2007年12月31日
【せなか企画】 せな★せな 5−4話 「なにすんのよ、このエロ下等触手生物ー!」
せな★せな 5−4話
「なにすんのよ、このエロ下等触手生物ー!」
6月の夜は銭湯で風呂に入っても部屋に着くまでにじんわりと汗をかいてしまう。
そこで俺は最後にいつも水風呂に入ることにしていた。
そうすることで身体を冷やし、発汗を抑えるのだ。
ぬるま湯のような夏の夜風も冷たい身体には心地いい。
人気がほとんどなくなったオタ○ードを通り、せなか荘にたどり着いた。
部屋に入ると、出窓に置かれたミニチュア露天風呂から賑やかな声が聞こえていた。
「ん〜、おいしい〜!」
「……は? おいしい?」
なぜ露天風呂からそんな声がするんだ?
激しく気になるけど覗くとチビ姫にヘンタイ触手下等生物呼ばわりされてしまう。
声なんて無視無視。
テレビをつけようと、リモコンのスイッチをぽちっと押した。
「湯船、湯けむり、岩肌、艶やかな肌――って、また露天風呂専用チャンネルになってる!?」
「どうも」
画面には頬を少し朱色に染めたクラヴィエが映った。
「またテレビをハックしました。ひっく」
「ひっく? ……クラヴィエ、酔ってるのか?」
「いいえ。この程度のお酒で酔っていては我が偉大なるマディキタリス家の名折れ。……ひっく」
「名折れまくりなくらい酔ってるじゃないか」
「このニホンシュとかいうお酒はなかなかどうしておいしいです」
会話が成立してねえ。
完全に酔っぱらってるな。優秀な侍女はどこに行った?
「マイムさま、おかわりをお願い致します。ひっく」
「かしこまりました〜(はぁと)」
裸にタオル姿でお盆を持っているマイム(律儀なことに頭にはカチューシャ……じゃない、確かホワイトブリムとかいうメイドアイテムをつけている)が謎ののれんの向こうに消えた。
まさか、あそこが厨房なのか?
……な、なんでもアリな露天風呂だな。
「というわけで、私たちはマイムさまが用意して下さった料理を食しているところです」
クラヴィエは岩肌に腰掛け、膝から下だけを湯船につけて、右手におちょこを持っている。
他には、湯にトレイを浮かべてパフェを食っているチビ姫。
すぐ側でちびちびとお吸い物を口にしているティティ(チビ姫に襲いかかるのは諦めたようだ)。
『ゆりりっく〜♪』と歌いながら砥石で自分を研いでいるノナドポイア。
マンガ肉をがつがつ食べているマカマカ。
シグマは飴のようなもの――エネルギー角砂糖とかいうヤツか?――を舐めている。
「では、お楽しみ下さい。ひっく」
「あ、おい!」
最後に、胸にタオルを巻いたクラヴィエが映った。半分くらいまぶたが降りて、とろんとした表情になっている。
……ありゃ、完全にできあがってるな。
それでもスタイル抜群の美人侍女が湯汗に肌を濡らして日本酒をくいっといく姿はさまになっていた。
少し潤んだ瞳と桃色に上気した肌が、い、いかにも扇情的だ……。
「楽しめって言ったって、こんなカオス的状況をどうしろと……?」
そこへゴゴゴゴ……という地響きが鳴り響き始めた。
といっても聞こえてくるのはテレビから。
「なになに!? なんなのよ!?」
「じ、地震です! 皆さん、隠れて!」
「どこだ!? どこの部族が襲ってきたんだ!? あたしがぶっ飛ばしてやる!」
慌てるチビ姫、ティティ、マカマカ。
湯船がモーゼの十戒みたいに割れたかと思うと、何かがせり上がってきた。
「あれは……ステージ?」
突如、温泉の中に現れた丸いステージの上に、裸タオル姿のマイムが上る。
右手にはちゃっかりマイクを握っていた。
「それでは、みなさんお待たせしました〜! 宴会タイムに突入しちゃいま〜す(はぁと)」
……は? 宴会?
「あちらをご覧下さい〜」
マイムが指さした方をクラヴィエの万能デバイス兼カメラはご丁寧に映してくれる。
そこにはドでかいダーツの的があって、ワーニャ、クラヴィエ、ティティ、マカマカ、シグマ、マイムと6人の名前が扇状に描かれていた。
「ここにダーツがありま〜す」
マイムはダーツを掲げる。
「あの的を回転させて、ダーツを投げて、当たった人には宴会芸をやっちゃって頂きま〜す(はぁと)」
というルールらしい。
バラエティ番組並みに凝ってるな。
っていうか、どんな露天風呂だ、これは。
「わかりましたか〜?」
「いきなり何なのよ! そういうことならちゃんと言いなさいよ!」
本気で驚いたらしいチビ姫がキレ気味に言い放つ。
しかし、こいつの言い分ももっともだ。
「教えちゃったらサプライズがありませんから〜(はぁと)」
確かに湯船を割ってステージが登場するだなんて最初に聞いていたとしても信じられないけど。
「最初はわたしがダーツを投げちゃいます〜」
ダーツの的が回転し始めた。どこからともなく聞こえるドラム音。
「えいっ」
マイムはぴょいっとダーツを投げた。
回転している的に見事刺さる。
ドラムの音が止まると共に、ダーツの的も止まった。
カメラがズーム。
ダーツは『シグマ』と書かれたところに刺さっていた。
「まあ、一番はシグマね」
「ん」
湯に浸かって飴をなめていたシグマが、ちゃぽちゃぽと湯船の中を歩いてステージに上った。
シグマもクラヴィエやマイムと同じようにタオルを巻いている。
「ちゃんとできるかしら?」
子供を見守るお母さんみたいにマイムは心配そうだ。
「どんな芸をするの?」
「うーん……」
シグマは小首をかしげて悩む。
「早くやりなさいよー!」
酔っぱらいのオヤジ並みのヤジを飛ばすチビ姫。
「じゃあ、はやうち」
……は?
「通常戦闘哨戒装備」
シグマが呟くと同時にひゅんひゅんと戦闘用パーツが飛んできて、裸タオル姿の華奢な身体にしゃきんしゃきんとくっついた。
「待て待て待て待て待てー! だから、それは止めろって言っただろ!」
テレビ画面にかぶりついて叫んだ。
「だめ?」
シグマがカメラに向かって上目遣いに問いかける。
「かわいく言ってもダメだ!」
「じゃあ、クレーしゃげき」
「それもダメだ!」
「うー」
「唸ってもダメだ」
「じゃあ、みずでっぽうは?」
「まあ、それならいい」
「ん」
シグマはこくりとうなずいた。
ああ、よかった……。
「特殊戦闘哨戒装備」
またまたどこからともなく戦闘用パーツがたくさん飛んできて、シグマの右腕にくっついた。
その腕は樽のような形状になり、銃口(?)らしきところが淡く光っていた。
シグマ本人よりもデカいぞ。
「み、水鉄砲なのか、それが……?」
俺の独り言が届いたのか、シグマはカメラ目線でこくんとうなずいた。
「ものすごい勢いで水が発射されて結局天井に穴が開くとかいうオチじゃないだろうな」
「ちがう」
「なら、信じるけど」
かなり消極的な信用だが……。
「何でもいいから早くやれー!」
「シグマさま、がんばって!」
チビ姫がヤジを、ティティが声援を送る。
「発射5秒前」
おお、なんだか本格的だ。
「4、3、2……」
「前フリ長いわよー! 早く撃てー!」
「1――ゼロ」
……ちろちろ〜。
小便小僧のソレ(失礼)みたいな弱々しさで水が発射された。
「にゃはははははっ! なによ、それ! ションベンコゾウじゃないのよ!」
うっ、チビ姫と同じことを思ってしまうとは人生最大の不覚かも……。
っていうか、こいつ姫さまのくせに、とことん下品だなあ。
……じょろろろ〜。
小さな放物線を描いて、シグマの水鉄砲は水を発射し続けていた。
「もっとしっかり撃ちなさいよー! そんなんじゃ全然芸にならないわよ!」
すっかりタチの悪いオヤジのノリでツッコミを入れまくるチビ姫ワーニャ。
「わかった」
あれだけヤジられても全く表情を変えずにシグマは小さな声で呟いた。
「安全装置解除」
……は? あんぜんそうち?
「設定変更、強度出力」
きょうどしゅつりょく?
「前フリはいいから早く撃ちなさいよー!」
「――発射」
かわいい声に反して、レーザービームのごとく一本の線となった水――正確にはお湯――が飛び出て……。
「み゙ゃああああぁぁぁ〜〜〜っ!!!」
見事にチビ姫の顔面に命中。そのまま後転しながら湯船に沈んだ……。
凄まじい勢いだったけど、これってやっぱりシグマはヤジに怒ってたからだよな。
「ああ姫さまはその口の悪さが災いし、見事に仕返しを食らって湯船に沈んでしまいました。泳げない姫さまは足がつく深さにもかかわらず気が動転してしまい溺れてしまうかもしれません。ああどうしようどうしよう。助けなければいけません。ああどうしようどうしよう。……ひっく。日本酒、おいしいです。ぐびっ」
ひたすら説明台詞に徹して時間を稼いだ挙げ句、くいっとおちょこを一気飲み。
全く助ける気がない酔っぱらい――もとい侍女クラヴィエだ。
つか、このチビ、放置でいいのか?
「ぷわあぁ……! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!!」
あ、クラ●……じゃない、チビ姫が立った。
「げほっ、げほっ! なにするのよ! 額に穴が開くかと思ったじゃないの! 脳がすごい刺激を受けて第六感を超えた第七感、セブンセンシズに目覚めちゃったらどうするのよ!」
「黄金の鎧を身にまとえばいいんじゃないか?」
「なにか言った!?」
カメラ目線でチビ姫がメンチを切る。
「いや、なにも」
「わたしはアテナに仕える気はないわよ! むしろ、わたしがアテナよ!」
ああ、まただんだん会話がおかしな方向に飛んでいく。
っていうか、ネタわかってんじゃん。
「姫さまが無事でした。……ちっ」
うわぁ、侍女のくせに今、舌打ちしたよ、この人。
「あのひと、こわい」
シグマはマイムの背に隠れた。
「あんなに凶悪な水鉄砲を撃っておいて、怖いのはどっちよ!」
不用意にヤジを飛ばして安全装置を解除させたのはどこの誰だ。
「ここは早く次の人にバトンタッチしましょうね、シグマ」
うむ、素晴らしいスルー具合だ。
「ちょっと話を聞きなさいよ、もう!」
ぎゃあぎゃあわめくチビ姫を無視して、マイムがシグマにダーツを渡す。
ダーツの的が回転し始めた。
「たあ」
気が抜けるようなかけ声と、めっちゃ女投げなフォーム。
びゅんっ!
……にもかかわらず、ダーツはものすごい勢いで飛んでいって、深々と的に刺さった。
さすが戦闘ロボ。つーか、むしろこっちを芸にしろ。
「次の方はー……ティティさんです!」
「わ、わたしですか!?」
「はい〜(はぁと)。ステージへどうぞ」
「は、はいっ」
湯船を歩いて、裸にタオルを巻いているティティがステージに上った。
代わりにシグマはステージを降りた。
「あ、あの、宴会芸といっても一体なにをすれば良いのでしょう……?」
突然注目を浴びてティティがもじもじと照れている。
「その、杖もないことですし……」
「そういうことでしたら杖はいったんお返ししちゃいます〜」
どこからともなく取り出した杖をティティに返す。
治安に厳格なようで、実はけっこういい加減なメイドさん。
「あ、ありがとうございます」
どこからともなく取り出した杖を、マイムはティティに返した。
「で、でも、芸と言われても……」
「ティティさまの得意なことで良いんですよ」
「わたしの得意なこと……得意なこと……」
う〜ん、とティティが悩む。
「わたしの得意なことは……じゅ、呪殺です!」
ぶ、物騒な……!
「どんな要人もわたしの呪いにかかれば、い、イチコロです!」
どこかのゴルゴ的な凄腕スナイパーも顔負けだ。
「しかし、呪殺だと確認が面倒ですねぇ。芸としては難しいかも」
「す、すみません……」
しゅんとなるティティ。
っていうか、問題はそこかよ。
「何か他にはないでしょうか、ティティさま」
「あ、召還術などいかがでしょうか?」
「まあ、それは良いですね! それにしましょう〜(はぁと)」
……しょ、召還術?
ティティはそんなこともできるのか……。
ここにワープしてきたくらいだから、そのくらいできるのかもしれないけど。
イマイチ、こいつらの感覚には未だについていけない。
「クス・クス全部族の上に立つ筆頭魔導士であるティティさまの召還術とは見応えがありそうです」
と興味津々のクラヴィエ。
「ティティの術はすごいんだぞ〜!」
と妹を自慢するマカマカ。
「神獣でも超獣でも円盤獣でも破壊獣でも、ちゃっちゃと呼んじゃって〜。あ、もちろんわたしに似合いそうな、とぉ〜っても高貴なのをよろしく」
「は、はい! 魔王さまのご命令とあらば喜んで!」
早速ティティは杖をかざして何か呪文を唱え始める。
ぼそぼそと小さな声で、しかも早口だから良く聞こえないが、明らかに今までとティティのまとう空気が違う。
そして杖の先にある赤い宝玉が激しく輝いた。
「出でよ! 魔王さまに似合いそうな、とっても高貴な動物よ!」
そしてティティの前に現れたのは――。
「ぶもおおおおぉぉぉ〜〜〜ん☆」
「なによ、それ! 下等触手生物じゃないのよ!」
吸盤のないタコみたいな生物がうにょうにょと手(足?)を動かしている。
「わはははは! お前にお似合いの高貴な動物ってことだろ? 触手が!」
「なんでわたしにお似合いの動物が触手なのよ! そんなわけないでしょ! あんたが触手だからって勝手に親近感でも持ってなさい!」
「触手、言うな! こんな生物に親近感なんか抱くか!」
「ぶも、ぶもぉ?」
某RPGのスライムみたいなかわいい顔をしているが手足は触手。
そのアンバランスが何ともキモカワイイ。
「ぶも?」
触手がチビ姫を見る。
「な、なによ……?」
「ぶも……」
「だから、なによ?」
「ぶもおおおぉぉぉーーー!!!」
「み゙ゃああああぁぁぁーーー!!!!」
突然触手生物がチビ姫に襲いかかった。
|
触手に襲われるワーニャ姫。普段から小馬鹿にしている生物の仕返しか?
しっかりとエロポイントを触っている触手くん。ちゃんと空気を読んだらしい。 |
「なななななな、なにすんのよ、このエロ下等触手生物ー!」
おお、なんかすごいエッチな感じにチビ姫が襲われているぞ。
「ああ姫さまが愚劣な下等生物の触手に今にも犯されようとしています! こんな見事なショーはなかなか見ることができません!」
露骨にショーとか言ってしまっている辺りで、クラヴィエの酔っぱらい度がよくわかる。
「わははははっ、もっとやれ〜!」
マカマカはとても楽しそうだ。
「おー」
シグマはぱちぱちと拍手をしている。
「まあまあ、見事な触手生物ですね」
マイムはにこにことこの騒ぎを眺めている。
「こ、コペケバー! 今すぐ助けなさいよー!」
カメラ目線でチビ姫が偉そうに命令した。
「俺は風呂場を覗いちゃいけないんじゃなかったのか?」
「見ないように助けなさい!」
「んな無茶苦茶な。無理だろ」
「無理を通せば通りが引っ込むのよ!」
「炎の熱血漫画家みたいなことを言うな」
「いいから早く助け……ひゃあ!」
「ぶもも〜☆」
うねうねと動く触手がチビ姫の股間や胸回りをはい回り、そのたびにタオルがズレていく。
このままだと大事な部分も見えちゃうんじゃないか?
もちろん大人の事情で、ヤヴァイところには芸術的な湯気がかかって見えなくなるわけだけど。
「ぶも、ぶも〜☆」
触手生物はチビ姫が気に入ったらしく調子に乗って、ますます手足をうねうねと動かす。
「わたしの美しく清らかな肌に馴れ馴れしく触ってるんじゃないわよ! あ、こら、ダメ、なにするのああいやちょっとこらぁにゃああああぁぁぁ〜〜〜!」
「ままままま、魔王さまが卑猥な触手に襲われてあられもない姿で甘い吐息を漏らしながら喘いぎまくって、ぶー!」
あ、ティティが鼻血を吹いて倒れた。
「ま、魔王さまのこんな姿を見れるなんて、ああ、ティティは感激です……」
ステージの上でぴくぴくふるえながら感無量の感想を漏らすティティ。
とうとうイッてしまったようだ。
ああ普段は良い子なのに……。
「――はっ!? とにかく魔王さまを助けないと!」
ティティは早口で呪文を唱えて、触手生物を元の世界に返した。
「ああ、あうあ、うう、ああぁ……」
まさにその身体を蹂躙されたチビ姫はステージの上でぴくぴくと震えていた。
軽くイッてしまったようだ。
「まさにお似合いの生物だったな」
「申し訳ありません、魔王さま! でも、魔王さまのお姿……素晴らしかったです。ぽっ」
謝ったり倒錯したりと忙しないティティだ。
クラヴィエは目がどこか虚空を見ちゃっているチビ姫をステージの上から引きづり下ろした。
「あっちの世界にイッちゃってるお姫さまはスルーしちゃって、次、いっちゃいましょう〜!」
定番のドラムロールが鳴り響く中、マイムがダーツを投げた。
的が止まる。
「次は、マカマカさまです〜(はぁと)」
「んあ? あたし?」
岩場であぐらをかいて、マンガ肉をひたすら食っていたマカマカが顔を上げた。
「はい、どうぞステージへ〜」
「ノナドポイア」
「ゆりりっく〜♪ ……ゆり?」
デカイ砥石で自分の身体を研いでいた生ける剣ノナドポイアが上半身(?)を起こした。
「来い」
「き・くちも〜も・こが・く・せです〜♪」
研ぐことができて上機嫌なのか、ノナドポイアは鼻歌を歌いながら、剣の先を石畳に刺しながらぴょんぴょんと跳ねて、マカマカの元へ移動した。
「よし、行くぞ」
ノナドポイアの柄を掴んだマカマカはジャンプひとっ飛びでステージの上に着地した。
おお、さすが野生児。既に今のが十分芸になっている。
「マカマカさまはどんな芸を見せてくださるのかしら〜?」
「うまい肉のお礼だ。部族皆殺しでも、惑星生物狩猟絶滅勝負でも何でもやってやるぞ」
「姉さま、そんなことやめてください!」
「心配しなくても大丈夫だぞ、ティティ。姉ちゃんは絶対負けないからな」
この野生児は何でも勝負事に持って行くんだな……。らしいっちゃらしいけど。
「そういう問題じゃありません! 他人に迷惑をかけないでと言ってるんです!」
「なにをいってるんだ。姉ちゃんは全然迷惑なんかじゃないぞ。ティティのためなら恒星系のひとつくらい安いもんだ!」
白い歯をきらりん☆と光らせて、マカマカがニカっと笑った。
会話のズレ具合は一級品だな。
「姉さま、お願いですから、そこの岩を三枚に下ろすくらいにして下さい……」
「そんなんでいいのか? 簡単すぎてつまらないけど、ティティのお願いなら姉ちゃんは喜んで聞くぞ」
全くかみ合っていない姉妹のやり取りは無難なところに落ち着いた。
マカマカはステージから降りて、自分の身体ほどもある岩を、なんと片手で引っこ抜いた。
「これくらいでいいか。楽勝だな、ノナドポイア」
「るっぷあ〜」
刀身を反らせてるノナドポイア。
あれは『そのくらい朝飯前だぜ!』的なポーズらしい。
ステージに戻ったマカマカ。
「行くぞー!」
「は〜い、やっちゃってください〜!(はぁと) ドラムロール、スタート!」
いつの間にか待避していたマイムが宣言すると、どこからともなく小太鼓が鳴り始めた。
片手で悠々と大岩を掴んでいるマカマカは、それを真上に、とぉ! と放り投げた。
当然、重力に従って岩は真下、つまりマカマカに向けて落下してくる。
このままだと脳天直撃――。
「おん・ざ・ごーーー!」
ノナドポイアが気合いを入れた感じに叫ぶ。
「――うらあ!」
三つの風切り音が聞こえた瞬間、三つの線が見えた。
そして三分の一サイズになった岩はマカマカを避けるようにして『どすん!』とステージに落下。
……え? 斬る時に、岩々の落下地点まで計算してたってことか?
これ、マジですごくね?
「お見事です、マカマカさま〜!」
ぱちぱちぱち〜とマイムが拍手しながらステージに戻ってきた。
「素晴らしい技です。このくらい私も容赦なく切り刻むことができれば……ひっく」
誰を切り刻むんだ誰を。
酔っぱらいはとことん物騒だな。
「ああ、よかった……」
ティティはほっと胸をなで下ろしている。
「ちょっとすごい」
シグマは素直に小さな手をぱちぱちと叩いていた。
「ちょっと照れるなぁ、あははっ」
ぽりぽりと後ろ頭をかくマカマカ。
本気で照れている。
「き・くちも〜♪」
同じく上機嫌のノナドポイア。
なんだかんだと一番宴会芸っぽかったぞ。
「じゃあ、マカマカさま。ダーツをお願いしまぁ〜す(はぁと)」
「あそこに投げればいいんだよな?」
「はい〜(はぁと)」
面倒くさそうにアンダースローで、マカマカはダーツを投げた。
めちゃくちゃなフォームなのに、綺麗な弧を描きながら飛んでいく。
そして、刺さった場所にはマイムと書かれていた。
「あはっ☆ わたしですね〜。有能なメイドが持つ技能は数あれど宴会芸に相応しいのはやっぱりこれ!」
80年代ポップス風のイントロが大音量で流れ始める。
一体どこにスピーカーがあるのかさっぱりわからないが、もうこれは触れない方が良いんだろう。
「あなただけに届けちゃいます。メイドのハートをめいっぱい込めた歌と踊りと笑顔を(はぁと)」
ステージの側にあった岩のいくつかが開いて、サーチライトが登場。
裸にタオル姿のメイドさん(しかしホワイトブリムはしっかりと装着されている)を照らす。
「今から歌が終わるまでの間だけ、わたしはあなただけのメイドさんです(はぁとはぁとはぁと)」
きゃる〜ん☆とマイムがジャンプ。
む、クラヴィエよりも大きな胸がぽよんと揺れたぞ。
「Ah〜、はっやっおーきなーの〜ハウスメイド〜〜〜♪」
露天風呂にサーチライトのステージ+懐メロ仕立てのメイドソング。
どんだけミスマッチなんだ。
しかし、あまりにもナチュラルにマイムが歌っているので、こういうものアリかという気になってくる。
「ぱ〜じゃーまー、着ー替ーえーる、ゆ〜び〜さ〜き〜♪」
っていうか、超ノリノリで歌っているから、ものすごい揺れてるんですけど、む、胸が……。
「ふっふっふ。そんなに観たいですか? ……ひっく」
酔いどれ侍女のアップ。
こっちはこっちで汗ばんだ顔が朱色に染まっていて、やたらと艶っぽいんですけど……。
「その心の声に応えて、ずーむいんっ」
画面にマイムの上半身アップが映った。
「メ〜イ〜ド〜の誇り〜♪」
ジャンプ、着地、一回転。
縦揺れ、縦揺れ、横揺れ(マイムのおっぱいが)。
ゴム鞠みたいに弾む巨乳に、思わず釘付けになってしまう。
もちろん汗でべったり肌についているため双丘の形は胸が高鳴るほどにくっきりと浮かび上がっていた。
その上、結構激しく踊っているからタオルが少しずつ下にズレていく……。
えーっと……これ、やばくね?
と自分でツッコミつつもやっぱり視線を外せない。
そして、一番の歌詞が終わった。
「間奏が流れてるうちに、ちょっと直しちゃいます〜(はぁと)」
マイムが背中を向けたかと思うと、タオルを開いて身体に巻き直す。
「んしょっと……」
強力なサーチライトがその裸体を照らしてタオルにシルエットを浮かび上がらせる。
くねっとした背中のラインとか、胸に負けず劣らず豊かなお尻とか、その健康な男子には猛毒なんですけど。
その汗ばんだうなじも首筋も。
っていうか、ズームの位置とタイミングが見事過ぎます、クラヴィエさん。
「うん、これで二番も大丈夫です♪」
マイムがこっちを向く。
「失礼しました、ご主人さま〜(はぁとはぁとはぁと)」
人差し指を立て、ウインカーみたいに動かして、カメラ目線ウインク。
直後、二番の歌詞が始まった。
……なんだ、このメイドさんは。
もしかして、俺、男心丸出し?
悶々としつつ、裸+タオル+ホワイトブリムのマニアック三点セットな歌うメイドさんを食い入るように観ていた。
そして、再び激しい振り付けのサビに突入。
「心から〜心から〜ご奉仕したいの〜♪」
ジャンプ、着地、一回転。
縦揺れ、縦揺れ、横揺れ(ああ素晴らしすぎる)。
その瞬間、胸の谷間に食い込んでいたタオルの結び目がはらりとほどけた。
うおお!?
今の俺の目はハイスピードカメラ状態。
スローモーションで落ちていくタオルと、少しずつ露わになる胸を高解像度でとらえている。
そして桃色のなにかがかすかに見え始めた瞬間――。
『これは有料チャンネルです』
と画面に表示された……。
「うおぉいっ!! またかよ!!」
思わず全力でテレビにツッコミを入れる。
それでもBGMは流れていて、歌声は露天風呂から聞こえてくる。
真っ裸で歌ってるのか、マイムは……。
正直、観たかった。ああ観たかったさ、そりゃ。
そして歌が終わった。
「どうも。……ひっく」
「台詞が終わった後のしゃっくりは、もうデフォルトだな」
テレビ画面に現れた酔いどれクラヴィエ。
「本作品は18禁ではないので」
「……あっそう」
「今にも泣きそうなくらい悲しい顔をしないで下さい」
「してねーよ!」
「『有料チャンネル』ネタはもう使いませんから」
「……本当だな」
「約束します。 ちなみにさっきの話ですが、マイムさまは湯船に入られて歌いました」
「ああ、なるほど」
「お見苦しいところを失礼しました〜(はぁと)」
タオルをしっかりと身体に巻いたマイムが笑顔でウインク。
ハプニング対応もばっちりなメイドさんだ。
「じゃあ、相変わらず桃源郷にイッちゃってるワーニャさまは放っておいて、最後はクラヴィエさまです〜!(はぁと)」
宴会芸シリーズのトリを務めるのクラヴィエがゆっくりとステージに上った。
「トボス・タタンを使って物質変換をします。ひっく」
ステージ上に立つ酔っぱらいクラヴィエがそう宣言した。
「ではでは、クラヴィエさまの物質変換です。どうぞ〜(はぁと)」
「ぽちっとな」
クラヴィエが手首に巻いた赤いボタンをぷにっと押した。
「…………」
なにも起こらない。
「なんだ? なぁ〜んにも起こらないぞ〜!」
マカマカがヤジを飛ばす。
「あら? もう一度、ぽちっとな」
しかし、なにも起こらない。
「どうしたんでしょう? 我が星タウル・ゾビスの偉大なる万能デバイスが壊れるということはないのですが……」
何度もボタンを押すクラヴィエ。
「えい、やあ、とお、この、このっ」
だんだんボタンを押す速度が速くなる。
……た……た、た、た、た・た・た・タタタタ……!
ほとんど16連射みたいになってきたぞ。
「あ、動きました」
ぱあっとトボス・タタンが赤く輝き始めた。
「物質変換〜。お風呂のお湯よ、お酒になぁれ」
大山のぶ代ボイスで、なんとも即物的で欲望的な欲求を叫ぶクラヴィエ。
お湯が一瞬光ったかと思うと、突然――クラヴィエ達が身体に巻いていたタオルが消えた。
「おおっ!?」
思わず画面にかぶりついてしまう俺。湯気でしっかりと見えないが、しかし……。
「にゃあ!?」
ちょうどあっちの世界から戻ってきたチビ姫が素っ頓狂な声を上げる。
寸胴体型がシルエットではっきりとわかる。
「あら? ……ひっく」
自分の身体に巻いていたタオルが消えて、しゃっくりしながら首をかしげるクラヴィエ。
上半身がアップ。美乳の形が湯気に浮かび上がっている。
「きゃ……!」
胸や身体を両腕で隠すように抑えるティティ。リアクションが一番まともだ。
「なんだ?」
意外と胸が一番大きいんじゃないかと思われるマカマカは自慢の身体をさらけだしていた。
こいつには羞恥心ってものは最初からないんだろう。
「はだか」
ノーリアクションのシグマ。
一部の大きなお友達には需要たっぷりだ。
「まあまあ、これは困りましたね〜(はぁと)」
それなりに余裕を見せつつも照れながら胸と股間を両腕で隠すマイム。
ある意味一番のセクシーポーズだ。
「お湯がお酒になるはずだったのに……なぜ、皆さんのタオルが消えてしまったのでしょう? ……ひっく」
詳しい理屈はわからないが、とにかく湯気が晴れさえすれば素晴らしい光景だ。
……いや、隠れている方が妙にエッチかもしれないけど。
そのとき出窓からゆるやかな夜風が入り込んできた。
この風がゆっくりと風呂の湯気を吹き飛ばしていく。
「おお……!?」
全員の裸が露わになる――!
「……うっ」
突然クラヴィエの顔がアップになる。
しかも、顔色が悪いぞ……?
「彼方さま。申し訳ありません……」
「な、なにが?」
「どうやら私は突如我慢の限界を迎えたようで、本来ならばお手洗いまで耐えるところなのですが、えれえれえれえれえれえれ〜〜〜〜〜……!」
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーー!」
クラヴィエがトボス・タタンの上に■■を吐いた……!
たぶん床に両手をついてその上に吐いたんだろうけど、おかげでテレビ画面が●☆まみれだ!
裸体が拝めると思ったら、よりによってクラヴィエの(ピー!)かよ!!
「なんだ、それぇー!! めっちゃ期待したのにぃー!!」
うわぁ、まだテレビは×▲まみれだ。
電源を切ろうとしてもコントロールを奪われているために切れない。
なんちゅう迷惑な機能だ……。
数分後、テレビ画面はのんびりとしたスポーツニュースになった。
『大丈夫ですか?』とかいろいろ聞こえてくるが俺にはもう関係ない。
着替えがどーのこーのと声が聞こえていたので、たぶん風呂から上がって脱衣所で着替えたりクラヴィエを介抱したりしているんだろう。
そして、スポーツニュースも終わった頃、そろそろ寝ようかなと大あくびをしていると画面がまたまた切り替わった。
そこには18畳くらいある和風の部屋が映し出されていた。ご丁寧に人数分の布団が敷かれている。
「どうも。復活しました」
クラヴィエが画面に登場した。
「せめて電源のコントロールは返してくれ。もう※△まみれはイヤだ」
「残念ながら全て奪うか、全て返すかしかできませんので」
万能デバイスのくせに融通が利かないんだな。
画面には、チビ姫、クラヴィエ、ティティ、マカマカ、シグマ、マイムが全員浴衣に着替えて映っていた。
「こんなところで雑魚寝? 所詮は下等生物。野蛮な風習ね」
「しかし姫さま。このお布団。なかなかの柔らかさです」
「ふ〜ん。あ、確かにふかふかね。まぁ、このくらいなら寝てあげてもいいけど?」
ツンデレ風味満載の姫さま的台詞で布団に興味を示すチビ姫。
っていうか、こんな部屋まで作ってたのか。
「気に入ってくださって何よりです(はぁと)。やはり温泉と食事のあとは和室で就寝が王道ですから」
「タウル・ゾビス王家のプリンセスがこんなところで下々の者と床を共にするなんて光栄に思いなさ――ぶっ!」
ご高説のたまわっているところに、突然枕が投げられた。
「わはははは! 当たった! 顔に当たった! 見たか、ティティ!? 姉ちゃんのコントロールは最高だろ?」
「魔王さまに何てことするんですか、姉さまは!」
「おおおお、己ぇ〜! たぁー!」
チビ姫が枕を投げ返す。
「わははは――ぶ!」
見事、マカマカの顔面に直撃。
「やったなぁ……!」
マカマカ、再び枕投げ。チビ姫も負けじと投げる。
ごく自然発生的に枕投げが始まった。
「しぐまもやる」
シグマがぽいっと枕を投げた。
軽く投げたくせに、その枕はものすごい風切り音を立てながら飛んでいき、チビ姫の顔面に命中。
「ぶは――!」
そのままくるりと後ろに一回転して、布団に落ちた。
「なななな、なにすんのよ! あんたは手加減ってものを知らないの!?」
「ああ姫さま、鼻血が……」
「ふがっ、ふがががっ……!」
クラヴィエにティッシュで鼻を吹かれる自称高貴な姫君。
「姫さま。ひとまず、これで我慢を」
ティッシュを鼻に突っ込んだままチビ姫は仁王立ちする。
「あんひゃには目にもの見ひぇてくれふわ!」
どんなに格好をつけても鼻にティッシュが入っているため、台詞にいまいち力が入らない。
それでも両手で枕を一個ずつ掴んで、マカマカとシグマへ向けて投げる。
マカマカとシグマもそれぞれに投げる。
三つどもえの闘いが始まった。
「あ、あの、わたしはどうすれば良いの――ふぎゃ!」
「姫さま。お肌のためにそろそろお休みになられた方が――はぷっ!」
「ティティ、クラヴィエ! 手伝いなさい!」
「魔王さまの命令とあらば喜んで!」
「ははっ。かしこまりました」
枕をぶつけられて二人とも多少火がついたのか、ティティとクラヴィエはチビ姫陣営として参戦した。
「ごく自然に、伝統の枕投げが始まっちゃいました〜(はぁと)」
定番通りの展開になって、やたらとマイムは嬉しそうだ。
「おお……?」
結構激しく動いているため浴衣がはだけている者もいる。
マイムはマカマカ・シグマ陣営に参加して、3対3の枕投げとなった。
シグマの枕だけが飛び抜けた威力を持っていたが、あとはどっこいどっこい。
いつ終わるとも知れぬバトルを妙に楽しげに続けていた。
「ふわあぁぁ〜〜〜……。俺はそろそろ寝るぞ」
部屋に布団を敷いて、電気を消した。
テレビの電源は中継をしているクラヴィエに一任されているため、こっちの都合で消すことはできない。
寝ぼけ眼で見ていると、いつの間にか枕投げは終わり、6人は床に就いていた。
マカマカがすごい寝相でいびきをかいていて、側にいるティティが苦しそうに眠っていたりと、それぞれの様相を示しながら眠っていた。
チビ姫の茶碗風呂探しに始まり、騒々しい一日だったけどようやく今日が終わった。
また明日も何かあるのかと思うと憂鬱だが、ひとまず安眠できそうだ。
俺は心おきなく寝返りをうった。
〜つづく〜
文・神野マサキ(ユニゾンシフト)
イラスト・こぶいち(ゆずソフト)
【せな★せな 関連情報】
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■ せな★せな 1−3話 「我が王家の名において、わたしの奴隷になりなさいっ!!」
■ せな★せな 2−1話 「魔王さまに捧げるために、この身をしかと清めてまいりました」
■ せな★せな 2−2話 「あたしの妹をいじめたのは、どいつだっ!!」
■ せな★せな 2−3話 「あ……魔王さまのここ、柔らかくて温かい……」
■ せな★せな 2−4話 「四の五の言わずに戦って死になさいっ!」
■ せな★せな 3−1話 「未登録宙域における戦闘示威行為を確認」
■ せな★せな 3−2話 「この落とし前どうつけてくれちゃう気よっ!」
■ せな★せな 3−3話 「ご主人さま、お嬢さま、大変長らくお待たせいたしちゃいましたぁ!」
■ せな★せな 4−1話 「世界の中心日本橋にどーんと自社ビルや!」
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