2007年12月02日
【せなか企画】 せな★せな 5−1話 「わたしの美しく清らかな肌を見てるんじゃないわよっ!」
せな★せな 5−1話
「わたしの美しく清らかな肌を見てるんじゃないわよっ!」
「どうして、こいつら裸なわけ!?」
季節は梅雨にもかかわらず晴天となった土曜日の午後。
わがままチビ姫ワーニャの金切り声がこの部屋、せなか荘206号室に響き渡った。
いつものことなので、あいつらを放置。俺はプラキットのランナーを手に取り、ニッパーで最後のパーツを切る。
あとは、このホーンをつければ『アルト○イゼン』は完成だ。
やはり大スケールのキットは迫力が違う。原型が発表された時から期待していた甲斐があった。右腕、両肩、そしてこの角。これでもかと言わんばかりに漢(おとこ)の浪漫が詰まった武装がたまらなさ過ぎる。
「タオルを巻いている子もいるけど、ほとんどみんな裸じゃない! 全裸じゃない! マッパじゃない! スッポンポンじゃないっ!」
「姫さま。これは恐らく『お風呂』というものでございます」
チビ姫に使える侍女クラヴィエが解説しているようだ。
この二人は今、俺の部屋でコミックスを読んでいる。といっても、こいつらは身長10センチ強の人形サイズ。
当然、手に取って読むということができない。で、畳の上に漫画を開いてクラヴィエがページをめくり、ワーニャ姫は7冊重ねたライトノベルの上から見下ろす――という姿勢(?)で漫画を読んでいた。どれだけ大仕掛けなんだか。
「オフロ? ああ『お風呂』ね! これが、そうなのね。でも、あれってオトコとオンナが水の中で●●●●するものじゃないの??」
明らかに違う知識が混入しているが、ツッコむのも面倒くさいので放置──と思ってたら。
「詳しくはそこでプラモ制作に情熱を燃やす御仁に尋ねるのが良いかと」
涼しい顔のクラヴィエに指名されてしまった。
「コペケバ、答えなさい!」
どういう理屈なのか、この生意気なチビ姫は俺のことを奴隷か何かと思いこんでいるらしく、こいつらの文化圏ではアレな名前らしい『コペケバ』と、俺のことを呼んでいる。何度言っても改めるつもりはないらしいからもう諦めた。ちなみに、俺のアパートは自分の宇宙船で、俺の部屋は自分の娯楽室だそうだ。まあ、いいかげん慣れたけど。
「俺に振るなよ。あと少しで完成するってのに」
机でプラモ制作をしていた俺は渋々振り返った。ずびしぃっと指さしたチビ姫がラノベ座布団7段重ねの上にちょこんと立っている。
「いかがわしい『お風呂』の正体が何なのか、今すぐ答えなさい!」
いつまで経っても、こいつは人の話を聞かないな……。
「つーかさ、おまえ風呂ってホントに知らないのか?」
「もっ、もちろん知ってるわよ。ゾビス王家の誇り高き姫のわたしが知らないはずがないでしょ?」
「誇りの高さと知識の量は関係ないと思うけどな」
関係あったらこいつ、宇宙一の大賢人ってことになっちゃうし。
「タウル・ゾビスには『お風呂』という習慣がないのです。デバイスの翻訳機能にて知識として知るのみでございます」
と、クラヴィエ。こいつらの言葉はクラヴィエが持つ何かとても便利な機械で双方向翻訳していて、意味も同時に変換しているらしい。強引に言ってしまえば、辞書つき同時通訳みたいなものだけど、うまく訳せない場合もあるんだろう、きっと。
「じゃあ、普段はシャワーなのか?」
「いえ、シャワーという習慣もございません。そもそも、私達は皮膚洗浄を必要としておりません」
「……は?」
「姫さまや私が纏っているこの衣服には、皮膚から出る代謝物を処理洗浄する機能がついております。着ているだけで清潔に保たれます」
着ているだけで汗や汚れを綺麗にしてくれる機能が、こいつらの服にはあるらしい。そう言えば、今までもプリンにダイブして全身ベトベトになったりしてたもんな。
「そりゃ確かに風呂なんて知らなくて当然かもな……」
「いいから早く教えなさいよっ! これだからウスノロの触手はまったく!」
「触手って言うな! とにかく、風呂ってのはお湯に浸かって疲れや身体の汚れを取ったりする事だ」
「それくらいわかるわよ。わたしが知りたいのは、この漫画の子達が何でこんなに楽しそうなのかってことよ。物語的必然性もさっぱりわからないし」
大変失礼なことを言いながら、開かれた漫画のページを指さした。女の子が五人ばかり露天風呂に浸かって楽しそうにはしゃいでいる。
ちなみに、この漫画は主人公が東大を目指すストーリーで舞台が温泉旅館だから、そういうシーンが目白押しだ。必然性についてはノーコメントで。
「そりゃ、みんなで入ったら楽しいからだろ? 気持ちいいし、リラックスできるし」
「お風呂って身体を洗うだけじゃないの?」
「そういう目的もある。けど、リラックス目的や疲れを取るために入る事も多い」
「ふ〜ん……」
何やらチビ姫が考え込む。
「クラヴィエ。わたしの宇宙船にお風呂はなかったわよね?」
「はい。ございません。ですが、お望みならば姫さまには空木彼方という名の奴隷がおります故、何なりと命ずるのが良いかと」
「俺かよ! 奴隷扱いはいい加減やめてくれ……」
「決めたわ! 今すぐ『お風呂』をここに持ってくるのよ、コペケバ!」
「……ああ、やっぱり」
「今すぐ言うことを聞かないと、あんたがぐーすか寝てる間に耳元で一晩中恐ろしい呪いの歌を歌い続けてあげるからっ!」
「ちなみに聞くけど、どんな歌だよ?」
「あーるーはれたーひーるーさがりー♪」
「……勘弁してください」
俺は制作中のプラキットの箱をそっと閉じた。もちろん涙目で。
☆
土曜日の日本橋は普段よりもずっと人通りが多い。それは夕方になった今でも同じで人の減る気配は全くない。むしろオタク的嗜好を持つ人間の数は夕方になってこそ増える……気がする。
そんな日本橋には『道具屋筋』という商店街がある。様々な調理道具や食器が安く売られているこの場所を俺は歩いていた。
着くまでの道すがら、そこら中の店のテレビで、1週間前に発生した通天閣でのボヤ騒ぎ&ビリケンさん強奪事件のことを報じていたので、脳内消去が大変だった。
それはまあいいとして。
《も、もっとゆっくり歩きなさいよ、コペケバ!》
《わ、私もそれを希望します……!》
肩から提げたカバンの中にいる二人の声が、耳元のイヤホンから聞こえた。
「だから、ついてくるなって行ったのに」
《奴隷は大人しく、わたしの言うことを聞いてなさい!》
返事の代わりに俺はため息をつきながら歩く速度を落とした。
あかれから結局、チビ姫のお風呂を準備することにした。風呂といっても身長10センチ強の宇宙人が入るのだから普通の風呂ではサイズが合わない。そこで浴槽の代わりになるようなものを探して、何かと便利ものが安価で売られているこの『道具屋筋商店街』にやってきたのだ。行きたい行きたいと駄々をこねたワガママチビ姫とクラヴィエをカバンに放り込んで。
《バーチャル映像にしてはよくできてるわね》
《音や匂いの再生レベルもかなり高いかと》
「あんまり顔出すな。俺が痛い人に見られる」
カバンの端っこから首を出して外の風景を見るチビ姫とクラヴィエ。ちなみに、こいつらの声は真っ白なmp3プレイヤーのイヤホンを通して聞こえてくる。
喧噪の中だと二人の声は聞こえない。そこでクラヴィエが腕に身につけているボタン、携帯用多機能デバイス『トボス・タタン』に集音マイク機能を付加し、プレイヤーを通してイヤホンに聞こえてくるようにした……らしい。理屈はよくわからないけれど。ちなみに俺の声は普通に喋るだけで二人に届いている。
《揺れが収まれば、なかなか便利な移動手段でございますね、姫さま》
《そうね。なかなか役に立つ触手だわ》
あまり返事をしていると独り言の多い変な人に見られるため、触手と呼ばれたことにツッコミを入れたいが今は流す。
「物が多すぎてどれを選べばいいのか迷うな」
食器が売られてる店の前に立つ。調理器具や弁当箱なども所狭しと並べられていた。そんな中、チビ姫の風呂になりそうな物といえば……。
「まぁ、茶碗でいいか」
《ちょっと! ちゃんと真剣に選びなさいよ!》
「真面目にやってるだろ。そっちこそ大人しくしてろ」
《コペケバのくせに生意気な! だいだい触手には触手の分別ってものが……!》
俺は試しにmp3プレイヤーの音量を下げてみた。すると、ぎゃあぎゃあとわめくチビ姫の声も小さくなる。これは便利だ。
「ニイちゃんは茶碗を探してはるん?」
店頭で茶碗を見てると、店員らしきおばちゃんに声をかけられた。パーマ頭がなかなかの迫力だ。
「奥にもぎょーさんある。遠慮せず見てみーや。ほれほれ」
コテコテな関西弁で店の奥へと誘われる。見るだけならと、俺は店の奥へ入っていった。
そこには高級そうな茶碗がずらりと並んでいた。唐津焼、備前焼、織部焼とプレートに書かれている。他にも大皿、小皿、湯飲みと渋い和柄の食器だらけだ。
《……ふむ。趣のある工芸品ですね。良いセンスをしています》
クラヴィエは気に入っているようだ。そこで、ちらりと値段を見てみたら……ご、5000円!?
「高っ! もっと安いのはないのか……」
さらに奥には子供向けの小さな茶碗があった。アニメのキャラがプリントされていたり、花柄だったり。もちろん子供向けということで落としても割れないプラスチック製。値段も数百円と手頃だ。
「うーん、これくらいが風呂代わりにちょうどいいな」
花柄の茶碗(300円)を手に取る。
《そんな幼稚なお風呂はイヤよ! もっと大人っぽいのにしなさいよ!》
お前は充分子供っぽいだろというツッコミを入れると、ややこしくなるのでやめておこう。
《アレにしなさいよ! わたしはアレがいいわ!》
カバンから落ちそうなくらい身体を乗り出して指さしたのは、シンプルな和柄の高級茶碗だった。
「ぶっ! 6000円!? こんなもん買えるか!」
《奴隷に反論の余地なんてないわ!》
「大ありだ」
俺は無視して花柄のプラスチック茶碗を手にしてレジへ向かうことにした。
《たぁー!》
カバンから飛び出したチビ姫が高級茶碗が並ぶ棚に着地した。
「うお! 何してるんだ!?」
「これにしなさいっ。わたしはこれじゃないとお風呂に入らないからっ!」
「じゃあ、入るな」
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ、これがいいこれがいいこれがいいこれがいいこれがいいこれがいい〜!」
出た、ワーニャのわがままモード。
「ちょ、こんなころで暴れるな!」
チビ姫を捕まえようと手を伸ばすが、ひょいっと避けられた。……こいつ意外とすばしっこいな。
「大人しくしろ!」
「イヤよ! あんたこそ今から主人に反抗することを覚えたりしたら、将来ロクな大人の触手にならないわよ!」
「だから触手じゃないっての! つーか俺は何歳の設定だ!」
それ以前に触手って寿命何歳だよとか、こういう時に触手があればすぐに捕まえられるのにとか、どうでもいいことを思いつつ、逃げまくるチビを掴もうとする。
「このやろ……!」
「にゃあああぁぁ!」
ようやく捕まえると、チビ姫は甲高い悲鳴を上げた。
「ったく。大人しくしてろ」
「これ! 何して遊んどんや、このニイちゃんは!?」
「うわっ!?」
振り返ると、店員のおばちゃんが半ば呆れながら立っていた。
「こんなトコで人形遊びは困るでぇ」
「……あ。す、すみません」
チビ姫片手に謝る俺。どんだけ恥ずかしいシチュエーションなんだ、これ……。
「これ見てみ? 欠けてしもたやんか」
おばちゃんはワーニャが気に入ったという茶碗を俺に差し出した。
「ほれ、ここや、ここ」
「どこも欠けてないと思いますけど……」
「よー見てみ? ここにちーーーーーっちゃくヒビ入っとるやろ?」
頭に手をかけられ、強制的に目をくっつけさせられる。顕微鏡か。
「欠けた以上は買こうてもらわんといかんねェ」
「いや、あの……」
「買こうてもらわんといかんねェ」
気合いの入ったパーマおばちゃんの迫力に負けて、結局俺は高級茶碗を買うことになった……。
「まいど〜」
思いっきり商売用のスマイルで見送るおばちゃんを背に、俺は店を出た。
オマケで漆塗りの弁当箱(880円)をもらったけど……正直いらない。
《おっふろ、おっふろ♪》
mp3プレイヤーの音量をゼロにして、俺はしょんぼりと肩を落としながら帰路についた。
☆
ちゃぶ台の上に高級お茶碗を置く。その周りを囲むようにして二つのバインダーを開き、凹状に置く。これは風呂の壁の代わりだ。
そして、茶碗の側に毎週火曜日に発売される週刊誌を置いた。こいつらの身長を考えると、踏み台か何かがないとお茶碗風呂に入るのはきついだろう。
最後にやかんで沸かしたお湯を注いで、チビ姫専用の風呂が完成。
シンプルながら淡い光沢がいかにも高級感を醸し出している。
こんな高い茶碗がこのアホの風呂になるのかと思うと世の無常を感じざるを得ない。
「クラヴィエ。わたしを漫画の子達と同じ格好にしなさい」
「はっ。かしこまりました」
クラヴィエは大げさな動作で腕を背中に回し、例の携帯用多機能デバイス『トボス・タタン』を取り出した。丸くて赤いボタンが真ん中にひとつだけついた、一見するとレトロなリモコンっぽいなにかを手首にすちゃっと取り付ける。
「衣装変換銃〜」
やっぱり往年の大山のぶ代っぽい口調と共に高々と掲げた。
「……それ、お約束なんだな」
「特にそういうわけではありませんが。気分が盛り上がるかと」
「別に盛り上がらないけど……」
「青いネコ型ロボットは嫌いだと?」
「いや、どちらかと言うと好きだけど、とりあえず、そういうヤバイ会話はやめよう」
「かしこまりました。では、姫さま」
「いいわ、ちゃっちゃとやっちゃって!」
「ぽちっとな」
クラヴィエがデバイスのボタンを押すと、赤い光がチビ姫に照射された。
「にゃあああぁぁ〜〜んんっ……!」
光に包まれたチビ姫が頬を朱色に染めて、妙に艶っぽい声をあげる。
そして光が収まると、こいつは裸にタオルを巻いて髪を結い上げた姿になっていた。
「べ、便利だな、それ」
「我が文明が誇る超絶便利な携帯用多機能デバイスですから」
こういうところを見てると、こいつらの文明って今の地球よりも遥かに高かったんだろうなと驚く。
普段の行動はアホそのものだけど。
「コペケバー!」
「うわっ、な、なんだよ?」
「奴隷の分際で、わたしの美しく清らかな肌を見てるんじゃないわよっ!」
「……」
思わず絶句。
「こ、こら! 何とか言いなさいよっ!」
期待通りの反応が返ってこなかったんだろう、チビ姫が別の意味で食ってかかってくる。
「……いや、お前の裸なんて見たって何とも思わないが」
10センチ強の超コンパクトボディーで、しかもナイチチ&寸胴体型だ。これで興奮しろと言われても逆に困るくらいだ。一部マニアには圧倒的な支持を受けるのかもしれないけど。
「このウソつき! 今、あんたの×××××はカッパドキアの奇岩のごとく屹立し、びゅくびゅくと脈動してその■■■■の発射を今か今かと待ちわびているくせに!」
部分的にクラヴィエの携帯用多機能デバイスの翻訳機能が自己規制限界を超えたらしい。特に伏せ字のトコロ。つーか、その語彙の偏りは本当にどうにかしろよろ思う。
「待ちわびてないっ! どうせならもっと大人なお姉さんの……」
「私が何か?」
クラヴィエが当然の顔で言う。
今まで意識したことないけど、こいつって脱ぐとなかなかスタイル良さそうだよな……なんて、ダメなことを考えてしまう。
「……あ、いや、何でもないです」
とりあえず落ち着け、俺。こっちだって身長10センチだし。
微妙な空気の読めないチビ姫だけが、いつまでも空回りしている。
「コペゲバはそっちで独り空しく壁の染みがいくつ心霊写真に見えるかでも数えて自ら慰めてなさい!」
もはやツッコむのもアホらしいので返事もせず、ベッドに転がってそっぽを向いた。我ながら真面目に奴隷をやってるなぁ。
「じゃあ、入るわよ、クラヴィエ」
「はい。私はタオルを持って控えております」
「ふっふ〜ん♪ おっ風呂、おっ風呂〜♪ んっしょっと……熱っ! ちょっとコペゲバ! 熱いじゃないのっ!」
「ったく、何だよ。ちゃんと温度は確かめたぞ」
ベッドから起きあがり、お茶碗風呂を覗き込む。
「こ、こらー! 見るなって言ってるでしょっ!!」
「ああもう、どうしろって言うんだよ?」
仕方なく俺はお茶碗風呂に背を向ける。
「姫さま。風呂というものは、おそらく熱めの湯にしておくものではなかろうかと」
「そうなの?」
「お湯は冷めるだろ? だから最初は少し熱めにしておいたんだけど」
後ろ向きのまま俺は答えた。
「私めが湯の温度を確かめてみます」
茶碗に入れたお湯をクラヴィエがチェックするようだ。たぶん腕でも湯船に入れるのだろう。
「ふむ。大丈夫でございます。少々熱いようですが我慢してお入り下さい、姫さま」
「わ、わかったわよ。じゃあ、ちょっと我慢して入るわよ」
ちゃぽっという音が聞こえた。
「熱っ……!」
「姫さま、そこを我慢するのです」
「……うぅっ……あ、少し慣れてきたかも」
「そのままゆっくりと肩までお浸かり下さい」
|
はじめてのおふろを楽しむワーニャ姫。王族の気品を漂わせる素晴らしい体型に(一部のファンから)圧倒的な支持を受けること間違いなし。でも本人にはその自覚が全然ない。ご機嫌な姫君は、これからもお風呂を奴隷に要求するらしい。
|
「ん〜〜〜! こ、これ……いい! 気持ちいい〜! お風呂って落ち着くわね〜」
どうやら姫さまは風呂が気に入ったようだ。
「確かに熱めの方が気持ちいいわね〜」
「左様でございますか。それは何よりです」
「あっ、お肌が赤くなってきた」
「血流が良くなっている証拠ですね。冷え性などにも効果がありそうです」
まるでクーラー病に悩む主婦みたいだな。
「そっちの文明でも冷え性なんてあるのか?」
後にいるクラヴィエに尋ねてみた。
「もちろんあります。癌、白血病、筋萎縮症、そしてエ●ズ、あらゆる難病を根絶した我が星の高度な文明をもってしても、冷え性は克服されておりません」
「……なかなかやっかいだな」
「しかし、どうやらこのお風呂というものは有効な療法のようですね」
超文明的には、灯台もと暗しってやつなんだろう、きっと。
「確かに風呂ってそういう効能(?)があると思うけど」
ちゃぽちゃぽとお湯の音が聞こえる。
「これはいいわね〜。コペケバ、これからはわたしが入りたいときは、すぐにお風呂を持ってきなさいっ!」
「はぁ!? これで終わりじゃないのか……」
「どうやら餌付けしてしまったようですね」
自分の主を動物に例える侍女もどうかと思うが、クラヴィエの表現は正しい。
「ばばんばばんばんば〜ん♪」
そりゃもう上機嫌で、状況に即したトラッドソングを口ずさむチビ姫。
「ああ変なものを覚えさせてしまったなぁ……」
「後悔しているところを申し訳ないのですが」
いつの間にか足下にやってきていたクラヴィエが無表情で俺を見上げる。
「私もお風呂に入ってみたいのですが……」
「――は?」
予想もしない申し出に、俺は数秒ほど固まってしまった。
そして、思わず言った。
「……次回もサービスサービス?」
〜つづく〜
文・神野マサキ(ユニゾンシフト)
イラスト・こぶいち(ゆずソフト)
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