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2007年10月14日

【せなか企画】 せな★せな 3−2話 「この落とし前どうつけてくれちゃう気よっ!」




せな★せな 3−2話
「この落とし前どうつけてくれちゃう気よっ!」




 ……チンアツ?
 日常生活ではあんまり聞く機会がない単語に、目を点にする俺。
 最初に反応したのはマカマカだった。
 たぶん本能だけで、殺気とか闘気とかを感じ取ったんだろう。
「おもしろいっ、やれるもんならやってみろ!」
 すちゃっと剣をかまえ直す……と思ったら、そこに例の顔つき魔剣はない。柄から上がしおれた花みたいにふにゃふにゃになっていた。
「ってノナドポイアっ! しゃんとしろしゃんとっ!」
 持ち主に叱咤されるも、身体……っていうか、刀身を激しくくねらせ、いやいやしている。無機物のくせに、ディ○ニーのアニメーションのような動きだ。
「なに? 敵うわけない? 絶対あっちの方が強い? そんなのやってみなきゃわからないだろっ! 元気出せっ、固くなれっ、そそり立てっ、早くっ!」
 ……なんだか男として忍びない怒られ方をしている。
「くそっ、こうなったら無理矢理にでもやってやるっ!」
 言うが早いかマカマカ、畳を蹴ってぽーんと跳躍する。
「でぃやあぁあああぁっ!!」
 ぐねぐねになった刀身のまま、真上から戦闘少女に斬りかかる!
 対する少女は、まったく冷静だ。
 レーザー銃の銃口を無造作に上向ける。

空間穿孔砲(サークルペネトレーター)発射の図。ビームの通り道にあるものにはなんでもキレイに穴が空くというはた迷惑な兵器。そりゃもう畳だろうが天井だろうが情け容赦なく。ちなみに、ビームの先ではマカマカ姉さんとノナドポイアが驚異の空中回避運動を繰り広げていたり。

 蛍のような光のきらめきが中央の銃口に集まり、光の環になった。
 ぽうっ。
 奇妙な、甲高い音が響いた。
 真っ白で鋭い光線が、銃口から天井までまっすぐにつながった。俺にはそう見えた。
「うわあっ!!」
 空中に身を躍らせていたマカマカ(とノナドポイア)が、ぎりぎりで身を捻って避ける。
 体勢を崩し、背中から着地、すぐにくるんと前転し、戦闘少女に向き直った。
「なんだ!? 今の……」
 つぶやいて、なにか違和感を覚えたらしい。
 刀の柄から右手を外し、自分の髪に恐る恐る触れる。
 長く赤い髪が一房、削ぎ落としたみたいになくなっていた。
「……やるな」
 不敵に、そして楽しそうに、にやりと笑うマカマカ。
 その手の中で、意味不明の言語でじたばた泣き叫ぶノナドポイア。
「さ・どまく〜! さ・どまく〜!」
 たぶん、『ムリっ、ダメっ』的なことを武器なりに訴えてるんだろうと思う。
 だが、剣士は完全な戦闘モードだ。
 結局抵抗をあきらめ、フツーの剣に戻った。被雇用者は辛い。
 ようやく覚悟を決めた巨剣を、マカマカが力任せに振りあげようとした時。
 戦闘少女が動いた。
 背中のバーニアをぼうっと噴かし、瞬時に間合いを詰める。
 左手に装備した光の剣が輝きを増した。
 それは寸分の狂いもなく、マカマカの眉間に突き立てられた。
 ──いや、かわした。かわしている。
 地面に這うほどに低く、身体を伏せて初太刀をやりすごした。
 間髪を入れず、ノナドポイアが横薙ぎにされる。
 バーニアユニットの角度を急速に変え、戦闘少女は空中に逃れる、その刹那。
「くあああっっ!」
 天を落とすかのような、マカマカの渾身の突き。
 下腹を狙った切っ先は、くるりと宙で反転した少女のシールドに遮られる。
「甘いっ!」
 最初から読んでいたのだろう、寸前で剣の軌道が変わった。
 刀身が鞭のようにしなる。
「さいばどーーーーっ!」
 ヤケクソ気味に咆哮するノナドポイア。
 狙いは敵の右腕付け根──
 刃が触れんとしたその時、戦闘少女の身体が真横に瞬間移動した。
 ハサミのようなレーザー銃によって、巨剣はがっしりと受け止められていた。
 ついで左手の光剣が、無防備になった脇腹を狙う。
「くっ……」
 痛撃を食らう前に、マカマカが剣をこじり、力任せに間合いから離れる。
 そうはさせじとバーニアを間欠噴射し、距離を保つ戦闘少女。
 空中と地上、互いに体勢を入れ替えつつ、壮絶な殺陣が続く。
「つーか、ここだけサ○ライチ×ンプルーみたいになってるぞ……」
 動画に録って公開したら、ソレ系の皆さんにかーなり受けるんじゃないだろうか。
 などと、とりあえず観戦していたら。
「あっ……」
 マカマカの手から、巨剣が滑り落ちた。
「っておいこらっ、逃げるな!」
 いや、滑り落ちたんじゃなくて、ノナドポイアの自主的な逃亡らしい。壮絶な斬り合いに耐えられなくなったんだろう。例によってびよーんざっくびよーんざっくと移動し、ぐしゃぐしゃになった布団の隙間に潜り込んだ。
「戦いの最中に寝るなあああっ!!」
 マカマカがどんなに引っ張っても、絶対出てこようとしない。
「で・どまく〜・で・どまく〜」
 これはたぶん、『死んじゃうからイヤ』的なことを言ってるんだと思う。超えられない困難に直面したら、布団被ってなかったことにする。剣の世界でも一緒だ。
「くっそぉ〜」
 歯ぎしりして悔しがるマカマカ。
 その後頭部に、こつんと突きつけられたもの。
 レーザー銃だった。
「ゔ」
 マカマカが面白いうめき声をあげる。
 戦闘少女は言った。
「条約違反の戦闘行為を確認」
 勝ち誇るわけでも、憐れむわけでもない、ただ事実を伝えるだけの口調。
 ビキニ鎧、絶体絶命。
「おまえの姉貴、殺されちゃいそうだけど、いいのか?」
 一部始終を見守っていたティティに一応訊いてみる。
「たまにはいい薬です」
 にべもない。
「まあ、俺にはカンケーないけどな」
 言いながら、天井を見上げ……
 目を疑った。
 穴が開いていた。
 俺の部屋の天井に、穴が開いていた。
 直径10センチぐらい。それはもう型で抜いたみたいに、綺麗な円形の穴。
 いちばん最初の戦闘少女の攻撃だ。そうとしか考えられない。
 焼けたり爆発したり、破片が飛び散ったりしなかったから、全く気づかなかった。
「空間穿孔砲ですね」
 憎々しいほど冷静に、クラヴィエが解説する。
「あらかじめ設定された射程において、射軸上にある物質を全て分子レベルに分解、他には影響を及ぼさないため、制宙型戦闘ドロイドの主要兵装となています」
 上の空で聞いている、俺。
 穴の向こうに広がる青空。ぽっかり浮かぶ白い雲。のんびり小鳥が飛んでいく。
「平和だなあ……っておいっ!」
 思わずノリツッミ。
 わずかな隙を逃さずに、マカマカがまたジャンプした。
「うぉおおおおぉっ!!」
 中空から素手で躍りかかってくるビキニ鎧にもまったく動じず、戦闘少女は照準を修正し……
 ぱうっ!
   ぱうっ!
  ぱうっ!
2発、3発、4発、乱れ撃ち。すんでのところでかわしまくるマカマカ。
「待てコラっ! ウチの天井を穴だらけにする気かああっ!!」
 我を忘れて叫んだ、その時だった。
「あんたは黙ってなさい、コペケバ」
 異様なまでに落ち着き放った声。
 魔法少女だった。
 もとい、ワーニャ姫だった。
 間合いを保ったまま、ぴたりと動きを止めたマカマカと戦闘少女。
「なかなかやるわね」
 自信たっぷりに言いながら、ずいっとその前に進み出る。
 雑用急用命がけの用、全部丸ごと俺に押しつけるチビ姫とは、とても思えない。
「マカマカであれじゃ、どう考えても敵うわけないぞ、おまえ」
「王族には避けて通れない戦いもあるのよっ!」
「……なんか悪いもんでも食ったのか?」
「その逆に、お腹が空きすぎて自分を見失っているようですね」
 侍女クラヴィエが冷静かつ的確に分析する。その声を気にも留めず、ワーニャ姫は謎の戦闘少女の眼前で仁王立ち。すうっと息を吸い……
「たかだかカラクリ人形の分際で、神聖なる決闘の邪魔をするなんて、身の程をわきまえなさいっ!!」
 それはもうコッテコテに威厳を籠めて言った。立派なもんだ。ふりふり魔法少女の扮装に合うセリフかという根本的問題はあるけど。
 戦闘少女にとっては、まったくの奇襲だったらしい。
「?」
 真顔のまま、首をことりと傾げた。
 ていうか、はじめて感情の籠もった反応を見た気がする。
「クラヴィエさま、失礼ながらあのお方は?……」
 取り込み中の戦闘少女をそれとなく指し、ティティがそっと訊く。
「わたしがお見受けしたところでは、まとっている命素(マナ)が常人とは明らかにちがうのですが」
「調停者が使役する戦闘ドロイドです」
「はあ……」
 説明されても意味がわからないらしく、きょとんとしたままだ。まあ、なんのことだかわからないのは俺も同じだけど。
 鼻眼鏡を指で持ち上げるようにして凝視しつつ、クラヴィエは続ける。
「しかもあの筐体は、戦闘機械群(デュアルフト)最強と謳われる名高き……」
 その先を聞く前に、チビ姫がいつもの名乗りを始めた。
「我が名はワーニャ・ド・フラゴラセリ・ピタ・メルクール・ノバ・ゾビス改め甘味戦士スイート★ワーニャよっ」
「……改めちゃってるけど、いいのか?」
「調停者との交渉においては上辺を繕っても無意味ですし、世間知らずな厨房の自作自演など華麗にスルーするシステムが確立しておりますので」
 ……いつもいつも思うことだけど、こいつの万能翻訳機はどうしてこんなアレな語彙なんだ?
 でもまあ、意味するところはすぐにわかった。
 戦闘少女が頭につけているわっかというか髪飾りっぽいもの。その両端が薄青い光を発し、いかれた服装のチビ姫の全身を上から下まで走査した。
「生体パターン照合終了。タウル・ゾビス第一皇女、ワーニャ・ド・フラゴラセリ・ピタ・メルクール・ノバ・ゾビス殿下と確認」
「……なるほど」
 思わず納得した俺。考えてみれば、クラヴィエ以外がチビ姫のフルネームを正確に言ったのもはじめてだ。
 でも、相手を認識したからといって、戦闘少女の方は態度を変えるわけでもない。
「当該宙域での戦闘示威行為を即刻停止していただきたい」
 毅然と……というか、相手の反応を気にしていない口調で言う。
 それ以前に、なにを言っても声質はまんま幼女なのでギャップがものすごい。
「う〜〜〜〜〜〜〜っ」
 姫君の方も、まともに答える気はなさそうだ。
「当該宙域での戦闘示威行為を即刻停止……」
 まで繰り返された時、ワーニャ姫が動いた。
「にゃあああああああっ」
 マジカルスティックを振りかざし、空気の読めない突進!
「ワーニャスペシャルアラモードアターーックっ!!」
 戦闘少女の脛(すね)目がけ、渾身の力を籠めた蹴り! スティックは関係なしかっ!
 ぽきゅっ。
「……痛い痛い痛いっっ!!」
 次の瞬間、畳に転げ回っていたのは、もちろんワーニャ姫の方だった。
 弱い。弱すぎる。
「なんでこんなに固いのよっ! 王族に対して失礼じゃないのっ!!」
 そして満を持しての逆ギレ。
「?」
 戦闘少女の方はといえば、突っ立ったままきょとんとしている。
 攻撃とさえ認識してもらえてないらしい。
「なっ、ななななによなによなによっ!」
 そんな態度がまた癪に障るんだろう、ワーニャ姫が立ち上がりつつわめく。
「当該宙域での戦闘……」
「だいたい乱暴なのはそっちじゃないのよっ! ひとんち宇宙船の屋根にたくさん穴開けて、空気が漏れちゃったらどうするのよ!」
「今までさんざん壁に穴が空いたりガラスが割れたりしてる件は無視か?」
「奴隷は黙ってなさいっ!」
「はいはい」
 戦闘少女は無言のままだけど、なんだか妙な雰囲気は感じ取っているっぽい。
「当該宙域にタウル・ゾビス船籍の宇宙船舶及び領土施設は確認されず」
 それでも健気に繰り返す。
「ここはわたしの宇宙船よっ!」
「当該宙域にタウル・ゾビス船籍の宇宙船舶及び領土施設は確認されず」
「わたしの宇宙船よっ!」
「当該宙域に……」
「わたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船よわたしの宇宙船ったらわたしの宇宙船よ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 ついに出た。
 ワーニャ姫の必殺技、とにかくたくさん連呼。
「……………」
 戦闘少女が沈黙した。
 何事か考えているらしい。
 取り巻いているギャラリー一同を、きっちり等間隔に、等秒分だけ見渡す。
 そして言った。
「……宇宙船?」
「いや、ちょっぴり心細そうに訊かれても」
「そうよ宇宙船よっ! それも我が王家の神聖なる大移民船よ。宇宙船じゃなかったらなんだって言うのよ! ねー奴隷、そうよねっ?」
「……俺に訊かないでくれ、だんだん自信がなくなってくるから」
「とにかくっ! この落とし前どうつけてくれちゃう気よっ! そらあんさん指の一本や二本じゃ足らしまへんなーよ! 謝罪と賠償を要求するニダのだわっ!」
 完全にキャラが崩壊し、勢いだけで喋っている嫌魔女ワーニャ。案外こういう奴が世の中すいすい渡っていくのかもしれない。
 対するは戦闘少女。
 何をどうしていいかわからなくなっているのだろう。
 鬼のような形相で睨んでいる姫を見る。
 先生に怒られてる子が指先いじりするみたいに、光の剣をしゅびーっ、びゅいーんと出し入れする。
 そしてついに、消え入りそうな小声で言った。
「……遺憾に思うものである」
「はぁ? イカン? なにそれ? イカなの、ミカンなの? 食べれるのぉ? 食べれないのぉ?」
 ここぞとばかりに攻勢に出るワーニャ姫。まんま幼稚園児のケンカになってきた。
「………」
「ほらぁ、ちゃんとあやまりなさいよ、あやまりなさいよ〜っ」
 年長さんに肩をぎゅうぎゅう押されても、直立不動の戦闘少女。
 伏し目がちな瞳に、じわっと涙が浮かんできた。
「……えぐっ」
 とうとうしゃくり上げはじめた。
 幼女のような行動レベルだけど、物騒な武装(シャレじゃなくて)はそのままだから、わけがわからないことおびただしい。
「あ〜、この子泣いちゃってる〜」
 下から顔を覗き込むようにして、勝ち誇るワーニャ姫。
「ぐす……ひっく、えぐっ……」
「やーいやーい、なーきむーしけーむし〜はーさんーですーてろ〜」
 オールドスクールないじめっ子口調で囃し立て、おまえ昭和何年生まれだよと俺が思ったその時。
 すちゃっ。
 隙ありとばかりに、レーザー銃の銃口がワーニャ姫の眉間に押し当てられた。
 ぽうっ。
 間髪を入れず、めっちゃカジュアルに発砲した。
 チビ姫の頭が消し飛んだ。
 ……んなら色々楽だったんだけど、ものの見事に避けていた。今さらマ※リックスばりの超絶ギリギリ海老ぞりで。
  ぽうっ。
 ぽうっ。
   ぽうっ。
 2発、3発、4発、乱れ撃ち。
「ひいいいいいいいっ!!」
 魂消る悲鳴を上げながら、超紙一重でかわしまくるワーニャ姫。取り返しのつかないことになっていく俺の部屋の天井。色々とあきらめモードの俺。
「にゃあああああああっ!」
「すごいな魔王、こんなん避けれるのか……」
 ケンカが本職のマカマカさえ本気で驚いている。まったく生き物の生存本能はすごい。
 怒りの一連射を終えて、戦闘少女が悲しそうに言った。
「先の戦闘により、零距離発砲時の射撃管制に予期せぬ障害が発生……」
 その眼前、ブリッジ体勢のまま顔面蒼白のチビ姫。
「しっ……死んじゃったらどうするのよおおおおっ!!」
 がばっと身体を起こすと、頭からバリバリ食わんばかりに、まさに食ってかかる。
「………」
 両眼に涙をいっぱいに溜めたまま、戦闘少女はいじめっ子を見据え、きっと唇を結ぶ。
 そして、とっても可愛らしい声でこう言った。
「ばーかばーか」
 くるっ。
 振り向いたと思ったとたん、左右のメインバーニアを全力噴射。
 ものすごい轟音、爆炎と共に急加速する、謎の戦闘少女。
 そうして撤退していった。俺の部屋の扉を真ん中綺麗にぶち抜いて。
「……ぷほっ」
 排気煙をまともに食らったチビ姫、顔が真っ黒だ。まさに最後っ屁。
「こらあっ、逃げるなあああっ!」
 いい感じに煤けた魔法少女扮装のまま、とことこ追いかけていく。
「ってなにイヤミな脳内実況してるのよ! あんたも追いかけるのよコペケバっ! そりゃもう地獄の底までも! 5面の中ボス戦までもっ!」
「いや、追いかけてもさ、どのみち弁償とか請求できないし」
 答えながら、今回の被害を確認する俺。
 天井には屋根まで突き抜けたまん丸な穴12、扉に大破口1、窓ガラス2枚全損、あと、遠慮なくバーニアふかしまくったから、畳も焦げてるし。ちゃぶ台の脚はひん曲がってるしCDとか本とか、あとプリンとかも盛大に飛び散ってるし。
 前の爆発から1週間でコレだ。今度こそ追い出されるし。そうなったらどいつのアパートに転がり込もう……
「そう悲観するものでもありません、急ぎましょうっ!」
 クラヴィエが意味深に叫び、自分も姫を追っていく。
 腹黒侍女がやる気満々ってことは、なにか裏があるってことか?
「……あの、わたしも参ります」
 右手に杖を握り、ティティも後に続く。
「あたしも行くぞっ!」
 当然のようにマカマカも言い、愛用のアレがないことに気づいて布団の山に頭から突っ込む。
「おらっノナドポイアっ! とっとと布団から出ろっ!」
「ぜろ・え・ふぜろぜ・ろぜ・ろさん〜」
「なにが不正な命令だっ! さっきはあたしの顔に泥を塗ったんだ、とっとと出てこないと塩水にたっぷり漬け込んでから屋根で天日干しにするぞ!」
 ……まああいつらはほっといても、そのうち追いついてくるだろう。



 廊下に出て、辺りを見渡す。いない。
「逃げ足が早いわねえ……」
「足っていうかジェットだけどな」
「宇宙空間でも運用可能なので、厳密にはジェットではなくロケットの類かと」
「……この流れでSF考証に厳密さを求められてもなあ」
 ともあれ、廊下側の壁がぶち抜いてないってことは、最短経路で屋外逃亡したわけではないらしい。律儀に玄関から出て行ってくれるとも思えないけど。
 真剣な顔をしたティティが、ダウジングみたいに杖をそっとかざす。
 数秒後、言った。
「あの……たぶん、この下のどこかかと思います」
「わかるのか?」
 さすが巫女というか、超自然の力を操れるだけのことはある。
「いえ、これだけ命素(マナ)が変わっていれば、気配をつかむのもたやすいというだけで……」
「ところで、その『マナ』ってなんだ?」
「ええと、なにと聞かれましても……」
「生体反応、のようなものかと」
 クラヴィエが横から補足し、ティティも頷く。
「さきほどの方の命素(マナ)は、不思議な揺らぎ方をしています。まるで、しなやかな獣と美しい水晶とを、途方もない年月をかけて練り合わせたような……」
 お。なんかファンタジーの巫女っぽい表現だ。
「ですが、今感じられるマナ(命素)は、さらに複雑で……」
「そんなことはどうだっていいのよっ。行くわよっ!」
 血気盛んなチビ姫にを先頭に、きしむ階段を下りていく一同。
 普通サイズの俺はともかく、身長10センチ強の奴らも段差をまったくものともしない。ぴょこたんぴょこたんと器用にジャンプしていく。
「チョウテイシャって、なんなんだ?」
 今度はクラヴィエに聞いてみた。
「調停者は調停者です」
「だからそれじゃわからんって」
「タウル・ゾビスとクス・クスに講和を結ばせ、永久和平を司る存在……ですが、今はそんなことは大した問題ではありません」
 急な階段を堅実に下りながら言う。こいつはこいつで悪巧みをしているっぽい。
「先ほどの戦闘ドロイドは音に聞こえる490型、いわゆる『無垢なる凶戦士』です。とすれば、その行為に責任を持つ者は……」
 それきり考え込み、相手をしてくれなくなった。
 1階に降りた。
 またティティが杖をかざし、精神集中する。
 今度は10秒ぐらいそうしていたけど、ふうっと息を吐いて杖を下ろした。
「申し訳ありません、やはりこの神殿の中かとは思うのですが、場所までは……」
「仕方ないわねえ。こうなったら、全部の船室をしらみつぶしにするわよっ」
「はいっ、魔王さま(はぁと)」
 ……一応補足しとくけど、神殿とか船室とか好き勝手呼んでるのは、どっちもせなか荘のことだから。
 チビ姫の背中を見ながら、またごちゃごちゃと歩き出す。
 まずは101号室。
 ドアノブを回してみると、鍵はかかっていない。
 どのみちだれも住んでないけど、物騒だなあ。
 少しだけ開けて、中を確認する。
 家具もなにもない、空っぽな部屋があるだけだ。まあ当然だけど。
「いないじゃないっ! どうしてくれるのよっ!」
 俺の足元でそろっと様子を伺っていたチビ姫が、ここぞとばかりにふんぞり返って言う。
「いや、俺に言われても困るし」
「クラヴィエ、次の船室を開けなさいっ! わたしが安全なようにゆっくりとよっ!」
「はい、ただ今」
「あの、魔王さま、よろしければわたしが……」
 ぱたぱた廊下を走っていく三人、というか三匹のこびとたち。
 まあ、あっちはあっちで勝手にやらせとけばいいか……
 などと思いながら、何気なく共同トイレを開けてみた。
「…………」
 よくわからない犬的なアレが、俺のことをフツーに見ていた。
 ダンディーかつアダルトなボイスが、俺の脳内にアテレコで響いた。
 いやあん。
「…………」
 ぱたん。
「怪しい気配はないな……」
 見なかったことにして、探索を続ける。
 ──というか、続けさせてください。話がいろいろ複雑になるから。
 102号室、103号室、欠番の104を跳ばして105号室……
 別に異常はない。
 結局、廊下奥まで来てしまった。
 そこにあるのは……
「大機関室ね」
 ワーニャ姫が言ったが、一介のボロアパートにそんな宇宙戦艦ヤ□ト的な重厚なセクションがあるはずもない。
 俺の部屋の下、つまり、せなか荘の管理人室。
 十年以上昔、管理人さんが常駐してた頃は家族で住んでいたらしいけど、もちろん今は使われていない。他の部屋より間取りに余裕があるはずだけど、大部屋ってほどじゃない。
「ほら奴隷っ、ぼさっとしてないで確かめなさいっ! 大機関室になにかあったら大変なことになっちゃうんだから!」
「ていうか前から気になってるんだけどな、何にでも『大』ってつけるのは……」
 ……文明としてカッコ悪いぞ、と俺が指摘しようとした時。
 ごーっという音が聞こえるのに気づいた。
 他でもない、管理人室の中からだ。
「我が宇宙船の心臓部は、今日も元気に稼働中ね」
「喜ばしいことでございます」
 上機嫌に言った姫と、テキトーに話を合わせる侍従。
「いやいやいやいや。待て、ちょーっと待ってくれ」
 俺自身とこのアパートのアイデンティティーに関わる重大事案の発生だった。
 内心どきどきしながら、俺は扉に耳を当てた。
 ……うう、たしかに聞こえる。
 唸るような重低音。でも、よく聞けばエンジン音とかそういいうのじゃない。
 もっとこう、平凡で日常的で、子供の頃実家でよく聞いたような……
 必死で思い出そうとしていると、それとは別の高い音も聞こえだした。
『……ララララ〜♪』
 よく澄んだ、女の子の声だった。
『……おっしっごっとおっしっごっとラァンラララン〜♪』
 そりゃもう楽しげに歌っていた。
「……………」
 耳を外すと、チビ姫と目が合った。
 こいつにも聞こえたらしい。一気に魂が抜けたような、ものすごい顔をしていた。
「……おまえんとこのエンジンって、歌う?」
「うっ、歌わないわよっ!」
「だよなあ……」
 細かいところがいろいろアレなチビ姫星の文明でも、さすがにそこまでイッちゃってはいないらしい。
 と、すると……
 ドアノブに手をかけてみた──やっぱり、鍵はかかっていない。
「いいか、開けるぞ?」
 チビ姫たちにというより自分に言い聞かせ、扉を開け放した。
 そして、俺の見たものは……


〜つづく〜


【せな★せな 関連情報】
せな★せな 1−1話 「ここはわたしの宇宙船よっ!」
せな★せな 1−2話「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」
せな★せな 1−3話 「我が王家の名において、わたしの奴隷になりなさいっ!!」

せな★せな 2−1話 「魔王さまに捧げるために、この身をしかと清めてまいりました」
せな★せな 2−2話 「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
せな★せな 2−3話 「あ……魔王さまのここ、柔らかくて温かい……」
せな★せな 2−4話 「四の五の言わずに戦って死になさいっ!」

せな★せな 3−1話 「未登録宙域における戦闘示威行為を確認」

せな★せなキャラクターソング集 ショート版&ジャケットイラスト公開!
こみっく★トレジャー、無事終了しました。ありがとうございます。
せな★せなキャラクターソングCD 延期になりました。

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