2008年01月27日
【せなか企画】 せな★せな 6−3話 「お帰りなさいませ、ご主人さまっ(はぁと)」
せな★せな 6−3話
「お帰りなさいませ、ご主人さまっ(はぁと)」
「まったく、冗談じゃないわよっ」
俺の部屋、机の上にはホウキを片手に、プリプリと怒っている姿がひとつ。
「ああ? それはあたしの台詞だっつーのっ」
…いや、ふたつ。
これが作り物のフィギュアなんだったら友人にでも見せびらかして嫉妬と羨望の眼差しを浴びるところなのだが…
残念ながら、みんな生物なのだ。
しかも揃いも揃って歪んだ性格をしている上、特にワガママで傍若無人な奴らがここにはいる。
「なによあんたが悪いんでしょっ。頭が高いのよ、ひれ伏して許しを請いなさいよっ」
「お断りだっ。お前がちょっかいかけてきたのが悪いんだろっ」
なぜか、俺のメイドとして…
「むっきーっ! 謝りなさいよ、謝りなさいっ!」
「わっ! なんだこいつ、やんのかチビ助っ」
さっきから掃除そっちのけで、ポカポカと相方の胸を叩いている。
「チビ助って言うなーっ! そのことも、また別個に誠意を込めて謝んなさいよぉっ」
「さっきから痛ってーなっ! この野郎、相手してやろーじゃねえかっ!」
「やってみなさいよ、やってみなさいよぉぉっ。この聡明で美しく支持率もうなぎ登りで止まることを知らないワーニャ姫を相手にして、臣民が黙っていると思うのっ」
いや、フツーにもの凄く低そうなんだが。
「社会の怒りを思い知るがいいわっ」
「だったらそいつであたしを倒してみやがれっ」
「来るんじゃないわよーっ、圧政に抑圧されたルサンチマンが爆発するんだからね!!」
その衝動はむしろワーニャ本人に向けられるのではないかと思うのだが、それは置いておいて。
「…あのさ、お前ら」
ネコパンチを繰り出しながら後ずさっているワーニャ。
握りこぶしを震わせながら、いまにも爆発しそうになっているマカマカ。
とにかく、二人を諫めるようにして声をかけた。
「な、なによっ。そうだ思い出した、元はと言えばあんたが裏切るからじゃないっ」
「そうかっ、お前が大人しく首ちょんぱされていればこんなことにはっ!」
余計うるさくなっていた。
いやまあ、すべて自業自得だと思うんだが…
「いいから二人とも。諦めて、大人しくメイドの仕事に専念したほうがいいんじゃないのか?」
ビシッと指を突きつけて言ってやる。
「お前たちがなにかする度に、事態はより悪い方向へ向かっているんだぞっ!」
「ううっ…」
「ぐぅっ…」
反論できない様子で、そろって言葉を詰まらせていた。
「そ、そりゃあ、わたしだってこんなこと早く辞めたいわっ! 恥辱の極みとはこのことよ!!」
「あたしだってそうだっ。また元通りティティを可愛がりたいさっ」
そうだろう、そうだろうとも。
「またプリンを胃の限界まで詰め込んで、もう身体かプリンか分からなくなっちゃって、むしろ割合的にはプリンのほうが多い?みたいな日々に戻れればいいのに〜」
「ティティの、可愛い可愛い妹の、その未発達な×っ××や、まだ薄い××××を優しーく愛でて、幼い顔が恥ずかしそうに赤らんでいる姿を眺めていられる、そんな日々に戻れればいいのに〜」
いや、それはお前たちの妄想だから。
「と、とにかく、そのためには奉仕を滞りなく終わらせる必要があるわけだ」
「む、むぅ…」
「そんなの分かってるよ。現にやってるだろ?」
「いや、全然まったく出来ていないと思うんだが…」
さておきとっととこの危険因子二名とさよならしないと、どんな騒動に巻き込まれるか分かったものじゃない。
「いや、もうちょっと真面目に乗り切ることを考えよう。俺も協力するから」
「…まぁ、そこまで言うなら、やってやるか。気乗りはしないけどさ」
「フン、コペケバ、なんとならなかったら承知しないんだからねっ」
すごく素直ではない答えが返ってきたが、まぁ良しとしておこう。
「しかし、いったいなにをしたら免除になるんだろうな…」
よく考えると、その辺りのことはハッキリしない。
一度確認しておいたほうがいいだろう。
「おーい、シグマー、マイムーっ!」
とりあえず声を張り上げてみる。
この部屋が監視されているとしたら、きっとこれで駆けつけてくれるはずだ。
我ながら出不精だなぁと思っていたら、突然テレビが点いた。
「お呼びになりましたか、ご主人様っ」
「おわっ!」
…テレビに『しぐまいむ』が映っている。
画面にはマイムと、隅のほうに小さくシグマ。
「ほら、シグマ。恥ずかしがらないで出てらっしゃい。中継が繋がってますよ〜」
「ふるふるふる…」
マイムが呼びかけて、シグマが照れているように首を振るのもいつもどおり。
「って、なんで映ってるんだっ」
「懲罰奉仕モニタリングの一環として、相互通信できるようにしちゃいました」
俺の部屋、いったいどう改造されているんだろう……
もう突っ込む気力も起きないので、潔く受け流すことにした。
「あの、ちょっと聞きたいんだけどさ」
「はい、なんなりと」
「このチビ二人の奉仕って、具体的にどうさせりゃいいんだ?」
「なにをすればいい、というものではないんですよ。それでは本当に意味での奉仕にはなりません」
マイムは穏やかな表情を浮かべながら、ぎゅっと胸の上に手を押し当てる。
「大切なのは…ココロ、です」
「…だってさ」
「急所を狙うのは得意だぞ?」
「コペケバ、お腹減った」
…ダメだ。全然分かってない。
「い、いや、マイム。それは理解出来るんだけどさ…もっと具体的なアドバイスも欲しいなと思って」
「そうですね…メイドの基本的なお仕事は、三つです。お掃除、お洗濯、そしてお料理」
「なるほど、確かに基本だな」
「それをマスターしたならば、歌や踊り、ジャンケン大会やCDの販売も仕事内容に含まれるようになりますが…」
それは、本来のメイドの仕事を大きく逸脱していると思う。
「しかし、ワーニャ様とマカマカ様でしたら、まずは基本的な事柄を覚えるのが重要でしょう」
「なるほど、だいたいはわかったよ。ありがとう」
「はい、頑張ってくださいませ、ご主人様っ」
画面に『ただいま張り切ってご奉仕中ですっ! しぐまいむ』の文字が表示されるのを見て、二人に向き直った。
「さて、聞いたとおりだ」
「ティティ〜…いますぐ戻って抱きしめてやりたい〜」
「もうこの世のすべてがプリンで出来ていればいいのに〜」
「現実逃避してないで、人の話を聞けっ! メイドの基本の話だっ。掃除、洗濯、料理っ」
「掃除はやってるじゃねーかっ」
「そうよっ、キレイにする端からあんたが粘液をこぼして汚してるんじゃないっ」
「人聞きの悪いことを言うな。まぁ、百歩譲ってそれは良くて、だ」
チョコチョコッとモップとホウキを動かしただけだが、大目に見ていかないと話が進まない。
「あと二つっ! まずは洗濯だっ」
「なんなのよそれ。高貴なわたしには関係のない仕事ね」
「汚れた服をキレイにすることだよ…マカマカは知ってるよな?」
「ハッ、バカにするなよ。それぐらい分かってる」
「おおっ、じゃあ料理は?」
「むしろ得意だ」
従者に頼りっきりのお姫さまと、一匹狼の戦士の違いか。
マカマカは意外と見所があるのかもしれない。
「とにかくその辺をこなしつつ、メイドとしての実績を積むんだっ」
「よし分かった!」
ようやく一名は分かってくれたみたいだ。
よかった…と思っていると、なぜかマカマカは窓によじ登っていた。
「じゃっ、ちょっと行ってくる」
しゅたっと手を挙げると、そのまま外に出ようと…
「いやいやいやいやいや」
「わっ、なんだこいつ、離せっ」
「全然話を聞いてないだろっ。なんで出かけようとしてるんだっ」
「洗濯と料理をしてやろうとしてるんじゃないか!」
「どうやって! たとえば洗濯だ」
「そんなもの狩ってきて革をなめせば、ほら新しい服だ」
「りょ、料理は…」
「おまえは本当、バカだな」
呆れた様子で、深々とため息を吐かれてしまう。
「革があれば肉も手に入る! あとはこんがり焼けばいいだけだろっ」
「お、お前、まさかその獲物って…」
「ほら、毛の生えたのその辺にたくさん繋がれてるから」
「さわやかな笑顔で言うなぁぁぁぁっ」
「というかいい加減触手で縛るなっ」
カプッと指先に歯形をつけられる。
「ギャアアアッ! こいつ噛みやがった!!」
「怯んだところを、水月!」
「ゲホァッ…!!!」
みぞおちに鋭い蹴りを見舞ってから、しゅたっと畳に降り立つ。
「ったく、油断も隙もねーな」
こんなメイドさんはイヤだった。
「さーて、久しぶりに狩りまくってくるかぁ〜。そうだ、ティティのお土産にもしよう。大きいのを狙わなくちゃなー」
「う、ううう…」
ダメだ、このままでは大変な被害が出てしまう。
「コペケバ、なにか言いたそうね」
「シ、シグマを…シグマを助けに呼んでくれ…」
かすれる声で、それだけを頼む。
「イヤよ」
…あっさり断られていた。
「メイドロボ子の分際で、このわたしを拘束してイヤらしい服を着せるなんて無礼だわっ。誰がそんなことするものですかっ」
ああ…終わった。
ご近所のわんわんたち、不甲斐ない俺を許しておくれ…
………
……
…
「はっ…いかんっ!」
危うく意識が遠のくところだった。
このままでは溝口さん家のタロや、藤川さん家のボナパルトが犠牲になってしまうっ。
俺が、俺が命がけで守らなければっ…
「ま、待てぇっ…」
やる気満々に伸びをして、いままさに日本橋という名の狩り場に躍り出ようとするプレデター。
その背中に向かって、声を振り絞っていた。
「う…裏技があるんだっ!!!」
「…なにっ」
ぴくん、とマカマカの肩が跳ねる。
「ちょっとなによそれっ。なんだかとってもナイスな響きじゃないっ」
ワーニャも興味を持ったようで、目を輝かせている。この先天的お気楽星人め。
「マカマカっ。あんた料理なんてしている場合じゃないわよっ」
「お、おうっ」
二人とも、俺の前に歩み寄っていた。
「で、コペケバっ。なんなのよその裏技って」
「裏技というのは、正規ルートの影に隠された抜け道というかなんというか…」
「そんなことは分かってるのよっ。つまりこの境遇からすぐにでも抜け出せちゃうってことよねっ」
「そ、そんなおいしい話があるのかっ!」
「さっすがわたしの奴隷! 役にたつこともあるじゃない、コペケバっ!」
「てめぇ…もし嘘だったら承知しないからな」
「うう…」
ダメだ。
いまさら出任せでしたとは言えない雰囲気になっている。
ど、どんな風に答えを返せばいいんだ?
考えろ、考えるんだ…
「コペケバっ! 裏技ってなんなのか、ちゃっちゃと答えなさいよっ」
「もったいぶってんじゃねぇぞ、こらっ」
俺の答えは…
「…夜の、奉仕だ」
「…なっ」
ぴくり、とワーニャの顔が引きつる。
「な、ななななななななっ…」
そして、マカマカも同様に。
しまった、俺はフィギュアと見まごうばかりのチビッコ星人になにをっ…
「って、なんなのよそれ?」
「ああ、なんだそれ?」
…まったくもって分かっていなかった。
「い、いやっ…『しぐまいむ』で小耳に挟んだだけだからさ、俺もよくは知らないんだ」
とりあえず、すっとぼけて時間稼ぎを目論んでみる。
「待って。わたしも聞いたことがあるわ」
「ええええっ…。マジか、ワーニャ」
「夜の奉仕…それはメイドが主人自身に、秘やかに行うものらしい」
「ど、どこで知ったんだよ、そんなこと」
「深夜アニメでやってた」
「あ、そ…」
さもありなん。
「でもさ、じゃあいったいなにをやれっていうんだよ」
「はぁ〜、クス・クスの未開人はほんっとバカね」
「な、なにぃっ。じゃあお前には分かるのか!」
「あったり前でしょっ。メイドの基本はなに?」
「掃除、洗濯、料理だろ。さっきやろうとしてたじゃないか」
「つまり、このコペケバ自身を掃除して洗濯して、料理すればいいのよ!」
「ああん? うーん…まだよく分からないぞ」
俺だってよく理解できない。
まったくこいつはなにを言い出すことやら…
「どいつもこいつも物わかりが悪いわねっ! いい、掃除ってなに?」
ぺったんこな胸を精一杯反らせて、マカマカに問いかけていた。
「コペケバの触手が粘液を垂らして、辺りを汚すことだ」
「じゃあ洗濯は?」
「毛が生えたのの、皮を剥ぐことだ」
「それじゃ、料理は?」
「皮を剥いだあとの身を、すっぱり切り刻んで焼くことだ」
「コペケバ自身とは?」
「そんなの触手に決まってるだろ」
「いまは」
「夜だ!」
「おっ…おい、お前たち…」
ジロリ、と二人から視線を向けられる。
じっと睨んでくる瞳。たらりと、背中に冷たいものが流れたような気がした。
「マカマカ」
「ワーニャッ」
ぱしっと互いの手を叩いて、打ち鳴らす。
そして…気がつくと、眼前にマカマカがいた。
その手にはモップを持っており、俺に向かって大きく振りかぶっている…
「レバーっ!」
「はぐぅぁっ!!」
強烈な一撃を喰らってしまっていた。
「な…なにをっ…」
「コペケバ、悪く思わないことね」
朦朧とする意識。思わず膝をついてしまう。
「ううん、むしろこのプリンセスに対する崇高なる奉仕の精神、立派よっ」
「お、俺を…どうするつもりだ…」
「決まってるじゃない。夜のご奉仕をしてあげるわ」
「おいワーニャ! こいつの一番の触手ってどこだ?」
「そんなの決まってるじゃない。ここよっ!」
ビシッと指を突きつけられる。
そこはもちろん、俺の下腹部というか股間というか…
「ノナドポイアがあったら楽なんだけど、まあこれでいいか」
チキチキと破滅の音をたてて、カッターナイフの刃が伸ばされていく。
「まずは触手の皮をさっくりと剥げばいいんだな?」
「ちゃっちゃとやってちょうだい」
「タ、タンマっ…タンマっ…」
イヤだ。
こんな小人の手で、ひとつ上の男になるのはイヤだぁぁぁっ!!!
「フンッ!」
「うおおおおっ!!」
間一髪、転がってマカマカの一撃をかわす。
カッターの一撃は、俺のいた場所、その畳をすばっと切り裂いていた。
「はぁーっ、はぁーっ…マ、マジか…」
このままでは余りものを処分するどころか、本体までざっくりいかれかねない。
助けを、助けを呼ばなければっ…
「シ、シグマ…わぷっ!」
「そうはいかないんだから」
横たわっている俺。
その顔の上にのしかかられて、唇に張りつかれてしまう。
「観念して、このワーニャ姫と栄光のタウル・ゾビスのために、尊い犠牲になりなさいっ」
「どうせまた生えてくるんだから、いいだろ?」
「むぐーっ、むぐーっ!!」
メイド服を着た悪魔たちに取りつかれていた。
レバーブローのダメージが効いてきて、もはや抵抗することもできない。
「この布地の下だな? よーし、今度は外さないぞ」
下半身には、モゾモゾとした実にイヤな感触がある。
俺はこのまま、男としての一生を終えてしまうのか…
ほろり、と涙がこぼれる。
連れ添って二十年。辛いときも哀しいときも一緒だったね。
グッバイ、マイサン…フォーエバー、マイサン…
「待ちなさいっ!」
と、その時。
凛とした声が、辺りに響き渡っていた。
「悪の所行はそこまでです」
あ、あれはまさしく…
「か弱い触手を手込めにし、受け責め逆転、不埒で淫靡なわいせつ三昧…」
シ、シグマ? いや、違う…
「世間様は許しませんよっ」
「――クラヴィエ!」
喋れない俺に代わって、声をあげたのはワーニャだった。
つ、ついに下克上の瞬間を目の当たりにすることになるのか――?
「…というのは冗談です。お一人にして心配をおかけしました」
「クラヴィエー、みんながわたしのこと苛める〜」
と思ったら、いつも通りの対応だった。
「もう、どこ行ってたのよっ。クラヴィエがいない間に、酷い目にあったんだからっ」
パタパタと侍女の側に寄ると、その服をしっかりと握りしめていた。
「はいはい、私が来たからには、もう大丈夫ですよ」
「大丈夫って…どういうことだよ?」
マカマカも、その言葉に首をかしげていた。
「マイム様から事情を伺い、お話しさせていただきまして」
眼鏡を直しながら、涼しげな顔で言う。
「ワーニャ様ならびにマカマカ様の、懲罰奉仕を解いていただくことになりました」
「って、ことは…」
震える声で、俺も訊ねてみる。
「もう、メイドは卒業と言うことです」
「やっ…やったーっ! やったーーーっ!!! 聞いた、マカマカっ!」
「ああっ! やったな、あたしたちっ!」
キラキラ目を輝かせながら、お互いに抱きしめ合っている。
実際のところ何をやったというのかは謎なのだが…
ともあれ、よかった!
すっかり縮こまって震えている息子のことを感じながら、感慨に耽るのだった。
「はっ、もう触手なんてどうでもいいやっ」
「そんな粘液垂らすしか能のない器官なんて、放っておきなさい」
でも、そう言われると流石に傷つく…
☆
「ハァ〜、ようやく解放されるのか…」
廊下を四人で歩きながら、安堵の息をつく。
いや、もちろん前を歩く三人はフィギュア大なので、俺の足取りもひどくゆっくりしたものだった。
それでも、いまはそののんびりした歩調が心地よい。
身の危険を感じること幾度。デッドオアアライブな日々から抜けられるのだから…
「プリン〜」
「ティティ〜」
まあ、喜びに浸っているのは俺だけではないけれど…
「…ありがとう」
「なんのことでしょう、コペケバ様?」
「いや、あのタイミングで来てくれないと色々ピンチだったから」
「やはり、コペケバ様に何かあると困りますから」
眼鏡の奥、その瞳が柔和に笑う。
「世を儚んで旅にでも出てしまわれたら、このせなか荘の存続も危うくなりますし…」
「う…」
確かにこのアパートに住んでいる『人間』は俺一人。
彼女たちにとっては居心地のいい住処で、手放したくないのかもしれない。
「なんの話よ? コペケバとこのわたしの宇宙船は、なんの関係もないわよっ」
「ワーニャ様、『しぐまいむ』に着いたらデザートを振る舞いますよ」
「わぁいっ!」
ワーニャは真相に辿り着くことはなく、あっさりと誤魔化されていた。
「しかし、クラヴィエ。どうやってマイムを納得させたんだ?」
相手はあの頑固なメイドロボだ。
生半可な理由では、懲罰奉仕を解くなんてことしそうにないのだが…
「それはまあ、いろいろと大変でした。実はこっそり監視映像を覗いていたのですが…」
「えええっ」
「タウル・ゾビスの科学は偉大ですので」
じゃあ、全部見られていたわけか…
だからこそ、あのタイミングで駆けつけてくれたのだとも言えるが。
「やはり、ワーニャ様やマカマカ様があんな楽し――屈辱的行為を強いられているのは、胸が痛みまして」
「ん?」
空耳だろうか?
いま、なにかまったく意味の異なる言葉が聞こえてきたような…
やがて、一階大機関室こと管理人室の前までやってくる。
「…ですので、この身を犠牲に捧げても、ワーニャ様の御身を救いださねばと、取引をしたのです」
「ク、クラヴィエ…?」
少し赤らんだ頬。
そっと胸元に手をかけると、はらりと着衣が崩れる。
そこにあるのは、うなじの白。
そして、濃紺だった――。

『寒さなんて吹き飛ばせっ!(^-^)/
ただいま「スク水DAY」絶賛開催中!
「しぐまいむ」は夏の日のようにホットです〜。』
立て看板に踊るのは、いつもとは違う文句。
ワーニャはと言えば、ぽかーんとした様子で目を見開いていた。
新入りメイドのクオリティに満足しているのか、ニコニコと仏の笑顔を浮かべているマイム。
クラヴィエの言っていた取引。その意味するところを悟っていた。
その身体を犠牲に捧げて、主人の身を解放させる。
確かに尊い行いなのかもしれなかった。
きっとすべての責任は自分の監督責任であると、代わりに懲罰奉仕を受けると名乗り出たのだろう。
折しもスク水DAY。
ワーニャのようなちんちくりんや、マカマカみたいな男女では絵にならないというのは分かる。
やっぱり、クラヴィエのような礼儀正しい女性こそが、メイドとしては相応しいのだろう。
そう思ったからこそ、マイムもこの取引を受け入れたのではないだろうか。
それにしては、健気だっ…とはあんまり思わない。
だってクラヴィエの顔は、なんだかまんざらでもなさそうで…
むしろ、自分の立場を積極的に楽しんでいるような節すらあった。
「もしかして…一度やってみたかった?」
そんな俺に疑問に、クラヴィエはにっこりと笑みを返すのだった。
「お帰りなさいませ、ご主人さまっ(はぁと)」
〜つづく〜
文・丘野塔也(ビジュアルアーツ・Frill)
イラスト・らっこ(HOOK)
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