2008年01月20日
【せなか企画】 せな★せな 6−2話 「なんで、こんなみっともない格好をしなくちゃいけないのよっ!」
せな★せな 6−2話
「なんでこのわたしが、こんなみっともない格好をしなくちゃいけないのよっ!」
「Ah〜いっちっげーきなーのハウス冥土〜〜〜♪」
とりあえずなんだかんだと巻き起こった騒動のことは忘れて、部屋に戻ってくると腰を落ち着けた。
そうだ、まだ読んでない新刊があったよなぁと思いつつ、本の山に手を伸ばす。
「逝ってらっしゃいませ、ご主人さま(はぁと)」(曲間セリフ)
さっきまであったことは、綺麗さっぱり忘れて、読書に集中しようとする。
「I'm main in armed. Maiden fighter〜」
なにもかも頭の中から追い出して、俺はこの同人誌を貪るように……
「Oinochi! ちょっうっだっいっしっまっすっ〜♪」
「だああああああっ! うるさい!!」
「ああん? なんだよ銀河触手大陰獣……と書いてご主人さま」
「すごーく納得できない呼び名だが、それは置いておいてだ」
ヘッドドレスに飾られた髪を、不機嫌そうに揺らしながら、モップ片手に振り返る、机の上の小さな姿。 いつものビキニ鎧ではなく、メイド服姿なので、違和感バリバリだった。
「とにかく、その物騒な歌をやめてくれ」
「あたしに言うなっ。あの調停者だかなんだか、メイドロボがこうしろって言ったんだよっ」
「確かにマイムはよく歌ってたけどさ……」
断じて、そんな血生臭い内容ではなかったと思う。
「はぁ……」
忘れよう、気にしまいとしていた事実を突きつけられて、俺は深々とため息を吐いた。
「なんでこんなことに……」
「それは、あたしのセリフだっ」
モップを握る手に、ぐぐっと力を込める。
「あのロボ女め、なにが『懲罰奉仕』だ! 不意さえつかれなかったら! ノナトポイアさえ奪われなかったらっ! あんな奴にゃ負けなかったのにぃぃぃっ!!!」
地団駄踏んで悔しがっていた。
そう、つい数十分前。このマカマカは協定違反の罰則とやらで、メイドとして働かされることになったのだ。
それはいいとしても、どうしてその奉仕先がこの俺なんだろう。
こんな危険度レッドゲージでエマージェンシーなメイドさんは、謹んでお断りしたいのだが……でも、そうもいかないんだよなぁ。
「とにかく、ささっとやることやって帰ってくれよ」
「あたしだって、あんたのお世話なんか御免こうむりたいね」
肩をすくめると、モップを握り直す。
「ったく、面倒くさいけどさっさと始めるか……」
キュッキュと音をたてて、机の上を磨き始めていた。
ま、部屋が綺麗になるのなら、それはそれでいいのかもしれない。
モップを滑らせるたびに、手垢と埃で汚れた机が、ちょっとずつ輝きを取り戻していく……
「って、やってられるかあああああーーーーっ!」
「早っ!」
べしっと音をたてて、モップを床に叩きつけていた。
「馬鹿馬鹿しい。ヤメだヤメっ」
胸元のリボンをしゅるしゅるとほどくと、ヘッドドレスすら投げ捨てていた。
「お、おまえ、そんなことしてどうなるか……」
「分かってるよ。どうせあのロボ子がどっかで監視してるんだろ? 上等じゃねーか」
戸惑っていると、しゅごおおおおーっと、廊下からバーニアの音が聞こえてきていた。
俺の部屋、監視カメラでも仕込まれてる?
「あたしはもう負けねぇっ! 勝ってこのメイド服もティティに着せて、『わぁー、か〜いいなぁ。ティティはなに着ても似合うなぁ〜』ってモフモフするんだあああっ!」
「不純な動機だな、おいっ」
バン! とドアが開くと、そこからもう一人のチビッコが迫り来る。
「……懲罰奉仕に対する反抗を確認」
全身のスラスターを駆使して、ぐりぐりと回転しつつ、縦横無尽に飛び回っている。
やがてそのガトリングガンを水平に構えると、銃口をマカマカに向けていた。
「フッ……このあたしが、同じ相手に二度も不覚をとると思うか?」
「マーカーリンク開始……ターゲットロック、自動追尾します」
バレルの回転する、冷たくも無慈悲な音が響き……
「どおりゃああああああああっ!!!」
足下の得物を取ると、一気呵成に飛びかかっていた!
「喰らえ、ノナトポイアーーーーーーーっ!!!」
大きくその武器を振りかぶる!
「って、無いんだったぁぁぁぁっ!!!!!」
残念、モップだった!
「鎮圧」
ドバババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!!!!
「アダダダダダダダダダダダダダダダダッ!」
「射撃時間、長!」
白煙を撒き散らしながら発せられる、猛烈なマズルファイアが瞳を焼く。
狂ったように薬莢を吐き出しながら、銃弾の雨あられをたたき込んでいた。
「……のーえんぷてぃー」
やがてようやく弾倉が尽きる。
圧倒的な攻撃が終わり、後にはブスブスと焦げた机と、真っ黒になったマカマカらしい姿がひとつ。
あれだけタフな女戦士といえども、これだけの弾丸を喰らってはひとたまりもないのでは……。
「ミサイル発射」
「おわああああああ!」
パカッと肩の装甲板が外れたかと思うと、そこからミサイルポッドが現れる。
次々と軌跡を描いて、撃ち出されていた。
ドン! ドン! ドン! ドン!
着弾の度にテーブルを揺らせて、小爆発がいくつも巻き起こる。
「…………」
残るのは、ただ沈黙。
こ、この攻撃を受けてしまったら、流石のマカマカもひとたまりもないのでは……。
と思っていたら、黒い固まりがムクリと動いた。
「っ痛ってーだろうがっ!!!!」
宇宙最強の戦士は丈夫だった!
髪の毛をちょっと焦がして、ススにまみれてはいるものの、いたってピンピンした様子だった。
「ちなみに……メイド服は強化セラマイト繊維で出来ているので、すごくじょーぶ……」
そしてシグマの解説。
いったいこのメイド服は、どんな状況を想定しているのだろうか。
「……なぁ、マカマカ」
ともあれ、薄汚れたやさぐれメイドに言ってやる。
「おまえ、バカだろ」
「…………」
無言。
さすがに返す言葉がないのか、無言でツカツカと歩いてくる。
「ローッ!」
「ぎゃあああっ!」
小指に思いっきり悶絶キックを喰らっていた。
「奉仕対象に対する反抗を確認」
「三度目の正直だあああああっ! ノナトポイアーーーーっ!」
うずくまる俺の横で、だっと畳を蹴って飛び上がる!
「って、ないんだったぁぁぁぁーーーっ!」
「弾倉交換完了。鎮圧」
ドババババババババババババババババババ!!!!
なぜ俺の部屋で、小戦争が巻き起こっているのだろう……
☆
「はぁ……」
「ハァ〜……」
二人して、盛大なため息を吐く。
ちなみに前者が俺、後者がマカマカだ。
「あああ、畳こんなに焦がしちまって……」
敷金なんて返ってこないだろうなぁ、元々ススメの涙だし……などと、ぼんやりと考える。
「あんな小娘に捻られて、なんの定めか触手の言いなり……」
モップを動かしているマカマカが、ぐっと目尻を拭う。
「ハッ、アタイも堕ちるところまで堕ちたもんだ」
「いや、また一人称変わってるし」
そろそろ俺の外見的印象を改めてもらいたいものだ。
もっとも、それはこいつに限った話ではないが。
「……ん?」
望みは薄いなと一人嘆いていると、目の前をピョコピョコと通り過ぎる影がひとつ。
「プッ……プププププププッ……」
手の平を口にあてながら、実に楽しそうな瞳で笑っていた。
「あははははははは! ビキニ鎧の次はメイド服だってーっ! こいつかっこわるぅーっ!!」
「お、お前は……ワーニャ・ド・フラドなんとか・なんとかなんとか!」
指差して笑い転げている姿に、マカマカは顔を真っ赤にして反応する。
「ワーニャ・ド・フラドラセリ・ビタ・メルクール・ノバ・ゾビスよっ。いい加減覚えなさいっ」
また面倒くさいやつがやってきていた。
「で、その略してワーニャ(以下略)姫はなにをしに来たんだ」
「ワーニャ・ド・フラドラセリ・ビタ・メルクール・ノバ・ゾビス! まったく、そんなの決まってるじゃない……ププッ」
横目でチラチラと見つめながら、笑いを噛み殺していた。
「てめぇ……このあたしを笑いに来たのかっ」
「だって、だってあのお強いクス・クスの戦士サマが、メ、メ、メイド……プーーーーーッ!」
腹を抱えて、ゲラゲラと笑い始めていた。
弱いものを見つけると、容赦しないな……こいつ。
「……ぶっ殺すっ!」
当の本人はと言えば、早くもヒートアップして熱くなっている。
腕まくりをすると、ツカツカと歩み寄っていた。
「……このわたしに、手出ししていいと思ってるの?」
「なにぃ?」
「あんたの主人はこのコペケバ! ウスノロで、ドジでマヌケな銀河の粗大ゴミよっ」
こ、こいつは……
「そしてこのわたしはタウル・ゾビスの盟主、聡明で美しい、花も恥じらう美しいワーニャ姫よっ」
「おまえ、美しいって二回言ったぞ」
「うっさいわねっ。とにかくわたしはコペケバの主人なのっ。つまり、あんたの主人でもあるの!」
強気にずずいと近寄っていく。
「身の程をわきまえて、このわたしの前にかしずきなさいっ!」
「くうぅーーーっ……」
「それともなに、あんた一生その身分のままでいいの? この単細胞生物の下僕として一生涯生きていくつもりなの?」
「そ、それは……イヤだ……」
「じゃあ、このわたしをワーニャ姫様とお呼びなさい!」
「ワ……ワーニャ姫……さま……」
プルプルと震えている、握りこぶし。
これはアレだ、非常に危ないのではなかろうか……
「あはははははは! よ〜く言えました!! じゃあこのわたし自ら、メイドの出来をチェックしてあげようかしら」
つつーっと畳の上に、指を這わせていた。
「あら? マカマカさん、この汚れはなにかしら?」
そしてグリグリとほっぺたに押しつける。
お前は意地悪な姑か。
「わ、悪かったよ……」
「違うわ、申し訳ありませんこの掃除も満足に出来ないダメメイドをその寛大な心でお許し下さいワーニャ姫様、よ!」
「も、申し訳ありません……この掃除も満足に……ダ、ダメメイドを……」
俯いている顔が、憤怒に彩られていく。
ぷちん、と血管が切れた音すら聞こえてきそうだ。
たぶん、もう限界だろうと思う……
「だあああああっ! やってられっかああああっ!!!」
「きゃあああああっ!」
足をひっつかんで、そのまま投げ飛ばしていた!
「ちょっとコペケバ! この店の女の子はどうなってるのよっ!」
「俺に聞くなっ。というか店ってなんだっ」
「ふざけやがって……ここまでバカにされたのは初めてだっ」
闘気のオーラをまとって、にじり寄ってきていた。
ああ、空間が歪んで見える……
「コココココペケバっ! なんとかしなさいよっ」
「困ったら俺に頼るのは止めろっ」
「うるさいわねっ! あんた主人なんでしょ、なんとかしなさいよなんとかしなさいよっ」
「さっきは自分のことを主人の主人だって言ってたじゃないか」
「高貴な人間は、下賤なメイドの管理なんかしないのよ! って来ちゃったじゃないいっ!」
「フンッ!!!」
マカマカはビックリするぐらいの跳躍を見せると、蹴りを一閃!
ゴワシャアアアアアッ!!!
「俺のねんどろいどがーーーっ!!」
卓上フィギュアを粉々に砕いてしまっていた!
「戦いなさいコペケバっ。守るべき人のために戦って死ぬのよっ!」
「それは少なくともお前じゃないっ!」
盾がわりの特典下敷きがベコベコに凹んでいくのを眺めながら、窮地に陥ったことを嘆いていた。
「覚悟ぉぉぉっ!」
絶対防衛線を遂に突破した、マカマカが迫る!
「な、ななななによっ! やられっぱなしだと思っているんじゃないわよっ」
「ギャーッ! こいつ噛みやがった!!」
「ふっひほっほへふへるんはないはよっ!!」(訳:ちょっとほっぺたつねるんじゃないわよっ!!)
「ほまえなんかほふきにほれはふへふほほなんらはらなっ!!」(訳:お前なんか本気になればひとひねりなんだからなっ)
お互いにほっぺたをつねりあいながら、転がりあう。
もはや収拾不可能だった。
事態を解決するには、方法はただひとつ。
……彼女を呼ぶしかない!
「シグマーッ! た、助けてくれええええっ!!」
しゅごおおおおおおー……
「反抗、確認」
ワンコール、お待たせしません!
鋼鉄の天使は、バーニアを吹かせながら、我が家に舞い降りていた。
「鎮圧を開始……します?」
ところが自慢の主兵装、2mmチェーンガンを問題児たちに突きつけたまま、戸惑っているような表情。
もっとも二人ともピタリとその動きを止めているから、抑止力は充分なのだが……
「あの、彼方様」
「え?」
「この場合……どちらが協定違反となるのでしょうか?」
取っ組み合っているチビ二人。
確かに、どちらかが一方的に攻撃しているという状況ではなかった。
「そんなのこの暴力女に決まってるじゃないっ! さっさとその鉛玉ブチ込みなさいよっ!」
マカマカに一票。
「なっ……あたしに銃口向けるなっ。ちょっかいかけてきたのはこいつだぞっ」
ワーニャに一票。
「じゃあ……彼方様はどうお考えですか」
右へ左へ巡る銃口。
最後は、俺にお鉢が回ってきていた。
「うーん……」
じっと二人を見つめてみる。
「ワーニャかなぁ」
「な、な、な、なっ……」
「協定違反を確認。拘束します」
「コココココペケバッ!!! あんた奴隷の分際でこのわたしに刃向かうとはどういう了見なのいいからいますぐ訂正しなさいよぉぉぉぉぉっ!!!!」
「ショックテイザー発射、無力化します」
「みゃあああああああああああああっ!!!!!」
バリバリと電流を流される様を見つめながら、民主的多数決の恐ろしさを痛感していた。
☆

「ぎゃははははははははっ!!!!!」
メイド喫茶『しぐまいむ』。立て看板には今日も可愛らしい顔文字が踊っている。
『日に日に寒さが増す今日この頃、いかがお過ごしですか?(>_<)
最近協定違反のいけない人がめっきり増えてきました。
懲罰奉仕強化週間として、バンバン取り締まっちゃいますっ!(^o^)/~~~』
顔文字で一応オブラートに包んだつもりなんだろうか……
ともあれ、ここに新たな犠牲者がまた一人。
「うーっ! うーうーうーっ!!」
じっと自分の格好を眺めながら、声にならない言葉を吐き出していた。
「なんでこのわたしが、こんなみっともない格好をしなくちゃいけないのよっ!」
「プーーーーーーッ!!! ぎゃはははははは!!!」
「いや、マカマカ。ちょっと笑いすぎだから」
「だってだって、ワーニャがメイドーーーっ! ひー、ひーっ!!」
腹を抱えて大笑いしている、ちょっと先輩メイド。
そして、マイムがそっとリボンを結んでいる、新入りメイド。
「あ、あ、あんた……わたしにこんなことして、ただで済むと思ってないでしょうねっ」
たおやかな表情を浮かべるメイド長に、涙目を向けていた。
「このわたしを誰だと思ってるのっ! タウル・ゾビスを統べる運命の王女にして、偉大なるプリンセス・ワーニャなのよっ!!」
「ですが、いまはいちメイドです」
にっこりとした、けれども有無を言わせぬ笑みで受け流していた。
「いいですか、ワーニャ様」
恥ずかしさと悔しさに、プルプルと震えているフリフリエプロン姿。
仕上げとばかりにきゅっとリボンを結びながら、マイムは非情な一言を突きつけるのだった。
「あなたに、彼方様への懲罰奉仕を命じちゃいます!」
〜つづく〜
文・丘野塔也(ビジュアルアーツ・Frill)
イラスト・らっこ(HOOK)
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