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2007年12月09日

【せなか企画】 せな★せな 5−2話 「女性の魅力溢れる私の身体に何か?」




せな★せな 5−2話
「女性の魅力溢れる私の身体に何か?」




「お風呂に入りたいって……本気?」
「はい」
 とチビ姫の侍女クラヴィエがうなずいた。
「本気と書いてマジ?」
「その言い回しは既に死滅しているかと」
 有能な侍女はツッコミも厳しいようだ。
「いや、また何で?」
 平穏だった日常をこいつらに散々かき回されてるため、どうしても何かあるのかと勘ぐってしまう。
「お風呂が姫さまのお身体に負担にならないか、確かめるのも侍女の大切な仕事です」
「ん〜、気持ちいいわぁ〜。お風呂ってサイコーね!」
 入浴中のチビ姫の声が聞こえた。えらくご満悦の様子。
「負担になるどころから、めっちゃ楽しんでるみたいだぞ」
「今はそうかもしれませんが、1時間後も同じように健康体であるとは言えません」
「1時間も入ってたら普通のぼせるだろ」
「むしろ10分後、5分後……いえ、1分後にさえどうなるか。私は心配で心配で食事を摂れそうにない、あーんど、夜も眠れそうにありません。私は私自身でお風呂というものを体験しておく必要があります」
 めちゃくちゃ平坦な口調&無表情のせいで、とても心配しているとは思えないんだけど。
「ああ、そうか。クラヴィエは冷え性なんだろ? さっきお風呂が冷え性に効きそうだとか言ってたし」
「…………」
「あ、あの、クラヴィエ……?」
 突然不機嫌になったクラヴィエ。俺の声を無視して、早口で喋り始めた。
「冷え性は『冷え症』とも書き、足の先が冷たいとか手がジンジンと冷えていると感じる症状で、医学的な言葉にすると毛細血管の血行障害となります。真夏でも多くの女性を悩ませ、その苦しさは花粉症に匹敵し、特効薬や治療法を発見すればノーベル医学賞ものだと世界医学界ではまことしやかにささやかれているため、多数の医学者がその研究に自己の情熱を注ぎ――」
「わ、わかった! わかったから、無表情のまま早口でまくしたてるのはやめてくれ……!」
 正直かなり怖い。今の季節は怪談話がよく似合う夏の夜だし。
「では早速用意をして下さると?」
「そうだなぁ。何か風呂にできそうなもの……っつっても、クソ高い茶碗はあいつが入ってるし」
 フィギュアサイズの人間――じゃない、宇宙人の風呂代わりになるモノといえば、うーん……。
「あれは如何でしょう?」
 クラヴィエが指さしたのは、行き場がないため机の上に放置していた漆塗りの弁当箱だ。チビ姫のアホみたいに高い茶碗(6000円!)を買わされたときにオマケでもらったものだ。室内電灯の寂しい光が黒塗りの表面をもの悲しく照り返していた。
「あの弁当箱でいいのか?」
「構いません。深さを考えるに半身浴にもぴったりかと」
「半身浴なんて、よく知ってるなぁ」
「別に、OLに絶大な人気を誇るファッション雑誌を読んだからではありません」
「……そんなの読んでるんだ」
「日々、学んでおります故」
 自信ありげな表情で、クラヴィエはメガネの位置を正した。
 でも、そういう雑誌で勉強するのはどうかと思うぞ。



 ――というわけで。
 大学の学生生協で安売りされていた時に買い込んだファイルをチビ姫の反対側に、凹状に立てて壁にする。
 そこへ漆塗りの弁当箱を置いてフタを開けた。
 中は、おかずを入れるスペース、ごはんを入れるスペース、お漬け物を入れるスペースなど、まちまちの広さで四つに仕切られていた。
 そこにヤカンのお湯を注いで、クラヴィエの風呂のできあがりだ。
「ついでに、これを使ってみるか?」
「はい?」
 漆塗り弁当箱風呂の側に立つクラヴィエが無表情のまま小首をかしげる。
 そこへ、俺は『リラックス温泉の素ギフトセット』の箱を差し出した。
「これは、いわゆる入浴剤ですか?」
 クラヴィエは温泉の素や入浴剤のことも知っているようだ。たぶんファッション雑誌で見たんだろう。
「俺には使い道がないから、好きに使ってくれていい」
 銭湯通いだって言ってるのに、雑貨と一緒に実家が送りつけてきたものだ。取っておいても邪魔になるだけだし。
「では提案があります」
 もくもくと湯気の上がる弁当箱風呂をクラヴィエは指さした。
「このお風呂は四つに仕切られていますが、それぞれに異なる温泉の素を入れてみたいのです」
「構わないけど。なら、どれがいいんだ?」
「少々贅沢ですが……これとこれ。これとこれを」
 クラヴィエが四つの袋を選んだ。
 俺は封を切り、クラヴィエの指示に従って、それぞれの温泉の素を弁当箱風呂の四つの浴槽に入れた。
 香りが混じって変なことになるかなと一瞬思ったが、意外とそうでもない。
「では、私は着替えることに致します」
 手首につけていた携帯用多機能デバイス『トボス・タタン』を高々と掲げる。
「衣装変換銃〜」
 毎度のことながら大山のぶ代そっくりの声でアイテム紹介をするクラヴィエ。このお約束にも慣れた。
「モノマネもだいぶ板についてきたな」
「もしもの時は声のお仕事で食っていきたいと思います」
「せ、声優!?」
「ウソです」
「あ、そ……。っていうか、もしかしてチビ姫に振り回されているストレスを、俺で解消しようとしてないか?」
 正直、そんな気がしないでもない。
「ちょう気のせいです」
「……ウソくせぇ」
「からかって楽しいのは確かですが」
「…………」
 身長10センチのフィギュアサイズ宇宙人にからかわれる俺って……。
 考えると恐ろしくローテンションになってしまうから切り替えよう。
「では、湯が冷めないうちに着替えます。ぽちっとな」
 トボス・タタンの赤いボタンを押すとクラヴィエが赤い光に包まれた。
「……んっ、はっ……あっ、んふっ……!」
 チビ姫のとき同様、頬を朱色に染めて妙に色っぽい声をあげる。
 そして光が収まると、クラヴィエは裸にタオルを巻いた姿になっていた。
 足は細く肌も綺麗で、着やせするタイプなのか胸も意外と大きく、お尻がきゅっと締まっているところとか、なんだかモデルさんみたいでとても綺麗な身体だと不覚にも思ってしまった。  この向こう側で鼻歌を歌いながら入浴中のアホなチビ姫と違って、いかにも美人といった雰囲気をまとっている。
 メガネはかけたままというところが一部のマニアを唸らせることだろう。
「均整の取れたボディに形の良い胸や臀部、果ては玉のような白い肌に艶やかなうなじと、女性の魅力溢れる私の身体に何か?」
「……誰もそんなこと言ってないだろ?」
「我が文明が誇る万能翻訳機は大変に高性能なので、心の声まで忠実に音声化するのです」
 うっ、ちょっと否定できない。
 身長10センチとは言え、美人だし、バスタオル一枚なわけだし。
 微妙にやりにくいなぁ。
「ナイチチ寸胴ロリ体型の姫さまとは違い、見目麗しい私の身体ならば視線が釘付けになるのは致し方ないこと」
「微妙にお前の主をおとしめてないか?」
 クラヴィエが綺麗だということは否定しないけど。
「心の声を翻訳機が再生しただけですから」
 俺とクラヴィエ、どっちの心の声を再生したのかは不明だ。
 いや、たぶん両方だな。
「ちらちらと私を見たり視線を外したりと変質者的な挙動不審行動を取るのはやめてください」
「見ていいのかどうかわからないから気を柄ってんだよ! ひ、ひどい言われようだ……!」
「タオルを巻いているのでお気になさらずに。入浴中の作法など聞きたいこともありますし」
「わかったよ」
 言われて、ゆっくりとクラヴィエに視線を戻した。
「それでは入ります」
 クラヴィエはタオルが落ちないように右手で胸元を押さえながら、弁当箱の縁に左手を添えて湯船に入った。
「む、これは……」
 そのままゆっくりと腰を落とす。
 弁当箱だからチビ姫の入っている茶碗ほど深くない。湯の深さは座ったクラヴィエのおへそくらいで、ちょうど半身浴をしているような状態だ。
「足先の体温上昇をはっきりと感じとることができます」
「風呂に入ってるんだから、そりゃそうだと思うけど」
「それだけでなく、湯に浸かっていない指先まで温かくなってきました。血流が促進されている証拠です。素晴らしい。お風呂というものがこれほどとは……」
 感嘆の声を漏らすクラヴィエ。どうやら日本の文化『お風呂』は、こいつらの超文明に勝利したようだ。
「良いものですね。面倒な上司にこき使われた疲れ等も一気に取れるでしょう」
 会社に疲れたOLか。
 まぁ嫌な上司に振り回されるという点ではあまり変わらないのかもしれないけど。

ワーニャ姫を放っておいてお風呂を楽しむ侍女のクラヴィエ。着やせするタイプなのか、脱ぐとすごい。もちろん本人もそれを自覚しており、褒められると嬉しいようだ。たくさんある温泉の素の中でも美人の湯で名高いドラゴンな温泉がお気に入り。わがまま上司に振り回された疲れをのんびりと癒している。

「では、別の湯船に入ってみます」
 クラヴィエは湯から出て、仕切りの縁に腰掛けて隣の湯船に足だけ浸けた。
 のぼせないように少し身体を覚ましてから入るつもりらしい。
「おや? 湯の感触がさっきと違いますね」
 クラヴィエは両手で湯をすくって覗き込む。
「少しとろみがあります」
 温泉の素が入っていた袋を見る。
「なになに? 『龍神温泉の素。とろみがあるのが特徴』って書いてるぞ」
「ふむ」
「おお、『美肌にとても効果あり。日本三大美人の湯の名前は伊達じゃない』だそうだ」
 優秀な侍女の象徴であるメガネがきらーんっと光る。
「美人の湯。まさしく私に相応しい湯ですね」
 ……自分で美人って言うな。
 と、いつもの俺ならツッコんでるところだけど、やっぱりやりにくい。
「確かにお肌がすべすべに……。これは素晴らしい」
 かなりお風呂が気に入ったようだ。
 ってことは、これからはクラヴィエの風呂も用意しなきゃいけないのか?
 チビ姫のついでと言えばついでだけど。
 その時、部屋のドアがぎぎぎ……と開いた。
「姉さまはクス・クスに帰って下さい!」
「もちろん帰るぞ! ティティと一緒だったらどこにだって帰るっ!」
「一人で帰ってくださいっ!」
「ティティ〜!」
 巫女のティティとその姉のマカマカが部屋に入ってきた。
「カナタさま。いつもお邪魔します」
 深々とティティが頭を下げた。
「まぁ、いいけど。ところで、どこに行ってたんだ?」
「マイムさまのところでアレを始末できないかとご相談を」
 自分の姉をアレ呼ばわりするティティ。普段はいい子なんだけどな。
「アレを始末って、また物騒な話をしてたんだな」
 マイムはこのせなか荘の管理人室に突如現れたメイド喫茶『しぐまいむ』で働くメイドさんだ。
 と言っても『しぐまいむ』自体、マイムが勝手に作ったんだけど。
 ティティはマイムに姉のことで相談に乗ってもらっているらしく、俺が顔を覗かせるとティティとマイムと戦闘ロボット――戦闘ドロイドというそうだ――のシグマで紅茶を飲んでいたりする。
 正直言うと、そのまま『しぐまいむ』にいて欲しかった。またマカマカが暴れ出すと軽いガス爆発くらいに部屋が無茶苦茶になるし……。
「始末? 誰を始末して欲しいんだ、ティティ? そういうのは姉ちゃんにまかせとけ!」
 自信満々で胸を張るマカマカを見て、ティティはげんなりする。
「姉さまに何かをまかせたりしません」
 ティティは、ぷいっとそっぽを向く。
「恥ずかしがってないで、こっち向いて、ティティ〜☆ 姉ちゃんは強いぞ〜。ティティのお願いなら神様だろうと始末してやるから、ほら、言ってみ?」
 始末して欲しい相手が自分だとは、これっぽっちも思わないんだな。
「もう! わたしは魔王さまにこの身を捧げたんです! 姉さまの相手をしている暇なんかありません!!」
「てぃ、ティティ……!?」
「姉さま、嫌い」
「がぁーんっ!!」
 マカマカはわざわざ擬音を声に出すほどショックを受けたようだ。
 ふらふらと後ずさった後orzな体勢で畳に手をつき、某ボクサーのように灰になった。
「ところで魔王さまは……?」
「そっちで風呂に入ってる」
「お、おおおおお、お風呂ぉ!?」
 突然、瞳の中が輝く星だらけになるティティ。
 ……しまった。教えるんじゃなかった。
 つーか、こっちはちゃんと風呂を知ってるんだな。
「確かに、こっちから魔王さまの香りが……」
 くんくんと匂いを嗅ぎながらゆっくりとお茶碗風呂の乗っているちゃぶ台に近づく。
 警察犬か。
「この上に魔王さまがいる……!」
 お馴染みの杖を両手で持ち、ティティは目を閉じた。
「スキ・スキ・マオウ・サマ!」
 一瞬ティティの身体が光ったと思うと――。
「うわっ、消えた!?」
 なんとちゃぶ台の上に、ティティがいた。
 い、今、テレポートしたのか……!?
 っていうか、なんてひどい呪文詠唱なんだ。
「魔王さま! わたしもお風呂、ご一緒いたします!」
 すごい勢いでファイルの内側に回り、そのままお茶碗風呂に特攻。ばしゃーん、と湯しぶきを上げた。
「もうめちゃくちゃだな……」
 ずぶ濡れのティティは起きあがり呟いた。
「あれ? 魔王さまがいない?」
 確かにチビ姫がいない。見ると、クラヴィエのお風呂の方に移動していた。
「こっちから魔王さまの匂いが……」
 風呂から出てちゃぶ台の上を歩きながら、くんくんと匂いを嗅ぐティティ。
 で、魔王さまの方はといえば。
「クラヴィエ! わたしを隠しなさいっ! 壷の中でもランプの中でもヒョウタンの中でも電子ジャーの中でも、どこでもいいから今すぐちゃっちゃと収納しなさい! 秘匿しなさい! 隠蔽しなさいっ!」
 クラヴィエの背中に隠れるが、どう見てもバレバレだ。
 つーか、その隠れ場所って、どれも一回入るとあとが大変だぞ。
「そうしたいのはやまやまなのですが……」
 せっかくのチャンスに、クラヴィエも残念そうだ。
「魔王さま、見つけました!」
 とうとう見つかるチビ姫。
「わ、わたしに近づいちゃダメよ!」
「はい、魔王さま……(はぁと)」
 返事をしながら、じりじりと近づくティティ。
「近づいちゃダメって言ってるでしょ!」
「承知いたしました、魔王さま……(はぁと)」
「来るなって言ってるでしょ!」
「かしこまりました、魔王さま……(はぁと)」
「来るな、来ないで、来ないで下さいぃいいいいぃ!」
「魔王さまああああぁぁぁぁーーーー!(はぁとはぁと)」
 恍惚の表情で飛びかかるティティに、脱兎の如く逃げ出すチビ姫。
 それからちゃぶ台の上を、運動場のトラックを走るみたいに、くるくると回りながら追いかけっこをする二人。
「あのお願いが」
 喧騒そっちのけでマイペースに風呂を楽しんでいたクラヴィエが俺を見上げる。
「私をこのお風呂ごと机の上に運んで欲しいのです」
「別にいいけど、助けなくていいのか?」
 俺はぐるぐると走り回っているチビ姫を指さした。
「ティティさまはクス・クスの筆頭魔道士。ゾビス王家の王位継承者に匹敵する賓客です。姫さまのお言葉も大事ですが、ティティさまの意志も尊重しなければいけません」
「うまいこと言うな」
 どう聞いても体の良い言い訳だけど。
「お願いします」
 俺はクラヴィエを弁当箱風呂ごと机の上に運んだ。
 次に、お茶碗風呂を運ぼうと、ちゃぶ台に視線を移したとき、チビ姫の姿がなかった。
「魔王さま……? どこに行かれたのです、魔王さま!?」
 ちゃぶ台の上にティティしかいない。
 不思議に思って台の下を覗き込んでみる。
 すると脚にしがみついて、するすると滑り降りているチビ姫を発見した。
 さ、猿並の器用さだな……。
 ちなみに、かろうじてタオルを身体に巻いたままだ。
「魔王さま、見つけました!」
 ティティも同じように、ちゃぶ台の脚に抱きついて滑り降りた。
 服がずぶ濡れのままだから、ティティが走った先から畳が濡れる。
 ……風呂上がりで逃げ出した猫かよ。
「妹に手を出すなぁー!」
「きゃあ!」
 灰になっていたマカマカが突然色を取り戻して、逃げていたチビ姫の前に立ちはだかる。
「やっと追いつきました、魔王さま!(はぁと)」
 そして後にはティティ。
 まさに前門の虎、後門の狼だ。意味は微妙に違うけど。
 とにかく絶体絶命のぴんち。
「ティティはあたしのものだあああっ!」
「魔王さまぁ〜(はぁとはぁとはぁと)」
「なななな、なんなのよ! あんたたちなんなのよー! いい加減にしなさいよーっ!」
 半狂乱状態のチビ姫が半裸姿でキレた。いつもはもうちょっと尊大な態度を取りそうなものだけど、今は裸にタオル一枚という格好が弱気にさせている……のかもしれない。
 そして、じりじりと詰め寄る野蛮星姉妹。
「コペケバ! あんたもわたしの奴隷ならこのアレな状況を何でも日本一の伊達男みたいにズバット解決しちゃいなさいよっ!」
「どこの特撮ヒーローだ。っていうかネタが古いな、おい」
 その時、またドアがぎぎぎ……と開いた。
「ティティさま。ご注文の紅茶をお届けに参りました。あら?」
 『しぐまいむ』のメイドさんマイムだった。すぐ後ろには戦闘用ドロイドのシグマもいる。
 マイムは普通に(?)メイド衣装だけど、シグマは下には白と紺が混じり合った……スク水?
「未登録宙域における戦闘示威行為を確認」
 マカマカ、ワーニャ、ティティの三つどもえを戦闘行為だと勘違いしたシグマが呟いた。
 ま、まさか……!?
「第二種航宙域における通常戦闘哨戒装備」
 シグマが呟いた瞬間、廊下の方からメカメカした感じのパーツがたくさん飛んできた。全部プラモデル程度のサイズだ。
 そのパーツがアテナを守る聖闘士みたいに、じゅぎゅん、じゅぎゃん、ばしーんっ、とシグマの手足に装着される。
「鎮圧する」
 たぶん、これ、初めてこの部屋にこいつがやってきたときと同じ装備だ。
 ってことは、今から戦うつもりじゃないのか、こいつはっ!?
「お取り込み中のようですので、こちらに置いておきます〜(はぁと)」
「そんなことどうでもいいから止めてくれっ!」
「しかし、条約違反が確認されましたので、そういうわけには……」
「条約違反って何だよ! 意味がわからないんですけどっ!」
「やれるもんならやってみろっ!」
 しかし、無情にもマカマカはチビ姫からシグマに目標を変えた。
 チビ姫は今だ、とティティから逃げ出す。
「ああ魔王さま、お待ちを〜!」
 再び始まるわがまま姫と百合巫女の鬼ごっこ。
「ノナドポイアっ!」
 マカマカは背中から必殺武器、生きた魔の剣(らしい)ノナドポイアを抜いた。
「うわわっ、やめろ、二人とも! また俺の部屋を廃墟にする気かよ!」
 ノナドポイアはシグマが怖いらしく、その刀身はふにゃふにゃとしおれていたが、バトルになったらそんなことは関係ない。
「さ・どまく〜! さ・どまく〜!」
 ノナドポイアがなよなよと動きながら、いやいやと首(?)を振る。
「嫌がるな! やるんだ! 早くそそり立て! 立たなくても無理矢理やるぞ!」
 ……いろんな意味に取れる物騒な台詞だな。
「行くぞ! でぃやああああぁ!」
 ぐねぐねの剣を振りかぶって、戦闘用ドロイドシグマに斬りかかる。
 対して、シグマはバーニアを吹かせて移動しながらレーザー銃を、
  ばう!
 ばう!
   ばう!
 と連発。
 見事、壁や天井には直径10センチくらい穴が空いた。いや、増えた。
 ああ夜空が眩しいなぁ……。
「――って、何すんだよ! せっかくビニールシートでお前が開けた穴を塞いでたのに!」
 確か空間穿孔砲とかいって、ビームの飛んだ先にあるもの何でも貫通して穴を開けまくるという迷惑きわまりない兵装らしい。
「本当にやめてくれ! いくら夏でも穴だらけはいやだ!」
 しかし、俺の声なんて聞かずに戦闘を続ける野生娘とロボ娘。
「魔王さまぁ〜〜〜(はぁと)」
「こないでって言ってるでしょ!」
 雑誌や服が散らばっている畳の上で追いかけっこをする百合巫女とチビ姫。
「ふう。お肌がすべすべに……素晴らしいです」
 絶対安全圏から騒動を眺めるOL風味の侍女。
「楽しそうですね〜☆」
 にこにこと微笑むメイドさん。
 ど、どんだけカオスなんだ、この部屋は……!
「おりゃあああぁ!」
 へろへろの魔剣をぶんぶんと振り回すマカマカ。
 いつの間にか戦闘の舞台はちゃぶ台に移っていた。
 幸い近接戦闘になっていることもあってビーム砲は放たれていないが……。
「たりゃあああぁーーー!」
 マカマカが、ぶんっとノナドポイアを振るう。
 シグマはバーニアを吹かしてそれをかわし、チビ姫専用お茶碗風呂(6000円)の上に着地した。
 そこへ、チャンスとばかりにマカマカが斬りかかる。
「まさか――」
 シグマは再びバーニアを吹かしてジャンプ。
 空振りする形となったノナドポイアはしおしおのくせに見事、高級茶碗をまっぷたつにした。
 さすが魔剣――って、ちょ、おまっ!
「それ、アホみたいに高かったんだぞ!」
 しかし、シグマとマカマカは二人だけの戦闘に没頭。
「ああもう、マイム! 頼むからシグマを止めてくれ! このままじゃ部屋がボロボロになる!」
「そうですねぇ。結局、条約違反の戦闘行為は回避できたようですし……」
 ぴんと立てた人差し指を頬に当て、小首をかしげて考え込むマイム。
「かしこまりました、ご主人さま」
 マイムは一歩前に出て、言った。
「シグマ、おやつですよ」
 ――と。
 その声を聞いたシグマがぴくんと反応した。
「現地時間で明日午後3時のおやつ?」
 さすがロボット、時間には厳密らしい。
「3時にはちょっと早いけど、特別にね」
「わーい」
 とたんに戦闘放棄&マイムに駈け寄るシグマ。
 ある意味ものすごーく制御しやすい戦闘ドロイドだった。
「イチゴ味のエネルギーケーキでいいかしら?」
 エプロンの内懐から手品のように取り出された、イチゴのショートケーキ。
「うん、だいすき」
 受け取って、もふもふと頬張るシグマ。
 これで明日のおやつは抜きだってことに、気づいているのかいないのか。
「ちぇー。決着つけてやろうと思ってたのに」
 不満タラタラでマカマカはノナドポイアを背中に収めた。
 剣の方がイッパイイッパイだったので、助かったというのが本音だろう。
「……ああ、よかった」
 そして、心から安堵のため息を漏らした俺。
「魔王さまぁ〜〜〜(はぁと)」
「くーーーるぅーーーなぁーーーー!」
 あっちは放っておいて大丈夫だろう。
「はぁ……。良いお湯です」
 ひとりのんびりとお風呂の味わうクラヴィエが正直恨めしかった。
「あら、お風呂ですか〜」
 マイムがバーニアを吹かして、クラヴィエの元へ飛んでいく。
 その後ろを、ショートケーキを頬張るシグマが同じくバーニアを吹かしてついていく。
 そして、二人揃って、弁当箱風呂の前に着地。
「これは良い香りですね〜」
「マイムさまもいかがですか?」
「それならいっそ、露天風呂を作っちゃいませんか?」
 部屋の惨状もほっぽらかして、俺は呟いた。
「また、次回もサービスサービス?」


〜つづく〜


文・神野マサキ(ユニゾンシフト)
イラスト・こぶいち(ゆずソフト)


【せな★せな 関連情報】
せな★せな 1−1話 「ここはわたしの宇宙船よっ!」
せな★せな 1−2話「おまえじゃなくてワーニャ姫よっ!」
せな★せな 1−3話 「我が王家の名において、わたしの奴隷になりなさいっ!!」

せな★せな 2−1話 「魔王さまに捧げるために、この身をしかと清めてまいりました」
せな★せな 2−2話 「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
せな★せな 2−3話 「あ……魔王さまのここ、柔らかくて温かい……」
せな★せな 2−4話 「四の五の言わずに戦って死になさいっ!」

せな★せな 3−1話 「未登録宙域における戦闘示威行為を確認」
せな★せな 3−2話 「この落とし前どうつけてくれちゃう気よっ!」
せな★せな 3−3話 「ご主人さま、お嬢さま、大変長らくお待たせいたしちゃいましたぁ!」

せな★せな 4−1話 「世界の中心日本橋にどーんと自社ビルや!」
せな★せな 4−2話 「クラヴィエ、行きまーす!」
せな★せな 4−3話 「よくわからない悪の黒幕的ななにかっ、覚悟しちゃいなさいっ!!」

せな★せな 5−1話 「わたしの美しく清らかな肌を見てるんじゃないわよっ!」

コミケ受かりました!あと12月からの連載とか
せな★せなキャラクターソングCD、Comic FANBOOK発売 「一曲一曲の破壊力がとんでもないです。」
せな★せなキャラクターソング集 ショート版&ジャケットイラスト公開!
せな★せなのコミック化決定!Web連載に追加メンバー!CD&同人誌の発売日決定!
コミックガム12月号発売 「せな★せなコミック連載ハジマタ!!キタキタキタキター!!」

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