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2007年11月18日

【せなか企画】 せな★せな 4−3話 「よくわからない悪の黒幕的ななにかっ、覚悟しちゃいなさいっ!!」




せな★せな 4−3話
「よくわからない悪の黒幕的ななにかっ、覚悟しちゃいなさいっ!!」




「なんや兄ちゃん、また入り込んどるんかい。不法侵入やでホンマ〜」
 階段から下りてきた俺を見るなり、コテコテ社長が大げさな顔で言った。つーか、そっちこそまた土足で上がり込んでるから。
「俺はここに住んでるんですっ!」
 言い返すなり、例によって顔を斜めにグリグリ近づけてくる。
「なんやて〜……」
 目一杯スゴみを利かせようとしたとした社長が、なぜかそのまま目を見開いた。そりゃそうだ。総勢6名のこびとたちが、廊下をとことこ歩いてきたんだから。
 で、ご丁寧にも俺の後ろを取り巻くように並ぶ。
 喩えるなら、森林伐採に来た業者に抗議する森のこびとたちと、代表の白雪姫。想像するだに気持ち悪いぞ、俺の役柄。
「ていうか、おまえらフツーに出てくるなあっ!」
「……なんや、それ?」
 と、こびとたちを指さし、社長。
「宇宙から来たこびとです」
 ……と、堂々と説明できるはずもない。
 日本橋一帯に古くから伝わるツンなんとかいう座敷わらし系の妖怪とか、ある種のお薬をたしなみすぎちゃった人にだけ見える素敵なイリュージョンとか、とにかく言い訳を考えようとした俺を尻目に、チビ姫がずずいっと進み出る。
「………」
 呆気に取られている社長ご一行をずばっと指さす。
「我が名はワーニャ・ド・フラゴラセリ・ピタ・メルクール・ノバ・ゾビス、誇り高きタウル・ゾビスの王位継承者よっ!」
 止める間もなくサクっと自己紹介。
「コペケバの触手仲間か知らないけど、わたしの宇宙船は目下非常事態の真っ最中なのよっ」
「触手仲間じゃないっ! つーか触手じゃない!!」
「これ以上余計な重量が増えると地上に墜落っていうかマントル突き破って核にまでめり込んじゃうから、とにかくいろいろ悔い改めてとっとと原子レベルでこの宇宙から消滅しちゃいなさいっ!」
 身長10センチ強、キンキン声でめっちゃよく喋る人形の登場に、最初こそビックリしていた社長だが、すぐに持ち直した。業界問わず、やっぱり人の上に立つ器は違う。
「はーん……」
 床で仁王立ちを決め込んでいるチビ姫を、上から下までじろじろと見る。
「……なっ、なによっ?」
 遠慮のない視線に、頬をちょっぴり上気させ、ツンデレ風味で抗議するチビ姫。
 で、社長はこう言った。
「これはアレやな、『あくしょんふぃぎゅあ』っちゅーやっちゃな」
「……えええっ?」
「ちがうと思うんですが……」
 子分というか社員お二方がやんわりと『このオッサンアホや』という意をほのめかすものの、もちろん社長は聞いちゃいない。
「最近のオモチャはホンマようできとるなあ……」
 自説を完全に信じこんでいる。
 中途半端な知識があると真実が見えなくなる。その典型だ。
 まあ、ほんもののこびとだと納得されちゃっても、それはそれで困るけど。
 ド派手な背広のポケットから、包み紙にくるまれたバラ飴を取り出した。いちごみるくとか小梅ちゃんとかのアレだ。
「ちっちゃい嬢ちゃん、飴ちゃんやろか〜?」
 チビ姫の鼻先に差し出した。
 初対面の子供には、飴玉をあげるのがデフォルトらしい。さすが大阪人。
「もっ、もらってあげるわよっ!」
 フツーにツンデレで受け取る、誇り高き姫。なにせ1/15サイズだから、あめ玉がバスケットボールぐらいはある。
 床にそっと置き、いそいそと包み紙を外し、中を取り出す。
 どうするのかと思ったら、
 ……ごくん。
「丸呑みかよっ!」
「ええ味わいっぷりやなあ。嬢ちゃん飴ちゃん好きか〜?」
「べっ、別に好きじゃないけど、もうひとつぐらいなら特別にもらってあげないでもないわよっ」
 妖怪ツンデレの横では、シグマが頭の敵味方識別装置(?)を青色に光らせている。
「非監視対象の原住生物と確認」
 対象サーチを終え、冷静な戦闘ドロイドの声で言う。
 つーか、『調停者』的には人間はそういう扱いになるのか。
「こっちの嬢ちゃんも飴ちゃんやろな〜」
「わーい」
 めっちゃ喜んで受け取る、冷徹な戦闘ドロイド。
「……マイム、食べていい?」
 欠食チビ姫とは違い、ちゃんと保護者にお伺いを立てる。
「3時のおやつに食べましょうね?」
「………」
 素直に飴を渡す。
 とってもお行儀がいい。
 飴玉ひとつで懐柔されていく簡単なこびと軍団の中、ひとりだけ殺気立ってるのがいた。
「よくわかんないけど、こいつらまとめてやっつけちゃっていいんだなっ!」
 マカマカ姉さんだった。
 例によって昆虫並みの大ざっぱな状況認識から、背中に手を回し、愛剣をぬらっと引き抜く。
 長く紅い髪の下からいきなり現れた、巨大な顔つきの刀身。
「さあ来いっ!」
 勇ましく言い放ってはみたものの。
「う゚っ……」
 急に運動したのがいけないのだろう、みるみる顔が緑色になる。
「わああっ、吐くならトイレで吐けっ!」
 あわてて剣ごと摘み上げ、共同便所の戸を開け放つ。
「………」
 中にはもちろんアレがいた。
 マカマカの窮状を察してか、無言で場所を明け渡してくれた。見かけによらず紳士な奴だ。
 きゅむ、きゅむ、きゅむ……
 異様な足音を高らかに響かせ、廊下の奥に消えていった。
「……とにかくや」
 何事もなかったかのように、コテコテ社長が言う。
 トイレの中からはげろげろとカエルみたいな音が聞こえてくるが、敢えて触れないのが任侠というやつだ。
「いくらオンボロの空き家でもなあ、不法占拠はあかんで?」
「ですが、お店を新しくしたばかりなんです。今出て行けなんて言われたら、路頭に迷ってしまいます」
「そう言わましてもなあ……まっ、どのみち流行っとらんようやから、これも潮時ってやつちゃいまっか〜?」
「そんなっ、うちはこの土地で先祖代々メイド喫茶をしてるんですっ」
「嘘を言うな嘘をっっ!」
「ここを離れたら、今まで暖簾を守ってきた母や祖母に申し訳が立ちません!」
「こっちはなー、もう手付けかて払うとるんやっ! ゴチャゴチャ言わんととっとと立ち退かんかいっ!」
「鬼っ、悪魔っ! あなたは人間じゃないわっ!」
「おー姉ちゃんノリええなあ。気に入ったわ」
「ありがとうございますぅ(はぁと)」
 きゃぴきゃぴの営業スマイルで駄目芝居を〆る、お茶目なメイド喫茶店主。
 登場キャラ各位がいちいち小ギャグを拾いまくるため、話が前に進んでいかない、と俺が思った時だった。
「すみませーん」
 新たな声に、その場の全員が玄関の方を向く。
 見慣れない兄ちゃんが、恐る恐るこっちを覗き込んでいた。
 電器屋のマークがついたツナギを着ている。
「テレビとCDラジカセをお届けにあがったんですが」
「あ、ご苦労さま……」
 駈け寄ろうとした俺を、すかさず社長がしゃしゃり出て妨害する。
「あんさんそら、なんかの間違いでっせ。ここ明後日取り壊されるんですわ」
「え? でも住所はたしかに……」
「そうじゃなくてそれ俺が買った……」
「こんなオンボロアパートに人住んどるわけおまへんやろ〜? 他当たってもらえまっか〜?」
 表情は過剰ににっこり、口調はドスを利かせまくって言う。
 危機的状況を悟ったのだろう、配達兄ちゃんがびくびくっと後ずさった。
「……失礼しましたー」
「あ……」
 俺が伸ばした腕も空しく、軽トラに飛び乗り、逃げるように急発進していった。荷台に積まれた俺のテレビとCDラジカセごと。
「さーて、ワシらも帰るとするかのお。とりの、さくら、行くで〜」
 今日もいい仕事をしたという表情で、ぼーっとしていた部下を呼び寄せる社長。
 配達兄ちゃんが半開きにしていった戸に手を掛ける。
「がらがらがらがらがらがらがらがらがらがらっ……」
「工場かっ!」
 どんだけ間口が広いんだ。
「兄ちゃんもおにんぎょさん片づけてはよ帰れよ〜」
「だから違うってのにっ!」
「もーいーくつねーるーとー、ビールーがーたーつー♪」
「……だから社長、寝てるだけじゃビル建ちませんから」
「ボクら直帰扱いで、DVDショップとか寄りたいんですが……」
 コテコテ社長ご一行は帰っていった。
「……………」
 立ちつくす俺。
 あまりのコテコテっぷりに、エネルギーを吸い取られたかのようだ。
 溜息をつくと、足元でチビ姫がもっともらしく言った。
「王族たるわたしの威光の前に、恐れをなして逃げ出していったわね」
「その通りでございます」
 テキトーに答える職務怠慢侍従。もうツッコむ気力もない俺。
 こびとメンバーの中で唯一、大人しく成り行きを見守っていたティティが、恐る恐るチビ姫に訊いた。
「あの、魔王さま、今のは……」
「そいつとは別の魔王だ」
 チビ姫に答えさせるといろいろ面倒なので、横からフォローしておく。
「では、魔王さまの敵ですか?」
「まあ味方じゃないな」
「わかりました」
 生真面目に頷くと、姿勢を正してチビ姫の方に向き直り、言った。
「わたしが呪殺します」
「いいわ、テキトーにやっちゃって」
「はいっ(はぁとはぁとはぁと) では早速……」
 紅い宝玉がついた杖をさっと振りかざす。
「いやいやいやいや、それは色々差し障りがあるから」
 呪文を唱えだす前に慌ててやめさせた。
「大丈夫です。この手の修法(ずほう)を用いますと祟りもそれはそれは盛大になりますが、全て姉に引き受けさせますから」
「だからそうじゃなくてな……」
「ご心配なく、姉は大変鈍感なので、どのみち祟りの存在に気づきもしません」
 今までもいろいろあったんだろう、ぷるぷる肩を震わせながら言う。
「そうじゃなくて、ヤ×ザをやっつけるだけじゃ問題解決にならないんだって」
 マカマカが祟りでアレされちゃおうされまいが別にどうだっていい。根本的な問題は、せなか荘の家賃収入が少なすぎるところなのだ。
 もう『俺が6万払います』ってタンカを切っちゃったし、そこをクリヤーできなければ……
 と、共同便所の戸がぐわっと全開された。
「復活だあああああああっ!」
 ものすごい勢いでマカマカが飛び出してきた。
 背中に腕を回し、鞘から愛剣を引き抜こうとする。
 無反応。
「ノナドポイア、吐いてる時地面の穴に落としそうになったのは謝るからとっとと出てこいっ!」
 あいかわらず非道い。
 出てこい出ないで一悶着あってから、辺りが妙に静かなのに気づいたマカマカ。
「おれっ? あいつらは?」
 きょろきょろと辺りを見回す。
 空気の読めない凶戦士に、巫女が一言つぶやいた。
「姉さまの役立たず……」
 ずーん。
 さっきまで青かった顔を今度は影斜線で半分暗くして、マカマカは膝から崩れ落ち、床に両手をついた。見事なorz体勢だ。
「あんな毒っぽいものたくさん食べなきゃ、今ごろティティの前で大活躍だったのに……」
「落ち込んでる落ち込んでる〜☆」
 めっちゃ楽しそうな諸悪の根源のチビ姫。他人の不幸は蜜の味だ。
 テンション↓↓な姉を完全放置し、ティティが伺うように言ってきた。
「やはり『いちまんえん』を捧げて鎮めるしかないのでしょうか?」
「正確には『いちまんえん』が6匹要るんだけどな」
「6匹も!……」
 目を見開いて絶句する。
 彼女の中で『いちまんえん』がどんな形態をなしているのか、ちょっぴり興味があるところだ。
 と、落ち込んでいたはずのマカマカがいきなりびよーんと立ち上がった。
「ティティ、姉ちゃんいいこと考えたぞ!」
 脳内回路が簡単な仕組みのため、復活も早いらしい。
「この前狩りに出かけた時、なんかめっちゃ高い塔があってさ、近くにおかしなケモノがいっぱいいて、その中におっきくてしましまなつがいを見かけたんだ。あいつらの毛皮なら立派だぞ。そのイチマンエンとかいうのより絶対イケてるぞ〜! よしっ、そうと決まったら姉ちゃんちょっくら行って狩ってくるっ!」
「姉さま、待って……」
 ティティが止める暇もなく、自分で即決&戸口にダッシュ!
「いってらっしゃいませ、マカマカお嬢さま(はぁと)」
 フォーマット通りの挨拶に見送られ、平和な午後の日本橋に解き放たれたビキニ鎧。
 その狙いが何なのか、俺は考えてみた。
 ヒントは三つ。
 めっちゃ高い塔の近く。
 おかしなケモノがいっぱいる。
 おっきくてしましまなつがい。
「……なあ、クラヴィエ」
「はい」
「今マカマカが言ってたのって、やっぱりアレだよな?」
「恐らくは」
 クラヴィエも頷く。
 通天閣の近所、天王寺動物園、そして大きな縞模様の獣2頭。
「………」
 いやそれ、大阪ではある意味●クザ以上にアンタッチャブルな存在だし。
「あの……」
 俺たちのいやーな雰囲気を感じ取ったんだろう、ティティがそっと訊いてきた。
「ティティさま、大変申し上げにくいことなのですが……」
 言葉が出ない俺にかわり、クラヴィエが淡々と説明をはじめる。
「今、姉君が皮を剥ごうとしている獣は、この土地の民衆から崇められている大変に尊い神獣なのです」
「神獣!?」
「仮に少しでも危害を加えようものなら、民衆は暴徒と化して街路を練り歩きその辺りのものを破壊して回り、下手人は白い衣を着せられた上、煮えたぎった油により殺された憐れな鶏の生贄たちと共に、毒で満たされた濠(ほり)の底深くに沈められてしまうのです」
「…………………」
 めっちゃ無言のティティ。
「あの、カナタさま……」
 一縷の望みをつなぐように、俺をそっと伺う。
「だいたい合ってる」
 大変遺憾ながら、昭和60年当時の大災厄はそんな感じだったと聞いている。
「そんな………」
 ただただ呆然としている。

民衆に崇められている神獣を襲う暴虐非道な姉と、その結果地獄と化した町@ティティ脳内。この娘の場合、なまじ真面目で大人しいだけにもはやどうツッコんだものやら考えるのも困難。ていうか、姉貴の方が百万倍ぐらい凶暴になってるし。

「わわ、わたしの家系から、そっ、そのような恐ろしい不敬を為す者ががががが……」
 ついにガタガタ震えはじめた。
 巫女さん的見地から、危機的な状況がものすごーく増幅されているらしい。
「今すぐ追いかけますっ!」
 叫ぶなり、紅い宝石のついた杖を振りあげた。
 瞳をきゅっとつぶり、全身全霊で集中する。
「シデ・オドリピ・オドリピ・ファドイン・イフンハ ネム・バカアネキ・イフンハ・プントリ……」
 ……呪文内にわかりやすい罵倒が混入してた気がするけど、スルーの方向で。
「たとえこの命に替えましても必ずや姉の暴挙を止めてまいりますっ! 魔王さま、どうか後世我が一族に特別のご高配を賜りますことをっ……」
 悲壮すぎてフォローがむずかしいほどの決意を言い残し、凛々しく杖をさっと一振り。
 ティティの身体が紅い光に包まれ、せなか荘から忽然と消えた。
「いってらっしゃいませ、ティティお嬢さま(はぁと)」
 どんな時でもにっこり笑って見送るメイド。
「間に合うかな?」
「動物園前まで乗るよりも、恵美須町で下車した方が早いかと」
「……いや、堺筋線前提の話をしてるんじゃなくて」
 とりあえず、センイチくんとアヤコさんの運命は、巫女ティティの双肩に託された。
 ゆかいな野蛮人コンビが去った後、珍騒動を見守っていたシグマが、マイムにとことこと歩み寄った。
「おみせ、なくなっちゃうの?」
 上目づかいに、心配そうに訊ねる。
「そうねえ、せっかく常連さんがついてくれたところだったのにね」
「おみせ、なくなっちゃたら、マイム、かなしい?」
「そうね……」
 腰をかがめ、シグマの瞳を真っ直ぐに覗き込む。
「でもね、シグマがいてくれれば、きっとどこだって大丈夫」
 シグマの髪を撫でながら、囁くように伝えるマイム。
「………ぐすっ……ひっく……」
「ほらほら、泣かないで」
 その姿は本当の親子のようだった。
「シグマが……なんとかするから」
「気持ちだけで嬉しいわ」
「ううん、なんとかするもん……」
 今は水商売に身をやつしてはいるが、実直で心やさしい母親と、母を思い続ける健気で純粋な子供。下町人情ものによくあるちょっといいシーン。
「換装要求:通常戦闘哨戒装備1、使用領域:第二種航宙域(惑星大気圏内含む)、主兵装射程上限プリセット:3000ロキト(大気減衰率自動補正)……」
 ……が一転、子役がなにやら口走りはじめた。
 廊下の奥からぶんぶんと何かが飛んできた。
 ハチの群れかと思ったら、シグマの装備類一式だった。
 穴空けビーム銃やら、盾が一体になったレーザー剣やら、大きな振り分け式のバーニアユニットやらが、がしーんかしゅーんと音を立て、身体の各部にセットされる。
 ものの十数秒で、武装こんもりかわいい戦闘ドロイドさんのできあがり。
「……って待て待て待てっ! そんなんつけてなにをするつもりだよおまえはっ!」
 下町人情SFバトル喜劇、ここで強制終了。
「だって、おみせなくなっちゃう……」
 割って入ってきた俺を、ちょっとだけ潤んだ瞳で見返してくるシグマ。
「いやだからな、おまえが出撃したところでどうなるもんでもないだろ?」
 というか、むしろ状況が悪化する気がする、絶対。
「シグマ、せんとうドロイドだもん」
「戦闘だけじゃ物事は解決しないのっ!」
「まあ、とってもいいお言葉ですね(はぁと)」
 横ではきれいなメイドさんもうんうんと頷いてくれている。
 それを聞いたシグマの瞳が、さらにうるうるしてきて……
「うぇえええん……」
「戦闘ドロイドが泣くなああああっ!」
 グダグダになったところで、満を持して主役が現れた。
「話は全部聞かせてもらったわっ!」
 まあ、チビ姫のわけだけど。
「そりゃまあ聞いてただろうな、ずっとそこにいたし」
 俺の厭味を例によってスルー、探偵よろしく腕組みをして言う。
「つまり、この一連の面白大騒動を巻き起こした黒幕は別にいるってことね」
「だれだよ、黒幕って?」
「聞いて驚きなさいっ!」
 無体な前置きから、チビ姫はズバリと言った。
「大文化娯楽室のバーチャルゲーム投影機よっ!」
「……………」
 そう来たかあ。
「なによ? わたしのあまりに素晴らしい推理に全部で5個しかない灰色の脳細胞がみんなびっくりしてひっくりかえちゃったわけ〜?」
 俺の脳細胞が全部で5個なら、おまえは間違いなく1個で全部まかなってるだろと思ったが、とりあえずそれは置いといて。
「要するにおまえは、今俺たちに持ち上がっているゴタゴタは、全部ゲームの一部であると主張したいわけだな?」
「まったく、わたしの大ゲームライブラリにはもっと上質で面白くて萌えたり泣けたりエ○同人誌が作りやすいのがたくさんあったはずなのに、どうしてよりにもよって触手生物とか野蛮人とか戦闘ロボとかが侵入してきて宇宙船が重量オーバーで地上に激突してアレとか、陳腐でしょーもないダメSFオタクなシナリオなわけ?」
「……………………」
 すでにツッコミどころ満載だが、とりあえず自制して長ーく息を吸う。
 で。
「だれもが忘れかけていた設定をいきなり蒸し返して自分の土俵に強引に持っていこうとするなああっ!!!」
 恐らく今までで最長不倒のツッコミだった。
「ご苦労さま」
 と、涼しい顔でクラヴィエがねぎらってくれた。この件に関してはフォローするつもりはないという意思表示に他ならない。
「そうとわかれば、こんなの簡単にクリヤーできちゃうわよ」
 俺の話など聞くはずもなく、ますます増長していく姫君兼ゲームプレイヤーに、侍従がすかさず横から訊ねる。
「して姫さま、どのようにすれば世界は救われるのでしょう?」
「決まってるでしょ? ダンジョンのいちばん下の階か塔のいちばんてっぺんにラスボスがいるから、そいつをやっつけちゃえば万事解決よっ!」
「いつもながらのご明察でございます」
「無責任にバカを焚きつけるなああっ!」
「ほら、なにボサボサしてるのよ、行くわよっ!」
 チビ姫は俺をびしっと指さして言った。
 と思ったら、違った。
 姫御自らのご指名を受けたのは、出撃準備をさっき済ませたばかりの、いたいけな戦闘ドロイドだった。
「……シグマのこと?」
 この子というか、この機体にはめずらしく、困惑もあらわに聞き返す。
「そうよっ! 他にだれがいるのよ! 姫自らがお供にしてあげるっていってるのよっ! 涙を流してありがたがったらさっさと鬼ヶ島までわたしを乗っけていきなさいっ!」
 お供はもちろん、移動手段まで提供しなければならないらしい。
「言っとくけど、別にあんたじゃなくてもいいんだからっ! うちの触手奴隷を連れてってもいいんだけど、この手のゲームでは図体だけおっきいやつは戦力的には役立たずだから途中から入ってきた遠隔攻撃系のキャラにチェンジって相場は決まってるのよ!」
「……はいはい左様ですか」
 一介の奴隷としては、これ以上巻き込まれないんなら罵詈雑言なんでもオッケーだ。
 対して、巻き込まれまくっているかわいそうな戦闘ドロイド。
 酒場で出会った自称高貴な生まれの酔っぱらい(職業:あそびにん)をなぜか連れていかざるを得なくなった冒険者のようだ。ちょっぴりかわいそう。
「………」
 助けを求めるように、マイムのことを振り返る。
「仲よくいってらっしゃいね(はぁと)」
 ある意味鬼同然な保護者兼メイド。
「わかったら、今すぐ地面に四つんばいになってお尻をこっちに向けなさいっ。もったいなくもこのわたしがまたがってあげるんだからっ!」
 理不尽かつ無駄にSMちっくな要求をした女王様の襟首を、むんずとつかまえる奴隷、じゃなくて戦闘ドロイド。
「ちょっとなにするのよっ! そうじゃないっ! あんたは扱い的には馬もしくは亀なんだから、背中に乗せろって言ってるのっ……」
 じたばたするが、見かけによらずすっごい力なのでどうにもならない。
「いってきまーす」
「3時のおやつまでには帰ってくるのよ〜」
 どんな時でも変わらないにこやかな笑顔に見送られつつ。
「メインバーニアユニット作動」
 ふたつの大きなバーニアにぼっと着火した。
 ぶおおおおおおおおっ!!
 生身の生き物を同伴していることは特に考えない、強烈な全力噴射に移行。
「にゃああああああぁぁぁぁぁぁっ……!!」
 愉快な悲鳴とドップラー効果を残し、わがまま姫と手下のロボットは大冒険に旅立っていった。


 そんなこんなで。
 せなか荘に残ったのは、クラヴィエとマイム、そして俺だけだった。
 お騒がせ連中がいなくなると、いきなりがらんと広くなった感じがする。
「……さてと」
 これでまともに対策が立てられるってものだ。
「訊いておきたいのですが」
 俺の方にゆっくりと向き直ると、クラヴィエが言った。
「なんだよ、改まって」
「姫さまにとって、このアパートはもはや単なる宇宙船ではありません」
「宇宙船だったことは一秒たりともないけどな、今までだって」
「おだまりなさいっ! 冗談など言っている場合ではないでしょう?」
 ……なんだこの、いつになく真剣というか、必死な表情は。
「ここでの暮らしは姫さまにとって、もはや我が家にいるのと同然、そして日々は楽しい冒険と同じなのです。いつか王位に就く身には、それらは本来、決して手に入らないものです……」
 どうも本当に、熱血忠臣モードに入ってしまったらしい。なにを食ったやら。
「それをあなたは……このままおめおめと失くしてしまうと言うのですかっ!?」
 床から俺の鼻先を指さし、問う。
 わけのわからない迫力に押され、俺は考える。
「でも、そう言われてもなあ……」
 俺は一介の学生でしかない。
 206号室だってただ借りているというだけで、俺の自由になるわけではない。
 もちろん、せなか荘自体をどうこうできるはずもない。
 今は俺が、チビ姫たちの運命を握ってることはわかっている。
 そんなものは頼まれても握りたくなかったというのは置いといて。
「俺だって、俺なりに頑張ってるけどさ、でもな……」
 そのあとに言葉が続かない。
「そうですか……」
 クラヴィエはどこか淋しそうに、ぽつりと答えた。
「なら、仕方がないですね」
 なにかを取り出す。
 もちろん、例のワンボタンデバイスだった。
 手首にすちゃっと装着し、赤いボタンを一押し。
 半透明なスクリーンがいくつも空中に開いて、その下には格子状のエアキーボードも。ティティ初登場の時にも見た未来のモバイル状態になった。
 画面には折れ線グラフっぽいものや、ゴマ粒のようなに小さな文字の羅列。でも、この前とはなんか中身が違う気がする。
「……なんだよ、それ?」
「私が運用している資産の状況です」
 まったくいつも通りの声と態度に戻り、クラヴィエが言った。
「……資産??」
「ちなみに、現時点では元本を含め……」
 素早く指を動かし、数値を確定する。
「174万8245円です」
「……円っていうのは、いわゆる日本円か?」
 念のため訊いてみる。
「もちろんです」
「うおっ、マジか!?」
 よくわからない宇宙人の貨幣単位でしたってオチかと思ったら、意外や意外。
 つーか額もすごい。はっきり言ってものすごい。
 仕送りとバイトで毎月カツカツの貧乏大学生にとっては、まさに天文学的な数字だ。
「このところFX絡みがいささか軟調な上、サブプラムの影響もあり多少の損切りも発生しましたが、まあ堅実なところかと」
 鼻高々に説明する敏腕宇宙人トレーダー。
「そんなのがあるんなら早く言えよっ!!」
「冷凍カプセルから目覚めた折から、状況確認を兼ねて極秘裏にいろいろと情報収集していたのですが、あくまでその一環としての行動です」
 裏にはどうせろくでもない野望とかあるんだろうけど、そこには触れない方向で。
 ともあれ、これで解決だ。
「どこの銀行に預けてあるんだ? 今すぐ行ってくるから……」
 玄関で靴を履きかけた俺に、クラヴィエが冷徹に言った。
「だれがあなたにさしあげると言いましたか?」
「……へ?」
「特別な低金利であなたに融資しましょう、と言っているのです」
「………」
 まあ、薄々そんなところじゃないかとは思ってたけどな。
「ちなみにいくらだよ? 利息」
「年利200パーセントで」
「……出資法の上限を大幅にオーバーしてるぞ」
「当方宇宙人ですので、そう言ったことはよくわかりません」
「……………」
 都合のいい時だけ宇宙を持ち出すな、と俺がツッコもうと思った時。
「こほん。クラヴィエお嬢さま?」
 俺たちのやりとりを見守っていたメイドが、するっと話に入ってきた。
「なんでしょう、マイムさま」
「そろそろお店のツケの分を払っていただかないと」
「……はい?」
 完全なる不意討ちを食らったクラヴィエが訊き返す。
「これまでの飲食とサービスのご利用代金です。大変申し訳ないのですが、うちも商売でやっておりまして……」
 寸分の隙もない営業スマイルを顔面に貼りつけながら、メイドはさらに言い重ねる。
「それに、お連れのみなさまの分も」
「あの、お連れのみなさまというのは……」
「わかってらっしゃるくせに〜」
 ニコニコ笑っているけど、瞳の芯が笑ってない。
 さすがはわけのわからない理由で宇宙要塞を占拠した強者、肝の座り方が違う。
「……………」
 クラヴィエお嬢さま、大ピンチ。
「……あの、いかほど?」
 あ、わりとすぐに折れた。まあ賢明な判断だろう。
「ただいま計算しますので」
 エプロンの内懐から、超小さな電卓を取り出したメイド。
 たたたたたたたたたたたたたたたっ。
 目にも止まらず速さでキーを打ちまくり、にっこり微笑み、言った。
「174万8245円になります〜(はぁと)」
 ぼったくりメイド喫茶が牙を剥いた瞬間だった。
「いえあの、その金額は先ほど私が口にしたのと1円単位まで同じなのですが……」
「すっごい偶然ですねえ」
 しれっと言う極悪メイド。
「……すみませんが内訳をお教え願えますでしょうか?」
「はい、ただいま(はぁと)」
 今度は懐からぶ厚い伝票の束を取り出し、読み上げはじめる。
「特製プリンアラモード143特製イチゴパフェ41特製チョコレートパフェ35特製フルーツパフェ24チーズケーキ(ホール)5ガトーショコラ(ホール)4……」
 息継ぎ一切なしで、早口言葉のように連射されるメニューの数々。
 内容をチェックする暇などあるはずもなく、ただ呆然としてるクラヴィエ。
 俺だって、聞いているだけでお腹いっぱいを通り越し、気持ち悪くなってきた。
「……甘口抹茶めんたいスパ超特メガ盛り1お寝坊ニワトリさんの特製オムライスダブルで大盛り1(ケチャップお絵描きオプションつき)、以上で174万8245円になりま〜す(はぁと)」
「………………」
「おわかりいただけましたでしょうか? クラヴィエお嬢さま」
 半死半生という感じで、ようやくクラヴィエが答えた。
「……大変遺憾ながら」
「ありがとうございますっ(はぁとはぁと)」
 それはそれは嬉しそうに礼を言うメイド。チビ姫とマカマカの暴飲暴食っぷりを思い返すと、あながちデタラメとも言えないところがアレだけど。
「あの、マイムさま、物は相談なのですが……」
 往生際の悪いクラヴィエ。俺も同じセリフをせなかちゃんに言ったなあ。
「はい、なんでしょう?」
 と、涼しい顔でメイドさん。
「まかりませんか?」
「174万8245円になります〜(はぁと)」
「あの……」
「174万8245円になります〜(はぁと)」
「……………」
「174万8245円になります〜(はぁと)」
 メイドさん最強。
「……せめてローンで」
「ありがとうございますっ! それでは月々6万円ずつ40回払いの無理のないお支払いコースということで〜」
 けっこうな率の利息を乗せられてるし。
「思い出という名画を買うのだとお考えになれば、決してお高くはないと思いますよ〜」
 聞こえはいいが実質何も言ってない、素敵セールストークも炸裂する。
「……………」
 ずーんという効果音と共に、クラヴィエの頭に16トンの錘りが乗ったのが見えた。
 あれほど栄華を誇っていたのが一瞬にして転落人生。素人デイトレードの恐ろしいところだ。違うけど。
「そういうわけでご主人さまっ」
 スカートをひらりと揺らして振り向くと、やり手メイドは俺の方をにこっと見上げた。
「みなさまのお家賃分、月々6万円は当店がお支払いしちゃいますから」
 今の腹黒合戦とは打って変わって、いきなりの太っ腹っぶりだった。
「……マジで?」
「そのかわり、今後ともどうか『しぐまいむ』をご贔屓にお願いします〜(はぁと)」
 いつもの調子で、大げさにお辞儀をしてみせた。
 まあ、ものの1週間で百数十万円散財の上客をつないでおくために、月6万円なら安いもんってことか。
「ふう……」
 なんだかなあという展開に、溜息をつく俺。
 ともあれ。
 せかな荘最大の危機は、案外あっけなく去ったのだった。


 ……と、この時の俺は思っていたのだった。
















●高い高い塔の上にて

「やっと、てっぺんまで、来たわ……」
「魔王、おまえホントに体力ないなあ」
「王族にそんなもの必要ないのよっ!」
「ひっく……えぐ……」
「あーもう、そっちのロボっ子はいいかげん泣きやみなさいっ、うっとおしんだからっ!」
「はやくかえらないと……マイムにしかられちゃう……」
「知らないわよそんなことっ! だいたいあんたの飛び方が乱暴すぎるから、こんな無駄に苦労する羽目になったんだからっ!」
「ぐす……くすん……」
「とにかくよっ! ここまで歩いて登った甲斐があったわ。よーく見なさいっ! あそこに鎮座して触手たちに崇められてるのがこの邪悪な塔の支配者、この地に降りかかる全ての災厄の根源よっ!!」
「……………」
「どうよ? 見るからに凶悪な奴でしょお?」
「たしかにヘンな奴だけど、あんまり悪って感じじゃないけどな……」
「なによなによなによっ! 文句あるってのっ? だいたいあんたがあのしましまんずに食べられちゃいそうになった時、助けてあげたのはどこのだれだと思ってるのよっ!」
「助けたのはおまえじゃなくてこっちの木偶人形で、しかもおまえは遠くの方からなにか食いながら見てただけだ! それにあたしは助けてくれなんて一言だって言ってないぞっ!」
「お尻に歯形つけちゃって〜☆」
「なんだったら今ここで決着つけるかオラ〜〜っ!!」
「シグマ、おなかすいた……」
「わたしだって空いてるんだからもうちょっと我慢しなさいっ!」
「そう言えば、あたしもそろそろ腹減ってきたな」
「ばんごはんもぬきになっちゃう……」
「あーもうこのクエストが終わったらいくらでも食べさせてあげるわよっ!」
「わーい」
「……なんかよくわかんないけど、結局あいつをやっつければいいんだな?」
「バッカねえ。そんなことしても巨悪は滅びないわ。たとえラスボスを倒したところで、第2弾第3弾と続編が発売されるうちにメディア容量は巨大になっていって、最後には全編ムービー同然の●●みたいな大惨事になっちゃうのよっ!」
「じゃあどうするんだよ?」
「決まってるじゃない、誘拐して脅迫してこっちの言う通りにさせちゃうのよっ!」
「……魔王、おまえ、ホントにワルだなあ」
「いいわね? わたしと野蛮人で触手の群れを追い払うから、ロボっ子は真っ直ぐ出てって、ぐるぐるってしばって拉致、あとはみんなであっちの窓から脱出よっ!」
「野蛮人って言うなあ!」
「わたしの宇宙船まで連れていっちゃえば、あとはもうなんだって食べたい放題よっ!」
「……作戦内容を把握」
「瞳、愛っ、もしくは次元、五右衛門、行くわよっ!」
「ああもう考えるのめんどくさいから派手にやるぞおおっ!」
「メインバーニアユニット再起動、兵装チェックオールグリーン……」
「ノナドポイア、起きろおっ!!」
「よくわからない悪の黒幕的ななにかっ、覚悟しちゃいなさいっ!!」
















「これでよし、と」
 テレビのセッティングが終わって、チャンネルをテキトーに変えてみた。
 何秒かのタイムラグの後、無事に画面が映った。
「正常に作動しているようですね」
「わあっ、ご主人さますごいです〜(はぁと)」
 見守っていたマイムとクラヴィエが、それぞれに感想を言った。
 放映中なのは、夕方には定番のゆるい情報番組だった。
 進行役のアナウンサー以外、出演者全員関西弁。関西ではビッグということになってるけど、関東では存在すら知られていないタレントと、レポーターは若手漫才師コンビ、内容はうまいたこ焼き屋めぐり。ザ・大阪という感じだ。
 前に使ってた骨董品の14型から25型ワイドになったから、めっちゃ見やすくて画質も綺麗、地デジ万歳。まったくこれも、怪我の功名というやつだ。
「画質はともかく、随分と後ろに長いのですね」
「これからはブラウン管式地デジテレビの時代なんだよ」
 クラヴィエの厭味にも動じない俺。
「最新型テレビご導入、おめでとうございます〜!」
 ぱちぱちと手をはたきながら、メイドさんも過剰に喜んでくれている。
 こっちは天然なのかお世辞なのか、今もって判別しにくいけど。
 結局あの後。
 まずは電器屋に速攻で電話して、逃げていった軽トラに戻ってきてもらった。
 兄ちゃんは「あの○ーさんもう来ませんか?」とめっちゃ怯えてたけど、悪は滅んだとなだめすかして部屋まで運んでもらった。
 それから、クラヴィエの口座(ちなみにインターネット専用の通帳レス口座だった。こびとだって信用されちゃうカード社会の功罪だ)から俺の口座に6万円を移した。
 で、それをATMで下ろして、大家さんの家まで持っていった。
 話せる範囲で事情を伝えて、これからも住むつもりですときっぱり宣言した。
 ついでに、『その悪霊っぽいのは俺がなんとかしますから』と言うと、涙を流して喜んでいた。で、あの社長さんとの契約は取りやめると約束してくれた。相手が相手だから難航するかもしれないけど、そこはきっとうまく行く……と信じることにしよう。
 もっとも、『あの土地には悪霊が取り憑いている』って正直に言っちゃえば、向こうの方から断ってくる気もするけど。
 人が住める状態に戻った自分の部屋を見渡す。
 チビ姫たちが現れて以来、本当に本当に本当〜〜〜〜〜〜にアレな日々が続いていたけど、今となってはこれもまあいいかなと思えてくるから不思議だ。
「ぶっちゃけ、慣れちゃっただけだけどさ……」
 聞こえない程度につぶやいてみる。
 でもまあ、これだけは言える。
 こびとつきのアパートなんて、そうそうあるもんじゃない。
 日々貴重な体験をしてるってことで、自分を納得させておこう。ドサクサで俺の分の家賃タダになったことだし。
 部屋の中央で、なにかが揺らぐ気配がした。
 紅い色の光がぽつんと浮かんだかと思うと、急速に球状になり、部屋いっぱいに膨らんではじけた。
「ただ今帰りました……」
 巫女娘ティティのご帰還だった。
 必死で探し回ったんだろう、顔は薄汚れていて衣装はボロボロ、昼過ぎに出ていったとは思えない、ものすごいやつれっぷりだった。
「……つーか、大丈夫か?」
「はいぃ……」
 情けない声で、どうにか返事をする。
「縞模様の立派な神獣さまは2匹ともご健在でした」
「そりゃよかったな」
 まあ、本当に何かあったら今頃テレビでガンガン報道してるだろうから、少なくとも目立つような騒ぎにはならなかったんだろう。
 トラをいじめた野蛮星姉妹が道頓堀にダイブする危機はどうにか回避された、けど。
「ですが、姉の姿はもはやどこにもなく……」
 あちこち探したものの、結局見つからず終い、ということらしい。
 そうなると、遺憾ながらいちばん可能性があるのは……
「やっぱり、食われちゃったか?」
「ならいいのですが……」
「………」
「なにかこう、よくない胸騒ぎがします」
 仮にも巫女にそういうことを言われると、気にならないわけがない。
「実を申しますと、我が姫もまだ戻っておられないのです」
「シグマもです」
 クラヴィエとマイムも今さらながらに言い出す。
「おやつの時間までには戻ってきなさいって言ったのに、ほんとにあの子ったら」
 と、頬に手を当て、溜息をつきながらメイドさん。
「つーか、あんまり心配しているようには見えないけどな」
「位置情報を把握しちゃってますから(はぁと)」
「……だからさあ、そんなんあるなら最初から教えてくれよ」
 クラヴィエと違ってこのメイドさんは、悪気があるんだかないんだかわからないから始末が悪い。
「ちなみに今は……」
 と言いながら、メイド服の懐からドラゴンレーダー的ななにかを取り出して覗き込む。
「あら、ワーニャお嬢さまとマカマカお嬢さまも一緒だわ」
「いつの間に合流したんだ、あいつら」
 まあ、思考レベルも行動レベルもは大して違わないってことだろうけど。
「で、どこにいるって?」
「はい、場所は……」
 マイムが続けようとした時。
『あっ、たった今臨時ニュースが入ったようですね……』
 テレビの画面で、唯一標準語のアナウンサーが言った。
 ただならぬ雰囲気にざわつくスタジオ。もちろん俺たちも釘付けになる。
『えー、それでは中継に切り換えます、中継のハマダさん?』
 テレビ局も混乱しているのだろう、画面がぶわーんと歪んだり、裏方さんの怒声が飛び交うのが聞こえちゃったりした後、やっと現場に切り替わった。
『はいっ、こちら恵美須町の中継車です。ご覧くださいっ! 』
 めっちゃ切迫&興奮したリポーターの声。
 次に大映しになったのは、大阪在住者なら知らぬ者はない、あの由緒正しい観光タワー通天閣、大阪ローカルでは何億回と登場した絵面だ。
 てっぺん近くにある展望台の窓から、清掃工場の煙突のような煙が景気よく出ているのを除いては。
『これはなんという光景でしょうかっ! 大阪の皆様に親しまれているあの通天閣、浪速のシンボル浪速の心通天閣から、今もうもうと、もうもうと白煙が吹き上がっていますっ! 周辺はこのように大混乱、消防隊員や避難する人々、野次馬で足の踏み場もない状態です!』
『こらえらいこっちゃわあ……』
 カメラが一時スタジオに戻り、落語家兼コメンテーターがテーブルに顎を落とさんばかりの表情で言った。
 俺も同感だった。
 せなか荘の危機が去ったと思ったら、今度は通天閣だ。まったく世の中、なにが起こるかわからないなあ……
 などと、俺が神妙に考えた次の瞬間。
 背筋をいやーな悪寒が走った。
 ティティが言ってた『よくない胸騒ぎ』ってのは、もしや……
「いやまさか、いくらあいつらだって、そこまでは……」
 だれかに同意を求めようとした時──
「ズーーーーームインっ!」
 往年の福留アナ口調で叫びながら、クラヴィエがワンボタンデバイスをポチっと操作した。
 展望大部分がいきなりぐいーんとアップにされた。
 なにかがパチパチ燃えている音とか、ガラスが割れる音とかが臨場感たっぷりに流れ出す。どうやってるのか知らないけどスゴい技術だ。とか言ってる場合じゃないっ。
 がしゃーんっ!!
 煙が出ている反対側の窓を、巨大なバーナーのような炎が突き破った。
 同時に、何語か全くわからない雄叫びが聞こえた。
『とるせんすらんとーーーー!!』
 なーんか聞き覚えがあった。
 生きていて顔がついててもとってものぐさな剣が、昔似たような支離滅裂ワードを口走っては、口から炎を吐いたものだった。
「いやいやいやいや、空耳だ、空耳……」
 聞こえなかったことにする、が。
 ぱうっ!!
 今度はもうあからさまに聞き覚えがある発砲音が響いた。
 展望台の中央からぶっといレーザービームが放出され、夕暮れが近い空に斜めに伸びていった。そりゃもうUSJのアトラクションのように。
「出力最大にしちゃって、あの子ったら(はぁと)」
 たった今大阪の中心で行われている暴挙というかテロ行為を必死で脳内消去している俺の努力を、一言で台無しにするお茶目なメイドさん。
 今の砲撃によって展望台に空いた大穴から、なにかが外に飛び出したのが見えた。
 すかさずクラヴィエがズームアップする。
 目に飛び込んできたのは、予想通りのアレだった。
 バーニアを全力噴射し、恵美須町上空を飛行するシグマ。
 左右の安定翼にかろうじてしがみついている、ワーニャ姫とマカマカ──
「うわわわわっ、落ちるっ、落ちるってっっ!!」
「ちょっとジタバタしないでよっ!! ていうかあんたが重すぎるからバランスが取れてないのよっ! このままじゃスタンレー山脈を越えられないから今すぐ飛び降りて機体重量を軽くして操縦士のわたしだけ助けなさいっ! このっ、このっ、このっ!!」
「どわああっ、蹴るな蹴るなっ! つーか木偶人形もっとゆっくり飛べ〜〜っっ!!」
「ばんごはんにまにあわないんだもん……」
 ズッコケ三人組がいつもの駄目会話を繰り広げている、さらにその下。
 牽引ビームっぽい光のロープに、ぐるぐる巻きにされた木彫りの像。
 とがった頭に細い吊目、つるつるの足の裏。通天閣のシンボル、大阪庶民のマスコット。
「いわゆるビリケンさんですね」
「まあ、新しいお客さまがっ(はぁと)」
「ってどうしてこうなるんだよおおおおおおっっ!!!」







●せなか荘 部屋割

1階管理人室 マイム&シグマ(メイド喫茶しぐまいむ)
1階トイレ  生物(ナマモノ)
201号室  ティティ(&マカマカ:出歩きがち)
202号室  ワーニャ姫&クラヴィエ(大寝室)
203号室  ビリケンさん(仮安置)
206号室  空木彼方(人間)



〜つづく〜


【せな★せな 関連情報】
せな★せな 1−1話 「ここはわたしの宇宙船よっ!」
せな★せな 1−2話「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」
せな★せな 1−3話 「我が王家の名において、わたしの奴隷になりなさいっ!!」

せな★せな 2−1話 「魔王さまに捧げるために、この身をしかと清めてまいりました」
せな★せな 2−2話 「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
せな★せな 2−3話 「あ……魔王さまのここ、柔らかくて温かい……」
せな★せな 2−4話 「四の五の言わずに戦って死になさいっ!」

せな★せな 3−1話 「未登録宙域における戦闘示威行為を確認」
せな★せな 3−2話 「この落とし前どうつけてくれちゃう気よっ!」
せな★せな 3−3話 「ご主人さま、お嬢さま、大変長らくお待たせいたしちゃいましたぁ!」

せな★せな 4−1話 「世界の中心日本橋にどーんと自社ビルや!」
せな★せな 4−2話 「クラヴィエ、行きまーす!」

せな★せなキャラクターソングCD、Comic FANBOOK発売 「一曲一曲の破壊力がとんでもないです。」
せな★せなキャラクターソング集 ショート版&ジャケットイラスト公開!
せな★せなのコミック化決定!Web連載に追加メンバー!CD&同人誌の発売日決定!
コミックガム12月号発売 「せな★せなコミック連載ハジマタ!!キタキタキタキター!!」

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