2007年11月11日
【せなか企画】 せな★せな 4−2話 「クラヴィエ、行きまーす!」
せな★せな 4−2話
「クラヴィエ、行きまーす!」
●6月某日 大阪日本橋 メイド喫茶(自称)『しぐまいむ』にて
「さて、今日おまえらこびとに集まってもらったのは、他でもない」
「おかわりはいかがですか?」
「気は進まないけどそこまで言うなら食べてあげるわよっ!」
「あたしもおかわりするぞっ! このよくわかんないやつ超特メガ盛りでっ!」
「ちょっとあんた、王族たるわたしよりスゴい注文するってどういうことよっ!」
「気は進まないんだろ? 無理して食べるなって、チビ魔王さま(にへら〜)」
「うううううっ……ちょっとそこのメイドっ、こっちは超特ギガ盛りよっっ!! この礼儀知らずの野蛮人に目にもの言わせてやるんだからっ!」
「おまえこそ、食いすぎて腹から破裂しても知らないからな!!」
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メイド喫茶しぐまいむでの一コマ。この後チビ姫とビキニ鎧による無茶食い一騎討ちに突入。単純に食う量なら犬一頭アレしちゃう野蛮娘マカマカに分があるけど、甘味勝負になると形勢が逆転する感じ。シグマは奥でエネルギー茶を飲むだけで不参加。賢明だと思う。
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「かしこまりました、とっても食いしんぼなお嬢さまがた(はぁと)」
「おまえらメイド喫茶を独自に満喫してないで俺の話を聞けえええぇっ!!」
……という感じで始まった、第1回せなか荘こびと会議。
まず、こいつらをひととこに集めるのがすっごい苦労だった。
なだめたり脅したり騙したりで中立地帯──せなか荘1階にある管理人室にあるメイド喫茶なミニチュアドールハウス──に集合させてみれば、いきなりお茶会というか大食い会が始まって、メニューは飛ぶわ皿は割れるわメイドは踊るわで大騒ぎ。
「エネルギーかくざとう、もっとたくさん入れたい……」
「よろしければ私のガムシロップをお使いください。甘味は少々苦手ですので」
「わーい」
……戦闘少女がエネルギー角砂糖を欲しがりつつも睨みを効かせてるのと、クラヴィエが色々な意味で気をつかっているおかげで、本格的なケンカにならないだけマシだけど。
「魔王さまっ、ささ、お口をあーんって開けてくださいませ(はぁと)」
「あーうっとうしいっ! コドモじゃないんだからひとりで食べれるわよっ!」
「ティティ! そんなチビ魔王チヤホヤしてないでってあっこれあっまあ……」
「嫌なら降参しちゃいなさいっ。腐った肉ばっかり食ってる野蛮人には、優雅なスイーツの味なんてわかるわけないんだから」
「ぬぁんだと〜〜っ!!」
「……とにかく、せなかちゃんの話によるとだ」
めげることなく、俺はかいつまんで状況を説明した。
つけ加え、昨日大家さん宅に出向いて確認したことも。
結論から言うと。
せなか荘が取り壊されるというのは本当のことらしい。
前々から話はあったのだという。先祖代々の土地だから手放すのも忍びなく、せなか荘の家賃収入によって少なくとも税金は払えていたから、別に売る気もなかった。
そんな状況が、1ヶ月前に一変した。
お化け騒ぎだ。
最初の頃は、風もないのに窓がガタガタ震えるとか、だれもいないのに足音が聞こえるとか、ありふれたものだったらしい。それでも店子は気味悪がって、一人また一人と引っ越していった。仕方なく家賃を下げてみたものの、新しい入居人たちも三日も保たずに出ていった。
さすがにもうやっていけないと、不動産屋を呼んで売り渡し交渉を開始した矢先。
ついに大家さんまでが、その怪奇現象に遭遇した。
見回り中の深夜、だれもいないはずのせなか荘廊下。
そのお化けは、この世のものとは思えない声色で、大家さんにこう言ったのだという。
『わたしの宇宙船に上がり込んどいてなんの挨拶もないなんて、なんて野蛮で礼儀知らずな宇宙生物なのよあんたたちはっ! ていうか人んち来るのにどうして貢ぎ物とか持ってこないのよっ! ちゃんとしないと一族郎党皆○しにしてやるんだからっ!』
…………。
『そりゃあ、恐ろしがっだあ……』
まんが日本昔話の登場キャラライクなボイスで、大家さんは首をゆっくりと振った。
ありゃあきっと、最近この界隈でよく聞くツンなんとかいう妖怪の仕業だろうとも言った。
それ妖怪じゃないですと思ったが、敢えて指摘しないでおいた。
で、その事件の直後。
チャレンジャブルな苦学生が1名、206号室にサクッと入居。
その後も怪現象は相変わらず起こるというか、火の気がないのに爆発して壁が半壊とか、近隣一帯で焼かれた犬猫の骨が見つかるとか、あからさまに凶悪化しているものの、新たな生贄が呪い的なものを一手に引き受けてくれると期待し、とりあえず放置決定。
平行して不動産屋が売買話を進めてしまい、『あの廃アパートつきの土地が売れそうですよ』と言ってきたのがまさに昨日。それまですっかり忘れていたのだという。
……この話を聞いた時の俺の心情を、想像してみてほしい。
5月初めという中途半端な時期に入居者がいなかったのも、家賃があり得ないバーゲン価格だったのも、それどころか爆発事故を起こしてさえお咎めなしだったのも、ぜーんぶいきなり合点がいった。たぶんチビ姫たちが絡んでるんだろうなとは思ってたけど。
絡んでるどころの騒ぎではなかった。
それはまあいい。
問題は俺の身の振り方だ。
水面下で取り壊しが決定していたボロアパートを、大枚はたいて修理していた俺の立場だ、境遇だ。
まず、修理費用は保険で全額出るという話だったものの、俺が保険屋さんだったら絶対払わないと思う。結果としてものすごーく不自然な行動になってるし。
引き払うなら引き払うで、次の住処を早急に手配しなきゃならない。
大家さんは他のアパートを紹介してくれるとは言ってたけど、月1万ではないだろう。
悪のこびと軍団に乗っ取られないよう、日々不毛な戦いを繰り広げてきたため、自分の部屋にそれなりの愛着もある。
ぶっちゃけ立地が便利だってのもある。
大阪は保証金とかで引っ越し代がメッチャ高くつくってのもある。
三日後に出てけって言われても、買い直したばかりの家財ごと路頭に迷うしかないってのもある……
『……………』
めっちゃ熟考してから、俺は訊いた。
『月にどのぐらいあれば、アパートとしてやっていけるんですか?』
めっちゃ熟考してから、大家さんは答えた。
『家賃2万円でのぉ、3人住んどった時分にゃなんどが……』
だから俺は言い放ったのだ。
『俺が6万円払います。それなら文句ないっすね?』
「そういうわけだ」
「げぷっ、おかわりよっ!!」
「…………うぅ」
「もう降参〜? 野蛮人のくせにだっらしな〜い彡☆」
「……くっ、あたしだって、ヘネモネ食いなら星でいちばんの意地があるっ!! おかわりだっ!!」
「魔王さまがんばって〜(はぁとはぁと) 姉さま破裂しちゃえ〜(ぼそぼそっ)」
「しぐまいむ特製すいーとイチゴパフェ☆超特ペタ盛りふたつですね。かしこまりましたぁ(はぁと)」
「シグマもあまいのたくさんたべたい……」
「真似なさらない方が健康によろしいかと」
「……………」
甘味大盛り大食い大バカ選手権が、まさに佳境に入ったところだった。
「……おまえら、ちょっと競技中止してこっち来い」
チビ姫とビキニ鎧、駄目フードバトラーどもの頭をつまんで、メイド喫茶から外に出す。食い過ぎで文鎮みたいに重い。おまけに腹が素焼きのタヌキみたいにぷっくぷくになってるし。
「ちょっと奴隷っ! なにするのよっ! まだ決着ついてないんだからっ!」
「ゔゔゔっ、揺らすな〜、口から漏れる〜」
……このまま行くとビキニ鎧の反則(リバース)負けっぽい。
「とにかくだっ! このアパートに住みついた以上、おまえら今月から家賃1万円ずつだ! もちろんそっちのメイドと戦闘ロボもだからな。ほら払えさあ払え、今すぐ耳を揃えて払えっ!」
いちばん言うことを聞かなそうな2名を目の前に吊しあげたまま厳命する。なんだか嫌な飲み会幹事みたいになってきた。
「私ども全員ですと、あなたの分も含めて7万円になると思うのですが、余剰分の1万円はどこに行くのでしょうか?」
些末なことに鋭いクラヴィエのツッコミ。
「……それについてはただ今考え中だ」
あわよくば俺の払いはゼロにしちゃおうとか考えたのはナイショの方向で。
「あの、お訊きしていいですか?」
今度は巫女娘ティティがおずおずと切り出した。
「○△ザなる凶獣を鎮めるイチマンエンというのは、どのようなたぐいの捧物なのでしょう?」
……さすがは野蛮な星出身、1ミリたりとも伝わっていない。
「ちなみに、クス・クスには貨幣という概念が存在しませんので」
澄まし顔のクラヴィエが的確なフォローを入れてくる。
「あー、なんて言えばいいのかな……」
どうにか説明しようとした時、お盆を小脇にしたメイドがにこやかに言ってきた。
「こういうのはいかがでしょう?」
「一応聞くけど、なんだよ?」
「ひとつのお部屋をみんなで借りて、仲よく暮らすんです。そうすればお家賃も安くて済むし、貯金も毎月たくさん貯まってとってもお得です(はぁと)」
出稼ぎアジア人みたいなことを言い出す、宇宙から来たメイド。
「だめでしょうか?」
「だめとか言う以前に、それなんの解決にもなってないから」
「そうですか……」
本当にいい考えだと信じ切っていたんだろう、元気なくうなだれる。
「……マイム、だいじょうぶ?」
「大丈夫よ。シグマは本当にやさしいのね」
心配げな戦闘ドロイドの髪を、愛おしげに撫でる。
「たっくさん働いてお店を大きくしたら、シグマにもお小遣いをたくさんあげますからね」
「えっと……シグマ、ほしいものがあるの」
「なにかしら?」
「はくへいせんとう用のそうび」
「あら? プラズマブレードのシールドソードならこの前装備してあげたじゃない」
「よりたいきゅう力にすぐれた改良がたがほしいの」
「この前のじゃいけないの?」
「だって、あれだと鎮圧対象に確たる打撃をあたえられないんだもん」
「いい子にしてたら、ね(はぁと)」
「わーい」
「…………」
やさしげだった会話は、セリフの漢字率が上昇するにつれコメント不能な領域に。
遺憾ながら、唯一話が通じているのはクラヴィエだけだと判明した。
「おまえからもチビ姫に説明してやってくれよ」
「そう言われましても……家賃などという下賤の言葉が、はたして姫さまに理解できるかどうか」
「それ以外の言葉も理解できないけどな」
「失礼ね! ちゃんとわかってるわよ〜〜〜っ!」
吊されたままうねうねじたばたしだしたチビ姫。仕方がないので地面に下ろしてやった。ついでに顔が青くなっちゃってるビキニ鎧も下ろす。この状態で吐かれるとアレだし。
「じゃあどういうことか説明してみろよ」
「こほん」
俺が促してやると、チビ姫はもっともらしく咳払いしてから、おもむろに言った。
「勝手に乗り込んできた宇宙生物を一匹エアロックから放り出さないと、重量オーバーで地表に激突しちゃうんでしょ?」
1オングストロームたりともわかっていなかった。
「……つーかな、宇宙船を現状認識のベースにするのはいいかげんやめてくれ、頼むから」
「問題はどいつを船外投棄するかよね……」
俺の懇願を綺麗に無視し、自分とクラヴィエ以外のメンバー(俺含む)を、嫌な笑顔で眺め渡す。
「……よくわかんないけど、戦って負けた奴を外にほっぽり出すってことでいいんだなっ!」
青息吐息のビキニ鎧が、よろめきながらも戦闘態勢に入る。さすがはケンカ上等娘。
「ノナドポイアっ!」
愛用の武器、生きてるので色々めんどくさい魔剣の名前を呼ぶ。
メイド喫茶備品の電動包丁研ぎ器で、またも自分を研磨していた。
「じゅってん・じゅってん・じゅってん・じゅってん・ゆりりっく〜♪」
上機嫌の時は自然と歌が出ちゃうらしい。温泉に浸かったオッサンか。
「……刀身が磨り減ってなくなっちゃっても知らないぞ、おまえ」
「ゆりりっく〜♪」
愛剣とたわむれているマカマカに、チビ姫が厳しい声で言う。
「呑気に決闘なんてしてる暇ないわ。早くこの血清が届かないと地上で待ってる美少女隊員たちが触手にアレされたいやらしい毒のおかげで全滅しちゃうのよっ!」
「悲壮な定番SFシチュエーションにまで無理矢理触手テイストを混入するなああっ!」
「じゃあどうするんだよ? 魔王」
不満げに聞き返すマカマカ。
「そんなの決まってるじゃない」
ふんぞり返りつつ言う姫。
「クラヴィエ」
「はい、姫さま」
ごとり。
カフェテーブル上に取り出されたのは、お得意のワンボタンデバイスだった。
「……進行上一応訊いてやるけど、今度は一体なんのつもりだ?」
「ロシアンルーレットです」
ちがうからとツッコむ間もなく、クラヴィエがもっともらしく説明をはじめる。
「このボタンを押した時、高らかにチャイムが鳴りひびいた者が、貴賤立場を問わず自らエアロックから船外に身を投じ、現在持ち上がっているもろもろの問題を全て単独で解決せしめた上で、第一次恒星移民計画失敗についてもその全責任を追うのですっ!」
「……後ろの方、おまえの個人的な責任転嫁が入ってたぞ」
「まあ、とっても楽しそうなゲーム(はぁと)」
両手をぽんと打ち合わせ、めっちゃ笑顔で同意する頭の軽いメイドさん。
「そうと決まれば、今すぐ準備しますからっ」
言うが早いか、店の中央にあるステージに駈けていく。
じゃがじゃがじゃがじゃがじゃ〜んっ!
安っぽいファンファーレが鳴り響き、せり上がってきたミラーボールがカクテル光線を八方に放射する。
「ご主人さま、お嬢さま、優雅な午後のひととき、とっても楽しいゲームの時間がやってまいりましたぁ(はぁと)」
いつの間にやらマイクを持ったメイドが、ちゃっちゃと司会進行している。
「なお、クラヴィエお嬢さまの持ち込み企画ということで、このお時間は特別料金となっちゃってますぅ(はぁとはぁとはぁと)」
「………」
抜けているのかしたたかなのか、やっぱりよくわからない。
「とにかくそのようなわけですので、まずは私から……」
いそいそとボタンを押そうとしたクラヴィエを、俺はあわてて指先で止めた。
「待て待て待てっ、そんなのおまえの胸先三寸でどうにでもなるだろっ! おまえの機械なんだから」
「なにを失礼なことを。私とて貴族の証たるこの万能デバイス、トボス・タタンを受け継いだ者、そのような卑劣な不正はゴニョゴニョゴニョ……」
「語尾をテキトーに濁して誤魔化すなあっ!」
断固阻止状態に入っている俺を尻目に、チビ姫が残りメンバーにきっぱりと言う。
「いいわね? 恨みっこなしよっ!」
「おーしっ、じゃああたしが2番目に押すぞおっ!」
「シグマも押していい?」
「おまえらダメな意味で人を疑わなさすぎっ!!」
「これはあの、万が一姉が当たってしまった場合、もう永久にサヨナラできるという夢のような神事なのでしょうか?」
「……いや、めっちゃ期待を込めた瞳で訊かれても」
「それでは最初の挑戦者は言い出しっぺのクラヴィエお嬢さまっ、張り切ってどうぞっ!」
だららららららららららららららららっ……
「いちいちドラムロールに切り換えなくていいからっ!」
「クラヴィエ、行きまーす!」
「だから古◎徹っぽく言ってもダメだっ……」
今度は止める間もあらばこそ、ぎゅううっと押し込んだクラヴィエ。
ぴんぽーん。
チャイムの音が高らかに鳴り響いた。
「……………」
全員の視線がクラヴィエに集中する。
「いえあの、これはなにかの間違いで……」
ひきつった笑顔を浮かべながら、もう一度押してみせる。
ぴんぽーんっ!
弁解をかき消すように、さらにさらに高らかに鳴り響いた。
ぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴぽぴんぽーん!!
小学生のイタズラのように連続で鳴り響きはじめた。
そしてチャイムの音は、そのまま聞き覚えのある関西弁に変わった。
『邪魔するで〜』
『社長、大声出すと近所迷惑ですから』
『景気づけや景気づけ!』
『ていうか、別に毎日来なくても……』
『わかっとらんやっちゃなあ、毎日ちゃあんと水やりせんと地面から自社ビル生えてこんやろ? ってシャレやシャレやっ、「うわっ建てもん代一銭も出さんつもりやこのオッサン」的な目でワシを見るのはやめんかいっ!』
社長さんのくち呼び鈴だった。
「まあ、声色でわかってたけどさ……」
○のつく宇宙生物、襲来。
〜つづく〜
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