2008年02月10日
【せなか企画】 せな★せな 7−1話 「まずは脱いでください、話はそれからです」
せな★せな 7−1話
「まずは脱いでください、話はそれからです」
朝、カーテンの隙間から差し込む陽の光にやさしく起こされる。
…なんて頃が懐かしかった。
光が差し込んできたのは丸い穴。
昨夜の、無垢なる狂戦士vs不死身の昆虫戦士の結果だ。
直したばかりの壁や屋根はなんでも穴を空けるビームの跡や、生きてる剣の涙の跡でボロボロだった。
最初はちょとした節分の豆撒きから始まった戦いだったんだが、見る見るうちにヒートアップしていく。
そもそも俺達にとって小指の先ほどのサイズの豆も、チミっ子宇宙人達にしてみれば自分達の頭ほどもある硬い穀物。
そんな物のぶつけ合いなんだから、笑顔なんて最初の5分で消えた。
まぁ最後は歳の数だけの豆を食べたわけだが…。
はぁ〜安息なんて言葉が懐かしかった。
体型的にこっちの方が圧倒的に優位なんだから、一度本気で押さえつけてやろうかとも思った。
しかし、その時ちょうどワ○ダと巨像(2800円)をやっていたせいで嫌なビジョンしか思い浮かばず断念した。
まぁ、あいつらの戦闘力だからどうせ俺が負けるんだろうけど。ぶつけられた豆、めちゃくちゃ痛かったし。
「はぁ〜」
寝起きにため息なんて、一日が暗くなるだけだ。
チュンチュン、チュンチュン
遠くから雀の鳴き声がする。
少し心が癒されるような気が──…
チュンチュン…チュヂュビビ!
あれ…泣き声に変わった。
「朝飯とったぞーーーー!」
ああ、戦士の雄たけびが聞こえる。
このあたり一帯から野良猫が居なくなったが、次は鳥が寄り付かない地域になりそうだ。
首をぐるりと大きく回して気分を変える。
「おはようございます、ご主人さまっ」
ちょうど下を向いた時、視線の先にスク水を着て銀色のお盆を持ったクラヴィエがいた。
「…それ、気に入ったのか?」
「もう少し驚いていただけるかと思ったのですが残念です」
俺に何を期待していたんだろう。
ミニマムサイズがまったくもって残念なナイスバディを誇る侍女は愁いの表情を見せる。
「で、朝からなんだ。お前んとこのチビ姫は来てないはずだぞ」
「はい、存じております。実はその姫さまのことでご相談があったので参りました」
「暗殺の相談?」
「いえ、それは追々ということで」
あ、こいつ否定しないでやんの。
俺の半眼を気にもせず、クラヴィエは続ける。
「口で説明するより見ていただいた方が早いと思いますので、一緒に来ていただけますか」
言うだけ言って、俺の返事を待たずにドアの方へと歩き出すクラヴィエ。
つまり、それだけ何か急を要するようなことということだろうか。
俺は布団から出ると、体を伸ばしながらクラヴィエの後について歩く。
古い木造の廊下はギギシギギシと嫌な足音を響かせる。
案内された場所は一階管理人室だった場所、「メイド喫茶しぐまいむ」だった。
「どうぞ」
クラヴィエはやや神妙な面持ちで俺を中へ勧める。
もう見慣れた店内。特に変わったことは…。
「…あった」
入り口の真正面のテーブルにいるのはタウル・ゾビスの姫、ワーニャ。
そしてそれの対面に座っているのもタウル・ゾビスの姫、ワーニャ。
チビ姫が二人いる。
「なんだこりゃ」
俺はクラヴィエに訊く。
「見ての通りです。姫さまが増えました」
「ふーん…なに、お前らって時期が来ると分裂でもするのか」
「残念ながらそのような便利な性質は持ち合わせてはおりません」
「じゃあなんで増えてるんだ?」
「この星の病気かと思ったのですが、違うようですね」
ふぅ、とため息を吐きながら頭を横に振るクラヴィエ。
少し離れたところでティティが目をハートにさせながら荒い息でワーニャを見ていた。
その目は恋する乙女ではなく、獲物を狙う肉食獣。
好物が増えたことに対して、喜びを抑え切れていない子供のようだった。
「あんたなんなのよ! なんでわたしと同じ格好をしてるの! 不敬罪で太陽の見えない牢屋に泣くまで閉じこめるわよ!」
ワーニャがバン!と机を叩き吼えた。
もう一人のワーニャは目を閉じながらそのセリフを静かに受け止めると、ゆっくりと口を開いた。
「わたしはワーニャ・ド・フラゴラセリ・ピタ・メルクール・ノバ・ゾビス。タウル・ゾビスの王位継承者です。あなたこそ何者ですか」
それは穏やかな、それでいて荘厳な語りだった。
王族の気品とても呼べば良いのだろうか、後から口を開いたワーニャからは上に立つ者のオーラがにじみ出ていた。
「な、なに言ってんのよ! ワーニャ・ド・フラゴラセリ・ピタ・メルクール・ノベェ……ノ、ノバ・ゾビスはこのわたしよ!」
「今噛んだな」
「ええ、噛みました」
「噛んでないわよ! ちょっと舌が歯に当たっただけよ! い、痛くないんだからっ!」
俺とクラヴィエに間髪入れぬツッコミが入る。
涙目なあたり、かなり本気で噛んだようだ。
「魔王さまがお二人になってしまいました。わたくしはどちらの魔王さまにこの身をささげればよろしいのでしょうか」
とうとう我慢の限界がきたらしくティティが顔をだらしなく崩しながら二人のワーニャのいるテーブルに突っ込む。
「ああ、近くで見れば見るほど全くそっくりの魔王さま。この際、魔王さまが増えてしまってもかまいません! いっそその4本の御手で、わたくしをむさぼって下さいまし!」
「ちょっ! あんたいきなりなにするのよ! ひぃやああああっ! どこ触ってるのよおおお!! いぃやあああああ!」
「あ、愛するべきは民。んっ、民無き王に如何ほどの価値が…はっ、ぁ、ありましょう。あなたが求めるならわたしは…んっ…最大限それに応えます…」
ティティの両手がそれぞれのワーニャを捕らえまさぐる。
片方は大騒ぎ。もう片方はおとなしく、でも頬を赤く染めながら巫女の指技を受け止めている。
「クラヴィエ…どうしよう、おとなしい方のワーニャに萌えそうなんだが」
「大丈夫です、あなたは十分病んでいますから」
「スク水着てる侍女に言われたくないな」
「そうですか。それでは」
クラヴィエは左手にはめているワンボタンデバイス『トボス・タタン』を押す。
一瞬だけクラヴィエが光った。
そして次の瞬間、そこにはいつものスーツスタイルの侍女が居た。
「………」
「どうしました?」
「今のは変身だよな。だったらなんでこうクルクル回りながら一旦真っ裸になって、星とかリボンとかで大事なところが見えないようなエフェクトにならないんだ? いろいろ間違ってるだろ! とりあえず俺に謝れ!」
「この星の文化にそういう着替えの仕方があることは一情報として認識していますが、あれは動きに余計なものが多すぎて、無駄と判断しました。戦闘の最中にあのような隙を作るのは愚の骨頂です」
「無駄っていうなああああ! 変身シーンのない変身ヒロインモノなんて醤油のない卵かけご飯と一緒だぞっ! セーラー服着て月に変わってお仕置きする少女漫画を陰で支えていたのは男だということを忘れるなぁ! 皆に謝れぇ!」
「陰という風には見えませんでしたが、一つの形式美ということで認識を変えておきます」
「次から気をつけてくれよ。じゃないと大きな子供達のスロー再生の楽しみがなくなる」
俺は腕を組み深い息を吐いてひとまず締める。
「わかりましたよ。ワーニャお嬢さまが増えたわけが」
部屋の奥、シグマイムの厨房からそう言って姿を見せたのはこの店のオーナーであるメイドロイドのマイムだった。
その後ろからは無垢なる狂戦士こと戦闘ドロイドのシグマが付いて歩く。
「あ、彼方さま、おはようございます」
「ああ、おはよう。で、わかったってなんだったんだ?」
「はい、ワーニャお嬢さまですが、片方は偽者なんです」
「なるほど、どっちかが偽者か」
「それには気づきませんでした」
「あんた達の頭は何が詰まってるのよ! ちょっと考えたらわかるでしょ! 脳味噌の変わりにプリンでも詰まってるんじゃないの?! おいしそうじゃない!」
とりあえず、この口うるさく叫ぶのをワーニャAとして…。
「わたしの身に突然このようなことが起こったことで、要らぬ混乱と心配をかけたこと、心からお詫びいたします」
王たる資質を見せ付けるこっちをワーニャBとしておこう。
「このワーニャさまのどちらかは、『宇宙植物ガンゲ・ル・ペッド』だと思います」
「なんだそれは?」
「擬態能力に長けた植物で、原産星は砂と氷だらけの過酷な星です。ガンゲ・ル・ベッドは生き残るために、遺伝子情報を採取してより強いものに擬態していきます。おそらく宇宙船のどこかに種子がくっ付いていて、ワーニャお嬢さまに擬態したんだと思います」
「なるほど、でなにか害とかはあるのか?」
「特にありませんが、同じ人が二人いるということが問題といえば問題かもしれません」
「その通りです。王位継承権をもっている姫さまが増えるとなるとこれは由々しき事態です」
そう言って一歩前に出たのはクラヴィエだった。
「とりあえず、偽者は排除しましょう」
眼鏡のフレームを右手の中指で軽く押してレンズをギラリを光らせる。
「なるほど、小さい頃からワーニャを見ているクラヴィエなら本物を見分けることくらい朝飯前だな」
「いえ、ここまでそっくりではむづかしいですね」
クラヴィエは眉に力を込めながら唸る。
「何言ってんのよ! わたしが本物よ! こんな偽者さっさと●●して燃えるゴミに出しなさい! わたしはおなかが空いているのよ!」
「クラヴィエ、いつもわたしの為にありがとう。良き家臣に恵まれることこそ、良き王となる条件だと思っています」
まぁぶっちゃけ傍から聞いていればどっちが偽者かわかるんだが…。
「ふさわしい方が本物ってことでいいんじゃないか? 見た目同じならいいだろ」
俺はチビ姫×2を順番に見ると質問した。
「問題だ。民が貧困にあえいでいます、王としてとる行動は?」
片方は怪訝そうな顔をしてこう言った。
「何言ってるのよ。お菓子が無ければパンを食べれば良いじゃない」
お前の主食はお菓子か。残る一人は強い光を目に携えてこう言った。
「まずは税の徴収を一時的にやめて様子を見ます。その後改善しないようでしたら、城の地下に貯蔵している穀物を労働の報酬という形をとって配給していきます」 おお、すごい。ただ食べ物を渡すだけではなく、互いに義務を生じさせている。
未来を見据えた王の言葉だ。
「今の方が本物ってことでいいんじゃないのか?」
「いえ、口と頭の悪いワーニャさまが本物であるいう確証はありません。もしかすると、中身までそっくりに擬態して、本物の方の性格を何かしらの方法で変えてしまい、ゆくゆくはその地位を奪い取るのかもしれませんし」
そう言いながら、クラヴィエはあくまで真面目な顔でワーニャ×2を見ている。
「そんなことがあるのか?」
クラヴィエの仮説をマイムに訊いてみる。
「ガンゲ・ル・ベッドにも様々な亜種がありますので、中にはそうい過激な種があっても不思議じゃないですね」
マイムがそういうなら少しは慎重になった方がいいのかもしれない。
クラヴィエもそのことをわかっていたんだろう、なんだかんだ言ってもチビ姫の侍女のようだ。
自分が守るべき人を知っている。
「偽者が植物というのでしたら、強力な除草剤を打ちましょう」
いつの間にかその手には一本の注射器があった。
「ひっ!」
二人のワーニャが短い悲鳴をあげてあとずさる。
「クラヴィエ、その除草剤は人体に無害なのか」
「試したことがありませんのでわかりません。きっと大丈夫です」
「その根拠は」
「除草剤は草を除くための薬ですから」
眼鏡のレンズが反射して、瞳の色は見えないが、きっと本気の色をしているに違いない。
「倒れたほうが宇宙植物ということになります。ではさっそく試しましょうか、うまくいけば一回で終わります」
いや、先着一名がもれなく倒れるので、うまくいかなくても一回で終わるに違いない。
「ク、クラヴィエやめなさいっ! こ、こここれは命令よ! その注射器を捨てなさい!」
「クラヴィエ、植物も生きているんです。不要な殺生をしてはいけません」
さすがに二人とも身の危険を感じていた。
注射器を目の高さで構えながらにじり寄るクラヴィエ。
「シグマさん、どちらでもいいので押さえて下さい。あ、できれば口の悪い方の姫さまでお願いします」
「…りょうかい」
せなか荘最強のユニットが静かに動く。
「いーやあああああ! はなせぇロボ子ーーー! 注射はいやぁぁぁ! 痛いのいやああぁぁぁ!」
きっと痛いじゃすまない。その注射は。
「大丈夫です、痛いのは最初だけですから。すぐに楽になれますよ」
クラヴィエはクラヴィエで確信犯だ。もうヤル気まんまん。
しかしここで救いの手が挙がった。
「ここわたしにお任せください!」
生贄の少女、ティティだった。
「僭越ながら、わたしなら魔王さまを見極めることが可能です」
強い意志をもった言葉にクラヴィエも手を止める。
皆がティティを見ていた。
「どうやって?」
俺が訊くと、ティティは顔を赤くしながら体をクネクネさせて言った。
「魔王様の身体はわたしが一番知っています、それはもうすみずみまで!」
実に納得のいく言葉だった。クラヴィエもマイムもうなずいている。
シグマだけが不思議そうな顔で首をかしげていた。
「つまりどうすれば良いんだ」
「まずは脱いでください、話はそれからです」
「でも見た目は全く同じだってマイムが言ってただろ」
「大丈夫です。触った時の反応や、撫でた時の声、▼れたの吐息までは同じだとは思えません」
顔こそ真面目だが、目はもう血走っている。
「さあ魔王さま、こちらへ来てください。二人同時でもわたしはOKです」
「…ではわたしから参りましょう」
ティティの方へ一歩踏み出したのはワーニャB。
マントを外し、身に着けている服を一枚一枚脱いでいく。
身体の凹凸は乏しく、それほど迫るものはない…はずだった。
「ん…はぁ…」
なのに、ワーニャBのしぐさ…。どこか気品のある物腰と、服を脱ぐたびに見せる愁いに似た表情が胸を打った。
俺だけじゃなく、みんなが見とれていた。
「ちょっ! ちょっと! 何見てるのよ! これはわたしの裸よ! 勝手に見ないでよ! あんたも気安く脱がないでよ!」
「しかし、求められましたから」
「求められたから応えてどうするのよおぉ!」
顔を真っ赤にさせて叫ぶワーニャA。

しかしこの一連の流れは、ワーニャ姫という素材の可能性を大いに知らしめる事となった。
そしてもう我慢の限界にきたのはティティ。
「さささ、さあ魔王さま、あちらへ行きましょう。今日はわたしがたっぷりご奉仕しちゃいますー(はぁと)」
まだ服を脱ぎかけだったワーニャBの手を引き、物陰へと連れ込んでしまった。
「あ…すごい…魔王さま綺麗…それにこんなにやわらかくて…」
ああ、始まった。
しかもいつものような悲鳴が聞こえてこない分、部屋の中がピンクな空間になっていく。
どことなく気まずい。
「わたしの身体に何をする気よ!」
一瞬呆けていたワーニャAは、慌ててティティの後を追い、物陰へと飛び込む。
「ふふ、魔王さま…どうしたんですかぁ、見られていて感じているんですか? ここ、さっきよりすごくなってますよ」
ワーニャAはギャラリーにされてしまっていた。
少しして肩をがっくり落として物陰から返ってくる。
「わわ…わたし…いつもあんなことされてたの…?」
いつも口やかましいチビッコは涙目だった。
自分の姿を、しかも濡れ場を客観的に見たことがかなりショックだったらしい。
それからやく30分ほど、怪しい吐息の応酬が繰り広げられた
なんとも気まずい時間だった。
やがて、物陰からティティが姿を現す。
満足そうに頬を赤く染めながら、クス・クスの巫女装束の襟元を正している。
皆が注目していた。
「…で、どうだったんだ? 今のワーニャは本物か? 偽者か?」
俺の問いにティティは目を潤ませて言った。
「あっちの魔王さまが本物でいいです」
「本物でいいですってどういうことよぉぉぉぉぉ!」
ワーニャBが叫ぶと、ティティは首を照れたように振りながら言葉を続けた。
「だってあちらの魔王さまはとても可愛いし、それでいて受け上手で…ポッ…」
「キィーーー! こうなったら直接対決よ! あの偽者をとっちめてやるんだからっ!」
ワーニャAは物陰からまだ出てこないワーニャBの元へ走った。
「さて、困りましたね」
「困っちゃいましたね」
クラヴィエとマイムは、あまり困ったようには思えない表情でそう言った。
俺自身、家が壊されたり己の身に直接被害が来ていないので、それほど重要視していない。
むしろこの程度のトラブルは平和な方だ。
「きゃああああああああああああああああああああああ!」
物陰から悲鳴があがった。
そして飛び出してくるワーニャ。
「姫さま、どうしました」
クラヴィエがトボス・タタンに指を添えながら、ワーニャの元へ駆けつける。
四つんばいになりながらこっちに逃げてくるワーニャ。その後を追うように人影が一つ現れた。
それは全ての悟りを開いたかのような、虚ろげな笑顔を携えていた。
『彼女』は恭しく頭を下げながら、まるで囁きのような、でもしっかりと耳に残る声で言う。
「魔王さま、わたくしの運命を司るお方よ。全てはあなた様の御心のままに」
皆が息を飲んだ。
そこにいた二人目のクス・クスの巫女、ティティだった。
〜つづく〜
文・魁(ビジュアルアーツ・mana)
イラスト・いとうのいぢ
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