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2007年10月28日

【せなか企画】 せな★せな 3−3話 「ご主人さま、お嬢さま、大変長らくお待たせいたしちゃいましたぁ!」




せな★せな 3−3話
「ご主人さま、お嬢さま、大変長らくお待たせいたしちゃいましたぁ!」




 メイド喫茶だった。
 ……いや、ついに脳がアレしたとか、そういうのじゃなくて。
 正確に言うと、メイド喫茶のミニチュアだった。
 リカちゃんとかバービーとかでよくある、小さな女の子が人形遊びに使うアレ──ドールハウスとかいうんだろう──がなんの脈絡もなく、せなか荘管理人室の畳に置かれているという、大変に猟奇的なこの状況。
「……ここかっ!」
 ようやく追いついてきたマカマカ(と厭戦モードのノナドポイア)が、部屋の中を見るなり目をまん丸にした。
「ってなんだこりゃあ!?」
「見てのとおりだ」
 見てもたぶんわからないだろうけど、説明がめんどくさいのでそう答えておく。
 こっちに向いている面は、壁も天井もないので間取りが丸見えだ。左側に玄関、入ってすぐの広いペースには、クラシックな椅子と丸テーブルがいくつも置かれている。真ん中にはよくわからない舞台的なものまである。その右側には台所というか厨房、その奥に勝手口、さらに奥は私室らしく、簡素なベッドとワードローブと三面鏡、それにスーツケースっぽい箱が開きっぱなしのまま置かれいる。
 その全部が、1/15ぐらいの精密なミニチュアだ。
 これだけならまあ、カラオケサービスがある喫茶店だと言い張れないこともないけど。
 ちょっとしたところがなんともアレなのだ。
 例えば、壁に掲げられた貼り紙の、豆粒のような文字。
『特製オムレツ お好きな文字書いちゃいます(はぁと)』
『本日のスペシャルティー お席で給仕します』
『楽しいゲームをご一緒にどうですか?(別料金)』
『店内での撮影はお控えください』
 文言の端々から、そっち方面な雰囲気がぷんぷん臭ってくる。
 というか、今まで敢えて目を逸らしてたけど、ぶっちゃけて言っちゃうと……
「るんらんるんらんおっそうじおっそうじ〜♪」
 いやもう、実際メイドがいるし。
 めっちゃ脳天気かつ朗らかに、労働歌を口ずさんでいるし。
 身長、もちろん10センチ強。
 長い青色の髪を、頭の左右でくるくると丸め、そこから長く垂らしている。
 腰にバーニアがついている。
 無骨で大きな掃除機で、床をしゅごーっと吸っている。
 メイド×高機動ユニットの食い合わせが、その筋の方々にアピールするかはともかく。
 今まで現れたこびとたちの中でも、一際なんだかよくわからない。
「とりあえず、こんなものかしら……」
 満足そうに辺りを見回し、掃除機のスイッチをぱちんと消した。
 宇宙船のエンジン的な轟音が消え、気まずい静寂が場を支配する。でも、彼女はまったく気にする気配はない。
 軽い足取りで厨房を通り過ぎ、いちばん奥の部屋に入る。
 自分の背丈ほどもあるワードローブ、その前に立って咳払いをひとつ。
 そして軽やかにノック。
 こん、こん。
「開けますよ〜」
 がちゃり、と開いた扉。
 びっしりとかかった衣装(たぶん全部メイド服)、その端っこに隠れるように、さっきの戦闘少女が膝を抱えて格納されていた。
「さあ、泣きやみましたか? シグマ」
「ひっく……えぐ……」
「出てきたらイチゴ味のエネルギー茶をあげますよ〜」
「……エネルギーかくざとう、たくさん入れてもいい?」
「虫歯になったら困るでしょ?」
「じゃあ出ない」
「そうねえ……でも今日は特別に、三つ入れちゃいましょうか」
「わーい」
 ぼふっと勢いよく、衣装ダンスから飛び出してきた。
 ふたりして厨房に移動し、メイドの方がヤカンに水を入れ、火にかける。台所の備品完全実働、ものすごいギミックの凝りようだ。
「それで、なにがあったのかしら?」
 やさしく訊かれて、またうつむいてしまう。
「ほら、だれにも言わないから」
 さらに促され、ようやくそっと打ち明けた。
「ひどいことされたの……」
「って(あんた|おまえ)が言うなああああっ!!」
 ワーニャ姫とマカマカ、絶妙のダブルシンクロツッコミ。
 それでメイドが異変に気づいた。
「あらっ?」
 本当に今まで見えてなかったという感じで、店の外に居並ぶ俺たちを眺め渡す。
「あの、少々お待ちください」
 にっこりと笑みを浮かべる。
 それから、ぱたぱたとスカートをはためかせながら右往左往をはじめた。
 放ってあった掃除機を厨房に放り込み、椅子とテーブルをがたがたと揃え、テーブルクロスを敷き、メニューを並べ、取って返して三面鏡で身なりを確認する。
 その間わずか10秒ほど(バーニア未使用時)。ものすごいてきぱきっぷりだ。
 一通りの支度が終わると台所に戻り、フライパンや鍋に混じって壁にくっついている得体の知れないスイッチ類をぱちぱちと操作する。
 店内がオレンジ色の照明で照らされ、ふわふわしたBGMが流れてきた。
 ドールハウスの壁向こうから、なにかがせり上がってきた。
 びかびか光るネオンサインの看板だった。
 いかにもーな感じの丸っこくきゃぴきゃぴな文字で、こう書かれていた。

 『メイド喫茶 しぐまいむ』

 ……いやもう、これだけでもお腹いっぱいだけど。
 両手をきちんと重ね、ぴしっと背筋を伸ばし、超小型メイドはにこやかに駄目押しした。
「お帰りなさいませ、ご主人さま(はぁと)」



「お味はいかがですか?」
「まずいわよっ! もう一杯!」
「……キ◎ーサイの青汁か」
「だいたいこれっぽちで足りるわけないでしょっ? もっといっぺんにじゃんじゃん持ってきなさいっ!!」
 俺の的確なツッコミを完全無視し、理不尽な要求を垂れ流すチビ姫。
 丸いカフェテーブルの上、重ねられたミニチュアのデザート皿が……
 ざっと数えても20枚以上。ちなみにオーダーは全部プリンアラモード。
 しかも一杯平均2秒で食いきる。わんこそばならぬわんこプリン状態だ。
 それでもメイドは、それはそれは嬉しそうに深々と礼をする。
「かしこまりました、お嬢さま」
「お嬢さまじゃないっ! 姫よ、お姫さまよっ! ワーニャ姫よっ! プリンセスよっ! プリンセスプリンプリンよっ!」
「……いや、最後のはちがうから。あと古すぎてだれもわからないから」
「はいっ、ワーニャお嬢さま」
 わかってないのか聞き流しているのか、軽やかな足取りで厨房に戻っていった。
「プリンセス〜〜〜」
 姫の方は、座ったままで地団駄踏んでいる。
「むしろ、今こそ甘味戦士って名乗るべきだけどな……」
 通常の人間サイズのプリンでも、頭から飛び込んだ挙げ句2分で食いきるバケモノだし。
 隣のテーブルにはクラヴィエ、そのまた隣にはマカマカとティティの姿もある。
 全員キツネにつままれたような顔をしている。
 結局あの後、こびと連中は食虫植物に招かれるかのようにメイド喫茶へ入店。
 わけもわからないままメイドに接客され、各自飲み物などをオーダー。
 まったり時空に取り込まれ、現在に至る。
 俺は当然入れないので、外の畳であぐらをかいている。傍からだと、大きいお兄ちゃんがフィギュアで遊んでるようにしか見えない気がする。うう、想像したくもないぞ。
「……これ、ホントに飲んでも腹こわさないか?」
 自分の目の前、溶けかかかったクリームソーダをものすごい形相で睨みつけながら、マカマカが訊く。
「姉さま、失礼です」
 ティティが小声で諫める。椅子の上にきちんと正座したままで、出されたミルクティーをまるで玉露のようにすすっている。
「なあティティ、あいつ、妖術使いか?」
 ただ者ではないってことは、野生の本能から察知してるんだろう。いやまあ、フツーに考えてもただ者じゃないわけだけど。
「わたしにもよくわかりません」
「あのチビの方は、ノナドポイアとおんなじ臭いがするんだけどなあ……」
 完全武装のまま隅で手持ち無沙汰にしている戦闘少女を盗み見て、首を傾げる。
 マカマカからすれば、生きてる武器そのものに思えるって意味なんだろう。
 ちなみにノナドポイアはといえば、メイドが厨房から持ち出したミニチュア電動包丁研ぎ器の上で、自分から刀身を前後させている。
「き・くちも〜も・こが・く・せです〜♪」
 よっぽど気持ちいいらしい、なにやら上機嫌で歌っている。
「でも、お二人ともきっと身分の高い方です。姉さまも粗相のないように……」
 如才なく言ったティティの前で、姉貴は意を決してグラスを握り、得体の知れない薄緑色の液体を一気に飲み干した。
 そして一言答えた。
「げぷ〜」
「お待たせしました、お嬢さま」
 巨大なお盆を力士の杯みたいにかかげ、メイドが戻ってきた。見かけによらずすっごい力持ちだ。
「しぐまいむ特製プリンアラモード100皿です(はぁと)」
 お盆からテーブルの上に、ものすごい速さかつ正確さで移していく。やがてチビ姫の視界にはプリン以外なにもなくなった。これはこれで壮絶な絵面だ。
「みゃああああああっ♪」
「そんなに喜んでいただけるなんて、メイドとしてとても嬉しいですっ(はぁと)」
「べっ、べつに喜んでなんかないわよっ! ぜんぜん口に合わないけど、もったいないから仕方なく食べてあげてるんだからっ」
 興奮と恍惚のあまり、極度のツンデレ状態になっている。
 ともあれ、これでしばらくは保つだろう
「ああ、忙しい忙しい……」
 楽しそうにつぶやきながら、メイドは駈け足で厨房に戻る。
 勝手口のドアを開け、喫茶店の──というか、ドールハウスの裏に出ていった。
 なにしてるんだと思っていたら、いきなり後ろから声をかけられた。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
「……ってうわっ!」
 振り向くと、コーヒーの注がれたコーヒーカップがお盆ごとひょこひょこ歩いてきた。
 わけではなく、完全に人間サイズのお盆を、小型メイドが涼しい顔で支えていた。重量というか、重心的に無理があることさえ気づかせない、美しい姿勢で。
「本当に申し訳ありません、まだ椅子やテーブルもサイズが揃っていませんので……」
 お盆を畳の上に置いて、優雅な足取りでコーヒーカップに近づく。
 腰を落として受け皿を両手で抱え持つと、腰のバーニアをしゅんっと吹かした。
 カップ&ソーサーごと宙に浮かぶ小型メイド。
 そうして、淹れ立てのホットコーヒーが俺の胸元まで届けられた。
「どうぞ、お召し上がりくださいませ」
 俺が受け皿を支えたのを見計らって、噴射を器用に調整し、音もなく畳に着地した。
 なるほど、バーニアはこういう時便利なわけだ……ってなにか違うっ。
「それでは、なにかありましたらお申し付けくださいませ、ご主人さま」
 定型の決め台詞を言い、お盆と共にバックヤードに退場。そしてまた勝手口から店内へ。働き者だ。
「あの、調停者016さま……」
 サシで会話をする機会を伺っていたのだろう、それまでほとんど口を聞いていなかったクラヴィエが、ようやくメイドをつかまえた。
「いけません、お嬢さま」
 ちっちっちっと、人差し指を唇の前で振る。
「どうぞメイドの時はマイムとお呼びくださいませ(はぁと)」
 なんか源氏名での称呼を要求してるし。
「はあ……」
 困惑しているクラヴィエを見るや、イタズラっぽく声量を下げ、見事な営業スマイルで言う。
「ともあれ、クラヴィエ・ノバ・マディキタリス特命侍従官、お変わりないようでなによりです」
 思慮深いのか天然なのか、今ひとつわからない。
「016……マイムさまは随分とお変わりになったようですね」
「あら? そうですか?」
 自分の身なりを見下ろしながら答える。
 白い髪飾りに白いエプロン、黒のタイツ、紺色の服。ひらひらのレースと赤い飾り縁、そしてメカっぽいアクセサリー。
 たとえるなら未来のメイドだ。何度も言うけど腰にバーニアついてるし。
「この制服、最近シグマとお揃いで新調したんですが、メイドとしての本分はさほど失われていないと思うのですけど」
「そうではなく、業務内容がいささか……その、様変わりしているかと」
「そうそう、それなんですっ」
 メイドはめっちゃ嬉しそうに答える。
「シグマとこの星に降り立ってから1万とんで945年(現地時間)、ようやくこの労働不毛の土地に独自のメイド文化が花開いたのですっ」
 なんだかわからないけど、めっちゃ嬉しそうに続ける。
「単一の主人に仕え、そのお屋敷に常駐するのではなく、自ら屋敷をかまえ不特定多数の主人に仕えるというこの画期的なシステムっ! これこそが、我らメイドロイドが探し求めていた理想の就労形態です!」
「あの、申し訳ないのですが、お話がわかりにくいと申しますか……」
「ただいまリンスフィア本星にも最優先光速通信で報告中です。ああっ、同僚のみんなが喜ぶ顔が目に浮かぶわ……」
 両手を祈るように重ね、うっとりと目をつぶる。
 俺はコーヒー──ちなみに言うとフツーに美味しい──を畳に置いてから、呆気に取られているクラヴィエをひょいっと摘み上げ、手のひらに載せてから顔の前まで持ってきた。
「……大丈夫なのか、こいつ?」
 恍惚状態のメイドに聞こえないように左手をかざし、できるだけひそひそ声で訊く。
「……016さまは大変に聡明な方ですが、思慮が深すぎるあまりか傍目には奇行としか思えない改革を断行されることもしばしばで」
「……要するに、困った人だってことだな」
「……ある意味そうかもしれません」
「……あと、簡単に言うとこいつって何者?」
「……あなたにわかりやすい言葉で言うなら、メイドロボです」
「……メイドロボ!?」
 いやメイドはわかるけど、皮膚とか柔らかそうだし、頬は血が通ってるみたいだし、髪はさらさらしてそうだし、えらく表情豊かだし、見た目ではまったくロボットには思えない。
「……半有機生体ドロイドですので、外観は私たちと全く同じです」
「……おまえらに仕えてるってわけじゃなさそうだけど、どうなってるんだ?」
「……メイドロイドはもともとタウル・ゾビスが雑役用に製造したのですが、ある時反乱を起こし、宇宙要塞を占拠して勝手に和平を要求しはじたのです」
「……なんで?」
「……『仕える者が滅びれば自分たちの仕事がなくなる』という理屈らしいですが」
「……よくわからんけど、『調停者』ってのはそこから来てるわけな」
「……その通りです。そして調停者とは、公明正大にして権力を握る者でもあるわけです。おわかりですか?」
「……まあなんとなくな」
 こいつがなにを狙ってるのか見えてきたぞ。
 内緒話を終えてから、クラヴィエを喫茶スペースの床に戻した。
「こほん」
 わざとらしく咳払いして、再度メイドのそばに近づくクラヴィエ。
「ところで、マイムさま」
「はいお嬢さま、なんでございますか?」
 にこやかに返され、クラヴィエはめっちゃやりにくそうにしている。
 気を取り直し、完全無欠のビジネス口調で切り出した。
「先ほど我がワーニャ殿下が、ご配下の戦闘ドロイドにより大変な侮辱行為を受けました」
「あらっ?」
 メイドが天然に驚いた声をあげる。
 喫茶スペースの隅に立っていた戦闘少女の姿がなかった。
 俺が視線を動かすと、私室のワードローブが内側からぱたんと閉まったのが見えた。立場が危うくなった場合のシェルターとして活用しているらしい。
「まああの子ったら、またタンスに籠もっちゃったのね……」
 頬に手を当て呆れ顔で言う。やっぱりロボットには見えないけどなあ。
 攻め時だと思ったんだろう、クラヴィエがぐいっと威圧的に胸を張りつつ続ける。
「この件に関し、当然タウル・ゾビスは厳重な抗議の意を表明すると共に、謝罪を要求するところなのですが、そちらの誠意いかんによっては、ここはこの私の胸中だけに……」
「そうよそれよそれっ! こっちはもうちょっとで殺されそうになったんだから!」
 話の腰をベキバキ折りながら、食事中のワーニャ姫が会話に入ってきた、つーか口からプリンをまき散らすな。
「あらまあ、殺されそうに?」
 特段の緊張感なく聞き返すのほほんメイド。
「それだけじゃないわっ! 神聖なる決闘の場にいきなり踏み込んできたのよっ!」
「神聖なる決闘?」
「あっ姫さま、それは……」
 クラヴィエが抑えようとするが、もう止まらない。交渉段取り崩壊の危機。
「そうよ決闘よっ! それからわたしの宇宙船の屋根にたくさん穴開けまくって……」
「宇宙船……ですか?」
 目を丸くしてメイドが聞き返す。まあ、当然の反応だろう。
「王室船で来られているとは初耳ですが。どちらに駐機されているのでしょう?」
「ここよっ!」
「ここ?」
「ここがわたしの宇宙船よっ!」
 出た、決め台詞。
 このままワーニャ姫の強引な論理展開に引き込まれるかと思ったら、さすがにメイドロボは場数が違った。
「ああわかりました。宇宙船というのは、タウル・ゾビスとクス・クスによる共同恒星移民船『永久(とわ)の平和と友情号』のことでしょうか?」
「そんなダサい名前で呼ばないでよっ! ていうか、名前なんてどうだっていいのよ! とにかくここはわたしの宇宙船なのっ! 仕方なく乗せてあげてた野蛮人たちが勝手にいなくなってせいせいしたと思ったら、触手生物は来るわレズ巫女は来るわビキニ鎧は来るわメカ娘は来るわで、ホントにいい迷惑よっ!」
『そりゃこっちのセリフだあっ!』と、俺が絶叫ツッコミを敢行しようとした時。
 メイドが微妙な表情を浮かべた。
 様子をうかがうような、憐れむような瞳でワーニャ姫のことを見る。
 そうして言った。
「ですが、『永久の平和と友情号』はすでに……」
「あああっ、お待ちくださいマイムさまっ」
 言葉の途中でクラヴィエがあわてて制止した。
 ごにょごにょほにょほにょと、耳元で何事かを吹き込む。
「なるほど、わかりました」
 20秒後、メイドが深々と頷いた。
「要は、第一次恒星移民計画が頓挫したという現状およびその責任者の処遇について、共同統治者たるワーニャ殿下御自らの処断を受けることを個人的に回避されたい、と」
「わーお声が大きいっ!」
「そういうことでしたら、この件はクラヴィエお嬢さまとわたしだけのヒミツにしちゃいましょう」
 アイドルメイドっぽく片目をつぶって鷹揚に言う。
「ありがたき幸せ……」
「引き替えに490が行ったという王族侮辱行為については不問ということで(はぁと)」
「……う、承りました」
 それはもう苦虫をかみつぶすように答えたクラヴィエ。交渉相手としては向こうが一枚上手みたいだ。
 今ので俺にもわかってきた。
 たぶん、チビ姫の宇宙船はとっくの昔に遭難かなんかしちゃってるんだろう。そこからどうやってチビ姫とクラヴィエが助かったかは知らないけれど。
 とにかく、そのことがチビ姫にわかると自分に不利になるから、クラヴィエはわざと黙っている……というか、チビ姫の壮大な勘違いに話を合わせまくっている。
 それにしても。
 わかっていない風のワーニャ姫のことを見る。
 ここは自分の星の民たちをたくさん乗せて、新天地へ向かう大移民船である……以前俺にそういうことを説明した。それはもう横柄に、自信たっぷりな口ぶりで。
 それ自体、色々ツッコミどころはあるけれど……
 事情が見えてくれば、不憫だなあと思わないこともない。
 ものすごい食いしんぼで、見栄っ張りで高飛車で、時にはイカれた魔法少女の扮装で、その上自分の興味のないことは完全スルーのおばかさんだとしても。
「なんだか知らないけどそんなことはどうだっていいのよっ! もうプリン切れちゃうわよ、ごちゃごちゃ言ってないで今すぐおかわりを持ってきなさいっ!!」
 訂正。やっぱりちょっとイラっと来る。口の周りにプリンついてるし。
「はいお嬢さま、ただ今……」
 嬉々として駈け寄ろうとしたメイドが、不意に立ち止まった。
 エプロンの内懐から懐中時計(だと思う、小さすぎてよくわからないけど)を取り出し、時刻を確認する。
「あらあら、大変」
 文字盤から顔を上げ、メイドロボが言った。
「申し訳ありませんがお嬢さま、そろそろ出番ですので。ああ忙しい、忙しいっと」
 質問の間さえ与えず、いそいそと厨房の奥に走っていく。
「シグマ、ほら、ステージがはじまりますよー。怒らないから出てらっしゃい」
「こらあっ! プリン〜〜〜〜〜っ!!」
 怒り狂う欠食姫君。
「……ステージ?」
 思わず顔を見合わせるクラヴィエと俺。
 喫茶スペースの中央、お立ち台的な丸い舞台の両端から、なにかがせり上がってきた。
 どでかい(1/15スケールにしては)スピーカー一対だった。
 じゃがじゃ〜〜〜〜〜〜〜〜んっ♪♪♪
 常軌を逸した大音量でファンファーレが響き渡った。
「なっ、なんだあっ!?」
 かじっていた氷が終わり、ティティの分の紅茶まで飲み干した挙げ句、ストローが食えないか試していたマカマカが、過剰に敏捷な動作でテーブルの下に身を隠した。
「なにか祈祷のたぐいでしょうか?」
 職業ならではの勘違いしたティティが、椅子の上できちんと背筋を伸ばす。
 現れたのは、マイクを持ったメイドロボだった。
 お立ち台に駈けあがり、ウィンクに投げキッスをおしげなくサービス。
「ご主人さま、お嬢さま、大変長らくお待たせいたしちゃいましたぁ! お腹もいっぱいの昼下がり、あなただけのかわいいメイドがぁ、とびっきりの笑顔と歌と、そして踊りをプレゼントしちゃいますぅ(はぁと)」
 人が……じゃなくて、機械が変わったかのような、きゃぴるんのマイクパフォーマンスが始まった。
「なお、リンスフィアによる永久講和条約第6条第14項、調停業務に必要な臨時監視処として、ただ今よりこの船舶を徴用することにより、店内及びオープンカフェスペース、さらには半径200トメガ以内の近傍空間においては、タウル・ゾビス、クス・クス双方の治外法権及び特権の発動を無効とし、お客様による私闘乱闘の類はこれを警告なしに強制鎮圧できるものとしちゃいますぅ」
 ……語尾だけ無理矢理かわいくしてるけど、自分らにめっちゃ有利な条件をちゃっかり混ぜ込んでいる。あと、オープンカフェはこの部屋の畳のこととして、半径200トメガとか言われても原住民にはさっぱりわからないし。
「おいたが過ぎたご主人さまにお仕置きするのは、萌え萌えな用心棒のシグマさんっ!」
 びしっと右手をかかげた先、衣装ダンスに逃げ込んでいた戦闘少女が、びくびくしながら現れた。嫌なことがあっても仕事をサボらないのはどこかの剣より偉い。
「今日は彼女のお気に入り、第二種航宙域における通常戦闘哨戒装備のかわいらしい兵装で登場です。最近流行りのブルー系スプリッター迷彩と、右腕につけたサークルペネトレーターがとってもポップでキュートですねぇ(はぁと)」
 褒められればまんざらでもないらしい。ポニーテールに手を回し、ぽっと顔を赤くする。てれてれ。
「さあ、彼女のビームにヒットしてお客さんが蒸発しちゃう前に、早速はじめちゃいましょう!」
 ……なにげにブラックユーモアも交えながら、手慣れすぎの司会が続く。
「オープニングチューンはおなじみのこの曲っ!」
 いかにも一昔前のシンセポップなイントロが、大音量をさらに重ねた大音量で流れ出した。そりゃもう壁がビリビリ震えるぐらいに。ステージ下からミラーボールがせり出してきてびかびか回り光り出す。さらには店のそこここに仕込まれたサーチライトが、スカート振り振り超ノリノリで踊るメイドをド派手に照らす。まさに光と音の洪水。センス的には往年のアイドルステージそのまんま。
「Ah〜〜はっやっおーきなーの〜ハウスメイド〜〜〜〜♪♪」
 歌い出しもベッタベタだ。
「ひっこめー! 金返せー! プリン出せー! 胸出せー! さっさと脱げー!」
「なんかわかんないけど胡散臭いぞ〜! インチキ魔導士〜! ヘネモネのしっぽ〜!」
 ここぞとばかりに共闘するチビ姫とビキニ鎧。えげつない野次合戦。
 ぽうっ!
 ぽうっ!
 すかさず発砲する用心棒。
「……おどりこさんには手をふれないでください」
 メイド喫茶に対するコンセンサスがおかしい。
「わーわーわーっ! わたしを盾にしないでよっ!」
「おまえがとろいからだ! ていうかおまえ魔王だろっ! あのキ○ガイ木偶人形を今すぐなんとかしろっ!」
「できるもんならやってるわよっ!」
   ぽうっ!
 ぽうっ!
  ぽうっ!
 ポップなシンセドラムとノリのいいベースライン、それに発砲音。赤青黄色のカクテル光線の中に、時々混じるマジレーザービーム。(当たると即死)

主人を想うハウスメイドの気持ちを高らかに歌い上げるマイムさんと、や んちゃな客2名をレーザービームで駆逐するシグマさん。一見楽しそうだ けど、本質は正真正銘地獄絵図なところに注意。

「み゙ゃああああああっ!!」
「うぉあっ! また髪がこのくそっ! ってわああっ!!」
「だから畳に穴開けるのはもうやめてくれ〜〜っ!!」
 逃げまどう観客、結局頭を抱える俺。
「ノナドポイアこらっ! 呑気に体揺らしてないで助けに来いっ!」
「す・ぱるた・かす〜☆」(意訳:やなこった〜☆)
「『いってらしゃいませ! ご主人さま(はぁと)』」(曲間セリフ)
「姉さま姉さま、もっと静かに拝聴しないと」
「個人的な好みを言わせてもらいますなら、痩身メガネの執事喫茶の方が……」
「あっなったのー元気〜〜メーイードのー誇ぉり〜〜♪♪」
 もはやセリフ順を把握するのさえ困難な地獄絵図の中、狂ったようなメイドの熱唱が続く。
 とにかくまあ、そんなこんなで。
 せなか荘のお騒がせこびとたちは、堂々の3陣営6名になってしまったのだった。
「I'm maid in glory, Maiden story〜、おっつっかっえっしーまーすぅーーーーー♪♪♪」
(以下間奏)


〜つづく〜


【せな★せな 関連情報】
せな★せな 1−1話 「ここはわたしの宇宙船よっ!」
せな★せな 1−2話「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」
せな★せな 1−3話 「我が王家の名において、わたしの奴隷になりなさいっ!!」

せな★せな 2−1話 「魔王さまに捧げるために、この身をしかと清めてまいりました」
せな★せな 2−2話 「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
せな★せな 2−3話 「あ……魔王さまのここ、柔らかくて温かい……」
せな★せな 2−4話 「四の五の言わずに戦って死になさいっ!」

せな★せな 3−1話 「未登録宙域における戦闘示威行為を確認」
せな★せな 3−2話 「この落とし前どうつけてくれちゃう気よっ!」

せな★せなキャラクターソングCD、Comic FANBOOK発売 「一曲一曲の破壊力がとんでもないです。」
せな★せなキャラクターソング集 ショート版&ジャケットイラスト公開!
せな★せなのコミック化決定!Web連載に追加メンバー!CD&同人誌の発売日決定!
コミックガム12月号発売 「せな★せなコミック連載ハジマタ!!キタキタキタキター!!」

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