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2007年11月04日

【せなか企画】 せな★せな 4−1話 「世界の中心日本橋にどーんと自社ビルや!」




せな★せな 4−1話
「世界の中心日本橋にどーんと自社ビルや!」




 コンビニの角を折れると、俺のアパートが見える。
 ところは大阪日本橋某所。
 木造2階建て、家賃1万円、六畳一間、トイレ共同風呂はなし、名称はせなか荘。
 なんの変哲もない、時代後れの安アパートだ。
 少なくとも、何週間か前まではそうだった。
 今では6人のこびと付き。タカビーツンデレ姫&腹黒侍従セット、凶暴ビキニ鎧姉&レズ巫女妹セット、全身武器娘&意味不明メイドロボセット、よりどりみどり。
 畳と天井には便利な風穴付き。
 分子構成レベルで綺麗な円形にくり抜かれてるおかげか、縁が崩れてきたりしないのだけが救い、こびと驚異のメカニズムだ。
「はあ……」
 溜息をつく俺。自分のねぐらに帰ってきて憂鬱になるってのもなあ……
 天を仰ぐ。
 きれいな青空、ぽっかり浮かぶ白い雲。6月に入っても、梅雨の気配はまだない。
「屋根の穴、早いとこ塞がないと……」
 つぶやいた時だった。
 アパートの玄関前に、知った顔がいるのに気づいた。
 中に入ろうか入るまいか、めっちゃ迷ってるって感じ。
 ちっちゃい女の子だ。
 ちなみに、この場合の『ちっちゃい』は身長10センチ強という意味じゃなく、普通に年齢が低いという意味だ。
 ……などと、幸せの国の住人的な危ない補足をせざるを得ない自分の境遇が哀れだ。
 それはともかく、彼女の出で立ちはといえば。
 ショートカットの赤っぽい髪に、ちょっと挙動不審気味な瞳。
 メイドなんだかゴスロリなんだか、よくわからないひらひらな服。
 しましまのオーバーニーソックスに、腰から提げた意味のわからないメーター的なもの。
 間違いなくあの子だ。
 こびとたちの親玉格であるワーニャ姫への食糧(プリン等甘味)供給係。
 後から聞いたところによると、どうもそれは『毎日貢ぎ物しないと呪ってやるからっ!』とチビ姫と侍従が脅したせいらしい。つっても、そんな理不尽な目に遭うためにはまずせなか荘に立ち入らなきゃらないわけで、その辺りの事情がよくわからないけど。
「ちょ──」
 声をかけようとした瞬間、脱兎のごとく逃げていった。
 いや、逃げてない。
 建物の角から顔だけ出して、俺のことをじーーーーっと見ている。
「いや、そこまで警戒しなくても……」
 お兄さん、ちょっぴり傷ついちゃうぞ。
 どうしたものかなあと思っていると。
「おや……」
 なにか俺に言おうとしているっぽい。
「おや、なに?」
「おや……」
 2秒タメ。
「のしにめにあえないしょうばい……」
「渡世人かよっ!」
「おや……」
 2秒タメ。
「くそくすぎるちゅうぼうぶりにすれはおおあれ……」
「巨大掲示板かよっ!」
「おや……」
 2秒タメ。
「さいがふそくしてすいへいがかいけつびょうに……」
「英国海軍かよっ!」
「おや……」
 2秒タメ。
「まんにふりこんでちしりょうのちをぬかれる……」
「鷲巣麻雀かよっ!」
「おや……」
 2秒タメ。
「まのなかゆくきしゃぽっぽだっせん……」
「(自粛)かよっ!」
 次々と繰り出される、『おや』から始まる鬱な言葉コレクション。
 さまぁ〜ず○村もしくはハリセンボン×藤張りの高速ツッコミで応戦する俺。
 まったく意味がわからない。
 このままでは埒が開かないと思った……かどうかは知らないけど、女の子が腰のメーターに手をやった。
 メーターといっても、段ボールかなにかで手作りしたようにしか見えない。
 扇形に振られた目盛り、真ん中にはへろへろな手書き文字で、こう書いてあった。
 『てんしょん』
 女の子は針を指でつまみ、『L』から『H』方向にへこっと倒した。
 意味するところはひとつ。
 女の子、はいてんしょんモードに移行。さらに意味不明。
 とりあえず見守る俺に、満を持してのセリフ。
「おや……」
「……いや、ひとつも変わってないし」
 かまわず2秒タメ。
「ちん」
「あっこらダメだっいくらはいてんしょんでもその歳で下ネタはっ……」
「はらってください」
「……はい?」
「おやちん払ってください〜」



「ええと、名前は?」
 とりあえず、女の子を玄関先に座らせ、俺はそう訊ねた。
 部屋に上げてもよかったけど、幼女誘拐とか思われてもアレだし、おっかないこびとたちもたくさん巣くっているから、とりあえずここが無難だと判断した。
 内気なのか生きる気力がないのかビミョーな声で、女の子は答えた。
「せなかちゃん……」
「せなかちゃん?」
 聞き返すと、こくこくと首を縦に振る。
 アパートの名前、せなか荘。
 この子の名前、せなかちゃん。
 苗字なのか名前なのかはわからないけど──いやフツーに考えれば『瀬中』とかで苗字だけど──関係がないと思う方がおかしい。
「もしかして、大家さんちの子か?」
 ぷるぷるぷる。
 首を横に振る。
「ってちがうのかよっ!」
 なにやらいろいろ複雑らしい。
「おやちん〜」
「あっごめん、家賃な、家賃」
 言われてみれば、先月はそりゃもういろいろなことが立て続けにあったおかげで、今月分の家賃を振り込むのを完全に忘れていた。月1万という激安価格だから、払わなきゃって実感が少ないせいもあるけど。
 Gパンの尻ポケットから財布を出そうとして、気づいた。
 自分の名誉のために言っておくと、普段なら必ず万札が入れてある。『人生いつ何があるかわからないから』が口癖だったおふくろの遺言のおかげだ。いや、まだ田舎で健在だけど。
 だが今、俺の手持ちは3000円しかない。
 なぜかというとだ。
 1時間前、俺は日本橋界隈の家電量販店をかたっぱしからハシゴしていた。
 そして、めっちゃ安い25型ブラウン管式地デジテレビ(超珍品)とめっちゃ安いCDダブルラジカセ(不良在庫品)をセットで値切り倒し、さらには配送料無料まで勝ち取って注文してきた。言うまでもなく、この前の爆発で全損したのの置き換えだ。
 当初予定よりかーなり贅沢をした結果、生活費を余裕で割り込む散財となった。大阪名物値切りバトルの落とし穴と言える。それでも、学食+マクド+あさチャンでギリギリなんとかなるだろうと高をくくっていた。
 だが、こうなったら仕方がない。
「ちょっとコンビニのATMに……」
 行こうとして気づいた。
 待てよ? 今、口座にいくら残ってる?
アパートの被害に関しては、保険で全額下りるとは言ったけど、当座の修理費用は俺が出している。何せ人生はじめての罹災経験だ。ぶっちゃけ興奮状態だったから、残金なんか考えずに口座から下ろしては、工事の人にほいほい支払ってた。
 背中に冷たい汗が伝わるのを感じながら、なんとなーく計算してみる。
「前のと今度のでガラスが4枚だろ? ブルーシートが2枚と台所周り、あと壁修理の分が、ええと……」
 結論が出た。
 残高はたぶん、1000円あるかないか。
 そして、バイト代が入るのは5日後……
 せなかちゃんの方を覗う。
 これから捨てられると確信したものの、抵抗するでもない悟りきった小犬の目で、俺のことを見ている。とっても切ない。
「あのさ、物は相談なんだけど……」
「………」
 俺が切り出すなり、てんしょんめーたーの針をへこっと『L』に倒した。
「えーと、せなかちゃん?」
 彼女の周囲に、何か黒っぽいATフィールド的なものが展開された……のを、俺はたしかに感じた。
 ずずずず……
 せなかちゃんを中心にして、玄関の床が凹んでいく。
「うああっ! めり込んでるめり込んでる!」
 あまりのローテンションぶりに、空間が重力偏移を起こしているらしい。
 あわてて助け出そうとした、その時だった。
「からんころんから〜ん」
 ドアベルの音っぽい声が響いた。
 現れたのは、三人の男たちだった。
「邪魔するで〜」
「あの社長、今時口でドアベルはどうかと……」
「さくら、おまえわかっとらんなあ。ここは天下の日本橋やで? 何事もツカミが肝心っちゅーやっちゃ……オラとりのっ、おどれも愉快な下っぱらしく無意味に肩で風切らんかいっ!」
「やっ、やめてください社長〜」
 ネイティブ■のつくフリーダムな職業の方及び、お連れの方々2名だった。
 ちなみに、ド派手な背広にノーネクタイの『社長』の方が部下たちよりちびっちゃいところまで、新喜劇のフォーマットを完璧に踏襲している。ポジション的には池乃○だかだ。
「おっ、なんや嬢ちゃんどないした? 飴ちゃんやろか〜?」
 玄関先、全力で落ち込み中のせなかちゃんに気づくと、コテコテ社長さんが過剰に親しげに腰をかがめた。
 何気なく頭に触れようとして、びくっと指を止める。
 メイドだかなんだかよくわからない髪飾り、その天辺についているちいさな突起……
 それが、まるで気弱なレーダーのように、くるくると回っていた。
「つ、通天閣……」
 コテコテ社長が、ごくりと息を飲み、言った。
「こんな嬢ちゃんからしてコレやなんて、さすがNGKが目と鼻の先の土地柄や……」
 前々から敢えて触れないようにしてたけど、やっぱりあれって通天閣だったのか。
 謎の関西少女にまつわる不毛なひみつがまたひとつ無駄に増えた。
「とりのっ、島●譲二譲りのポコポコヘッドや! いっちょかましたらんかいっ!!」
 ちょっぴり太めでスキンヘッドな方の部下に、速攻で命令する社長。
「あの、ボクそういうのは特に譲られてないんで」
「東天満あがりの田舎もんと舐められたらあかんやろっ。おどれも灰皿ぐらい仕込んでこんかいっ、気の利かんやっちゃなあ!」
 せなかちゃんのソレを宣戦布告と取ったのだろう、大阪人同士のプライドが炸裂している。っても、せなかちゃんの方は天然というか、意味不明だけど。
「なあ嬢ちゃん、頭に通天閣乗っけてなに落ちこんどるのか知らんけどなー、こんなとこで根ぇ生やしとったら、ユンボでガ〜〜〜〜っと持ってかれてもオッチャン知らんで〜?」
 なだめすかしても梃子でも動かない……というか、むしろこっち側の空間に存在しないせなかちゃんと、案外人が良さそうなコテコテ社長。
「まーええまーええ。若い頃はなー、悩んだ方がええんや、苦労しといた方がええんや。それでこそ客に真心が届くっちゅーもんや、第二のオー□ラ輝子っちゅーもんや」
 ……将来は地元密着型演歌歌手と勝手に決めつけてるけど。
「それより社長、早く下見済ませないと……」
 長身メガネの方の部下が、あからさまにやる気のない様子で進言する。
「おーせやったせやった。ほなとっとと見よか〜」
 靴のまま平然と廊下に上がり込んできた。
「以外と広いなあ……場所も悪ないし、こら掘り出しもんちゅーやっちゃで、ホンマ」
 こっちのことを完全に無視して、なにやら検分している。
 こびとたちの邪悪かつ執拗な破壊活動から俺が必死に守ってきた建物だ。ヤ○×だろうがなんだろうが、さすがにむっとする。
「このアパート、土足禁止なんで……」
「どぉおそぉおくぅううううぅ〜〜??」
 俺が言おうとするなり、顔を捩じ込むように近づけてきて、面白いアクセントで言ってきた。うわあ、ホントにこういうことするんだな。めっちゃツバ飛ぶし。
「兄ちゃん、おもろいこと言わはりますなあ?」
 威厳と余裕しゃくしゃくで、コテコテ社長は俺を下からねめつけつつ言う。
「このボロアパートなあ、三日後に取り壊しが決まりましたんやー。そないなとこ今さら土足も豚足もあらしまへんなと思いまへんか〜? っておまえらホンマにアレやなあ! 社長がおもろいこと言うたんや、全力で笑ってバックアップしたらんかいっ!」
 背後で手持ち無沙汰にしている部下二名に、大変理不尽な要求をしている。
 それはどうでもいい。問題はセリフ前半、
『このアパートなあ、三日後に取り壊しが決まりましたんやー』
 完っっっ璧に、寝耳に水な言葉だった。
「いやでも俺は……」
 今まさにここに住んでるんすけど。
 と、言おうと思ったら、もう社長は廊下をドスドス進んでいた。めっちゃせっかちだ。
「しっかしまあ、どっこもかしこも骨董品やなあ……」
 ……それに関しては同意だけど、一応まだちゃんと建ってるわけで、貧乏学生も住んでるわけで。
 こっちが問いだそうとしても、コテコテ社長はどこ吹く風だ。
「内装引っぺがしてどこぞのてーまぱーくに売りに行こか〜?」
 言いながら、なにげなく共同便所の戸口に手をかける。
「あっ、そこは……」
 俺が止める間もなく、無造作に開いた。
「……………」
 そこには、奴がいた。
 一見犬的だけど、絶対犬じゃない純白のボディー。
 鋲が打たれた真っ赤な首輪。
 ○と△で構成された、何も考えていない顔。
 このアパートに定住している(らしい)、謎の幻獣だった。
 ……ぱたん。
 めっちゃ丁寧に便所の戸を閉めた社長。
「………」
 俺と顔を見合わせる。
「……ビリケンはんの乗りもん?」
 そんな福々しいもんじゃないです、たぶん。
「アレやな、このところ淀川挟んであっちにカマしとったから、疲れとるんやな、ワシ」
 めっちゃ強引に自分を納得させている。
「まっ、今日はこのぐらいにしといたろ」
「社長、お帰りですか?」
「ボクら直帰扱いで、信◎書店とか寄りたいんですが……」
 やっとお守りから解放されると思ったのだろう、寄ってきた部下たち。
「さくら、とりの、ワシゃ決めたで〜」
 コテコテ社長は、つんつんと足元──せなか荘の敷地を指すと、めっちゃ凛々しい顔立ち&仁王立ちで宣言した。
「世界の中心日本橋にどーんと自社ビルや! もう一花咲かせたるで〜」
「はいはい……」
「余計な仕事が増えないなら、もうどっちでもいいです……」
「ほな邪魔したな〜。からんころんから〜ん!」
 くちドアベルを高らかに響かせ、謎のコテコテ社長は満足そうに帰っていった。
「………………」
 残されたのは、ひたすら無言の俺。
 頭の中を駆け巡る、コテコテ社長の無慈悲な言葉。
『三日後に取り壊し』
 にもかかわらず、今月分の家賃を取り立てに来たと称する謎の女の子。
「せなかちゃん、あのさ……」
 おずおずと聞いてみた。
「………」
 等身大フィギュアに擬態中で、なんの返事もない。
 てんしょんめーたーの針を、へこっとH側に振り切ってみた。
 びびんっ!
 ──うおあっっ、ノーアクションでいきなり直立した!
「せなかちゃん、今の話だけど……」
「おや……」
 2秒タメ。
「ちん※※の※っちょ※ら※な※の※が※て※※※……」
「どわあああああああっ!!」
 こ○ものじ△んばりにいけないセリフを直噴しはじめたので、超大慌てで口を塞ぐ。
 じたばたしてたと思ったら、おでこといい耳の先といい茹でタコみたいに真っ赤になって、脂汗をだーらだら流しはじめた。
 ちょっとだけ口から手をどけてみる。
「……ちんぺれもひーん」
 これ以上ないぐらい様子がおかしい。
「せなかちゃん? せなかちゃんっ!?」



 ごおおおおおおぅ……
「うあああっ、通天閣から火があああぁっ!」
 スペック以上のはいてんしょんモードに設定すると、大変デンジャーだとわかった。
 ……いや、目下の問題はそっちじゃなくて。
 三日後に取り壊し。
 せなか荘建立(こんりゅう)以来、最大の危機到来だった。


〜つづく〜


【せな★せな 関連情報】
せな★せな 1−1話 「ここはわたしの宇宙船よっ!」
せな★せな 1−2話「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」
せな★せな 1−3話 「我が王家の名において、わたしの奴隷になりなさいっ!!」

せな★せな 2−1話 「魔王さまに捧げるために、この身をしかと清めてまいりました」
せな★せな 2−2話 「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
せな★せな 2−3話 「あ……魔王さまのここ、柔らかくて温かい……」
せな★せな 2−4話 「四の五の言わずに戦って死になさいっ!」

せな★せな 3−1話 「未登録宙域における戦闘示威行為を確認」
せな★せな 3−2話 「この落とし前どうつけてくれちゃう気よっ!」
せな★せな 3−3話 「ご主人さま、お嬢さま、大変長らくお待たせいたしちゃいましたぁ!」

せな★せなキャラクターソングCD、Comic FANBOOK発売 「一曲一曲の破壊力がとんでもないです。」
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せな★せなのコミック化決定!Web連載に追加メンバー!CD&同人誌の発売日決定!
コミックガム12月号発売 「せな★せなコミック連載ハジマタ!!キタキタキタキター!!」

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