2008年04月13日
【せなか企画】 せな★せな 8−1話 「これからのゲームに必要なのは臨場感よ!」
せな★せな 8−1話
「これからのゲームに必要なのは臨場感よ!」
大学から帰ったら、アパートの部屋からなにやら音が漏れていた。
テレビがつけっぱなしになっているらしい。しかもかなりの大音量。甲高い歓声というか、あからさまにタカビーな罵声も時々聞こえてくる。
「……またあいつらかよ」
慣れっこではあるが、正直かーなりアレな気持ちになる。
チビ姫ことワーニャ・ドなんとか(長ったらしいのでいまだに覚えられない)とその侍従クラヴィエが、ここ、大阪日本橋はせなか荘に住み着いてから早ウンヶ月。
地球人の想像を絶する科学力により、勝手に俺の冷蔵庫を開け、気の弱い女の子からくすねたプリンを勝手に冷やしておくのが常のワーニャ姫だが、最近はいろいろ小技も覚えてきて、俺の部屋にある電化製品を勝手にいじっては、俺に怒られている。でも懲りない。なぜならやんごとない身分だから(自称)。
電気代もったいないからやめてくれよと思いつつ戸を開けると──
そこは戦場だった。
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テレビゲームを楽しむワーニャ姫&クラヴィエの図。コントローラーとの大きさの兼ね合い上、必然的にプレイスタイルはDDR状態。当然全部の操作ができるはずもなく、皺寄せは全部侍従に行く仕組み。ていうか、俺のゲーム機勝手に使うなっての。
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「右よ右っ、ザッパーよザッパー、まとめてやっつけるのよっ! ほらそこっ! やったあっ!!」
ちゃぶ台の上に安置されたP$2のコントローラー、その上でチビ姫がタップダンスを踊っている……わけではなく、足でボタンを押しまくり、レバーをぐりぐり動かしまくっている。
なにせ身長10センチ強だから、ゲームするのも全身運動だ。
L1やらL2やらアナログスティックやら○△□×ボタンやら、各所にたくさんついているボタン類を一人で全部さばけるはずもなく……
「クラヴィエ遅いわよっ! ほら今度は左っ! ああもうっ、もうちょっとだったのに〜」
「……あの、姫さま、ここらでひとつ休憩を……」
「あっ、ワラワラ出てきた。一気にやるわよクラヴィエっ!!」
「ひいいいいいっ!」
侍従まで投入してのコンビネーションプレイ。
早い話、東京フレンドパーク状態。
プレイ中のゲームはといえば、この前サークルの後輩が貸してくれたやつだ。面白いことは面白いけど、ノリがあまりにアレだったので、俺には合わなかった。
でも、宇宙から来たチビ姫にはばっちりドツボだったようだ。
どんなゲームかっていうと……
「わたしは無敵の宇宙人よっ! 我が星の科学力を持ってすれば、あんたたちみたいな原始的で非力な軍隊など物の数ではないわっ! 我が巨大円盤でぐちょぐちょあへあへに蹂躙凌辱してやるんだからっ! ついでにホワイトハウスもハリウッドも一撃でぶっつぶしてやるわっ! そして牽引ビームで意味もなく牛を拉致るのよっ! おろかな地球人類をみーんなまとめて皆殺しにしてエンドルフィン(ゲーム内ポイント:単位はmg)を集めまくってやるのよっ! おーっほっほっほっほっほっほっっ!!」
……プレイヤー独自の誇張と妄想もかーなり混ざっているが、だいたいこんな感じのやつだ。
それはそれとして、地球人類として大変にムカついたので、謹んで背後から蹴りをくれてやることにした。
「いいかげんにしろっ!」
がいんっ!
「にゃああああああっ!」
ごろごろごろごろごろごろっ!
ものすごい勢いで吹っ飛んで畳を転がっていき、ばちゃーんと壁に衝突した悪の宇宙人。
「ふにゅ〜」
こいつとの腐れ縁もこれでゲームオーバーにできればどれほどいいかと思う。
クラヴィエはといえば、コントローラーに倒れかかるようにへろへろと腰を落とした。
「邪智暴虐な関■宏大帝の陰湿な嗜虐心を満足させんがためだけに催された地獄の公開闘技にも束の間の安らぎが……」
あまりの疲労困憊ぶりに、自慢の翻訳装置もなにやらおかしなことになっている。関■宏関係ないし。
まあ、チビ姫が押したいボタンだけテキトーに押して、その他全部を担当させられれば、そりゃあ死にそうにもなるわと思うけど。
対する姫は、まだまだ元気なものだ。
「……ぷっ、プレイ中になにすんのよおおっ!」
「よく転がるなあ、おまえ」
「あーもうあんたのおかげでまたやられちゃったじゃないっ!!」
画面上でばたんきゅーとなった自キャラを指さし、いつもの調子で猛抗議してくる。
その襟首をふん捕まえて持ち上げ、俺はすうっと深呼吸。で、
「オールドスタイルのデカ眼灰色宇宙人がアメリカの片田舎を侵略しにくるようなダメゲームを本物の宇宙人が嬉々としてやるなっ! しかも俺のアパートで! 俺の部屋で! 俺のゲーム機で! 俺のテレビで! 俺の電気代でっ!」
「だあああっ耳元でうるさいわよこの下等生物め下等生物め下等生物め下等生物め下等生物めっ!!」
なんだかもう、速攻でいつものパターンになってきた。
見るからにアレゲなフィギュアちっく宇宙人バカ姫相手にマジで口論するほど、人として不毛なことはない。
その辺の畳にテキトーに放って、肩からかけっぱなしだったバッグを下ろした。冷蔵庫からペットボトル入り緑茶を出して、テキトーに飲む。気が休まらないったらありゃしないぞ。
「だいたいこのゲーム、難易度高すぎるのよ!」
まだぶつぶつ言ってるし。
「俺に言ってもどうにもならないからな。もともとおまえら向けのゲームじゃないんだから、サイズ的に言っても」
「そうです姫さま、やはりコントローラーの大きさにいささか問題があるかと」
ここぞとばかりにクラヴィエも同意する。
「さあクラヴィエ、ちゃっちゃと再挑戦するわよっ!」
もちろん姫は聞いちゃいないけど。
ゴキブリ的敏捷さでちゃぶ台によじ登ると、おみ足でボタンを一蹴り、場面を選択する。
映画館サイズのスクリーンをきっと睨み付け、早速の前口上。
「さあっ、わたしは無敵の宇宙人よ! 我が星の科学力(以下略)……」
「ああああっ、お待ちください姫さま、しばし、しばしお待ちをっ!」
このままでは過労死すると思ったのだろう、クラヴィエがすかさず足にしがみつく。
「どうかここはひとつ、何もおっしゃらずにこのクラヴィエにお任せくださいませ。姫さまのゲーム環境をよりマルチメディアかつインタラクティブにして差し上げますっ」
失敗した次世代ゲーム機の宣伝文句のようなセリフを吐きつつ、例によって腰の辺りに手を回す。
「ぢょんっ!!」
聞いたような口真似サウンドロゴと共に取り出されたのは……
「いつものアレ〜」
まあ、お決まりのワンボタンデバイスなわけだけど。
「このクールでイカした超小型ハイパーテクノロジーコントローラーさえあれば……」
「おらおら早くやられろ〜」
「ちょっとコペケバ! 勝手に変なボタン押さないでよっ! メチャメチャむずかしくなっちゃうじゃないのよっ!」
「お、それでもけっこう頑張ってるな。じゃあこれならどうだ、うりうりっ」
「あっだめっ、やられちゃうっ!」
「ひっひっひっ、どこまで耐えられるかな〜」
「そんなっ、いやあっ、らめえええええええええっ!」
「なんだかんだで仲睦まじくアベックプレイしてないで人の話を聞きなさいっっっ!!」
大変珍しいクラヴィエの絶叫というか罵倒に、ようやく我に返った俺、とチビ姫。
「……つーか、クラヴィエのキャラ変わってないか?」
「こんなに怒ったクラヴィエなんて、前にちょっと口が滑って『メガネ男子のよさなんてさっぱりわからない』って言っちゃった時以来だわ」
「それは絶対怒りそうだな」
「しかも蛇のように執念深く根に持つし〜」
「……こほん」
殺気のこもった咳払いに慌てて黙る両名。
「ともあれこの万能デバイス、トボス・タタンさえあれば、デュアルショックだろうがガンコンだろうがマスコンだろうがネジコンだろうがステアリングだろうが操縦桿だろうがギターコントローラーだろうが太鼓コントローラーだろうが釣りコントローラーだろうがヌンチャクコントローラーだろうが鉄騎コ○トローラーだろうがファミリー○ーシックだろうがファミリー○ンピュータロボットだろうが、すべての操作をボタンひとつに集約できるのですっ!」
……いや、集約してもらってもなあ。
「つーか、どう考えても無理なのがあるっていうか、そもそもP$2対応機器じゃないのまであったぞ?」
「台○直輸入デバイスなのでフリーダムなクロスプラットフォーム化はお約束です」
「例えばファ○リーベーシックはどうやって入力する気だよ? ボタンひとつで」
「モールス信号機の要領で0010110と……」
「いきなり2進でマシン語入力かよっ!」
「愚かで高慢なチビ助ゲーマーのためにこのわたしがひどい目に遭わないのであれば、多少の操作性は犠牲にするというのが基本的な設計思想なのですっ!」
「本音がいい感じでだだ漏れになってるぞ」
それ以前に、なんでコアレトロゲーマーな会話になってるのかがアレだけど。
当然のことながら、姫の食付きも悪い。
「だいたい、苦労してやるからこそのゲームなんじゃない」
「お、珍しくまともなこと言ったな」
さっきと言ってることが180度違う気もするが、ニワトリにも満たない超軽量脳なので軽くスルーしてやる。
「『王族たるもの、若い頃の苦労は買ってでもしろ』ってよくお父さまに言われたものよ」
「姫が買った苦労を全部持たされるのはそっちの家来なわけだけどな」
「わっ、わたしが実演しますのでどうかどうかご検討のほどをっ」
形勢不利と見て、自らボタンに手を掛けるクラヴィエ。侍従必死だな、プ。
「ガ◎ダムファイトォォォォォレディーィィィィィィィィィゴォォォォォォっ!!!」
「それ違うゲームだから」
「ポチっとな」
結局それしかないであろうセリフと共に押し込まれるボタン。
ゲーム画面がぶわんと歪み、新たな場面が現れた。
ス△エニもかくやという超美麗なCGで描き出された、禿頭の中年親父。
呆気にとられる面々の眼前で、彼はおもむろに言った。
『ゲームは1日1時間っ!』
ぶつっ。
画面が消えた。
「……あああああっ、こんなはずではっ」
その場にorzで突っ伏すクラヴィエ。
「侍従としての切実な訴えが代弁されただけだったな」
「なによなによなによこのハゲチャビンはっ! えっらそうなこと言っちゃって〜! もうあんたの時代は終わったのよっ! これからは毛▲名人の時代なのよっ! ロートルカリスマはとっとと冒険島に帰って16連射でスイカでも割ってなさいっ! テ★東の街頭インタビューにでも無駄にひっかかってなさいっ!」
「今でも根強いファンが多いんだから失礼なことを言うなああっ!!」
対象層がピンポイントな罵倒の横で、クラヴィエが何やら覚悟を決めている。
「かっ、かくなる上はこのスペシャル他爆ボタンでもって、悪魔の機械ことプレ$テ2はおろかS○E本社及び超弩級次世代機の命運までみんなまとめてゲームオーバーにっ……」
「業界全体が大混乱するからやめろコラっ!」
げしっ!
思わず蹴りをくれてしまった。
「はうぅぅぅぅっ!」
面白い悲鳴と共に、畳をごろごろと転がっていくクラヴィエ。
姫と同様のルートでそのままばちゃーんと壁にぶつかり、
「言うことな〜す……」
ぷ△ぷ△っぽい負けボイスを放ち、それきり目を回してしまった。
「おまえら、よく転がるなあ」
両方とも体重が軽いからだろうけど。
「ちょっとコペケバどうしてくれるのよっ! クラヴィエがいないとまともに操作できないじゃないっ!」
「だからもうやめろって言ってるの」
「こんなところで逃げ出したら王族の沽券に関わるわっ」
「王族がいつまでもダラダラゲームしてないでとっととやめろ」
「やめないやめないやめないやめないやめないやめないやめないやめないやめないやめないやめないやめないやめないやめないやめないったらやめないもんっ!」
「………」
小さな子供がいるお母さんの気持ちになってきた。
つーか、さっき楽隠居した高◎名人を冒険島から呼び戻して、このクソガキの経絡秘孔を十六連射してもらいたい。
「ホントにいい加減にしろ、どうせヘタクソなんだからさ……」
ちょろっとそう言った時。
ぴきっと、部屋の空気が凍りついたのがわかった。
「だっ、だれがヘタクソよおおおっ!!!」
この一言が、チビ姫の闘争本能に火をつけてしまったらしい。
「にゃあああああ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
渾身の力を込めたキックの連打!
「こうしてくれるこうしてくれるこうしてくれるっ!」
バキベキボキっ!!
「ちょっやめろっ! その辺にあった罪もないCDケースを踏むなああああっ!!」
「だいたいこのゲームってあんたたち触手用じゃないのよ! 我が大文化娯楽室にもともとあったゲームはどうしたのよっ、どこにやっちゃったのよっ!!」
「だからそんなこと俺に言われても……」
「そもそもこーんなボタン押したら走るとか光線銃撃つとかいう操作体系が間違ってるのよ! まったくもってリアルじゃないわよっ! 実際問題ありえないわよっ!」
「いや、そこにいちいちツッコまれても……」
「これからのゲームに必要なのは臨場感よ! 没入感覚よ! 時代はサイバーパンクよ! バーチャルリアリティーよ! バーチャルアイドルよ! 伊達▲子DK−96よっ!」
「どうでもいいけど、おまえも香ばしい時代から喩えを引っ張ってくるなあ」
「ご託はいいからこのわたしが快適かつ華麗かつまるでゲーム画面の中に入っちゃったかのようにのめり込んでプレイできる環境を今すぐ整えなさいっ!!」
「お話は聞かせていただきました、魔王さま(はぁと)」
いつの間にか現れた巫女ティティが、チビ姫のめっちゃ耳元で言った。
「うひゃああぁぁあああああんっっ!!」
無駄に色っぽい悲鳴をあげ、悶絶するチビ姫。
「みっ、耳に息吹き掛けないでよっ!」
「ああっ、相も変わらぬ可愛らしいお耳たぶ……」
はぐっ。
「やああんっ噛むなああっ!」
れろれろれろ……
「にゃああああっっ舐めるなあぁあぁあっっ!」
話が別の意味でマニアックな方向に行きそうなので、ここらで引き戻すことにする。
「で、なにを聞いてたって?」
「あっはい、そうでした」
俺が言うなり、顔を真っ赤にしてチビ姫から離れた。ちゃんと理性保っていてくれるなら、素直で可愛い娘なんだけど。
着物をきちんと整え直し、その場にちょこんと正座すると、改めてこう言った。
「魔王さまにおかれましては、たいそうお困りのご様子。どうぞこのティティにお任せくださいませ」
……なにやらろくでもない予感がした。
〜つづく〜
文・涼元悠一(アクアプラス)
イラスト・いとうのいぢ
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