が咆哮した。
「おん・ざ・ごーーーーーーーーーーーーー!!」
「いや意味わからんしっ!」
「きええええええええっっ!!!」
 マカマカの気合いと共に、超巨大化した剣が振り下ろされる。
 俺の網膜が最後に映したものは。
 迫り来る刀身、刻まれた口から火山のように吹き上がる、紅蓮の炎だった。
















木造アパートで白昼ガス爆発 大阪:日本橋
2×日午後2時15分ごろ、中央区日本橋にある木造2階建のアパート「せなか荘」の一室でガス爆発が起きたと近所の住民から119番通報があった。難波消防署と難波警察署の調べによると、爆発はこのアパートの2階に住む大学生の男性(20)の部屋で発生、爆風で部屋の窓ガラスや雨戸が吹き飛ばされ、壁やベランダが半壊、男性は顔や腕に全治2週間のやけどを負った。アパートにはこの男性以外に住人はなく、他にけが人はなかった。
爆発当時部屋には火の気がなく、男性が取り調べで「こびとがやった」などと意味不明の発言をしていることから、同署はこの部屋に幻覚性のあるなんらかのガスが充満、引火したのではないかとみて原因を調べている。



〜つづく〜


【せな★せな 関連情報】
せな★せな 1−1話 「ここはわたしの宇宙船よっ!」
せな★せな 1−2話「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」
せな★せな 1−3話 「我が王家の名において、わたしの奴隷になりなさいっ!!」
せな★せな 2−1話 「魔王さまに捧げるために、この身をしかと清めてまいりました」
せな★せな 2−2話 「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
せな★せな 2−3話 「あ……魔王さまのここ、柔らかくて温かい……」

せな★せなキャラクターソング集 ショート版&ジャケットイラスト公開!
こみっく★トレジャー、無事終了しました。ありがとうございます。
せな★せなキャラクターソングCD 延期になりました。

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